13 始まり
翌日の朝8時。
拓馬は毎朝続けているランニングを終え、シャワーを浴びて大学へと向かう。
新学期2日目の今日の講義は、午前の1限、その後少し時間が空いて午後から3限と4限だ。
「あ、佑おはよー」
「おはよう」
大学の門の前で見かけた佑に声を掛けると、挨拶を返してきた。
一晩で気分は改善されたようで、顔色もだいぶ良くなっているように見える。
拓馬は内心ほっと胸を撫で下ろし、隣に並んだ。
2人は学科は違うが、今期も選択科目以外は一緒の講義を取っている。
昨日会った和樹と歩の2人も、今日は一緒に講義を受けようという話になっていた。
「今日1限総論だってよ。資料もなしに教授が淡々と喋る講義らしくて、結構眠そうなんだよなぁ」
「総論ってテスト大変なやつだろ?どっから来るか分かんない拓馬情報によれば」
「今回はサッカー部の先輩からの情報な。そうなんだよ、ちゃんと受けとかないとなー。資料ないから聞き逃したら終わるし、俺がやばそうだったら起こしてよ」
「そんな事言っときながら、ちゃんと毎回真面目に受けるじゃん」
「まあねー」
おどけてへらりと笑って言えば、佑からは呆れたように返される。
このやり取りもいつも通りで、拓馬は少しばかり安心する。
「ま、先輩情報では内容は面白いって人もいたから頑張るけどさっ」
「この教授は喋るの早いから、聞き逃しそうで怖いのはあるかな。その時はよろしく」
「ま、お互い手は抜かないだろーし、テスト前に補填し合えばいーんじゃん?」
「そうだね」
2人はそのまま話しながら、講義室へと向かう。
総論は受講人数が多いため、前日と同じ大講義室での講義形式の授業だ。
講義室真ん中辺りの段の端の方の席をとり、授業開始を待っていると、歩と和樹が講義室に入ってくる。
佑と拓馬の姿を見つけると、歩が嬉しそうに跳ねながら手を振った。
「拓馬、佑、おはようっ!」
「歩おはよー、カズもおはよっ」
「おはよう」
「おはよ」
そのまま拓馬の前に和樹、佑の前に歩が座る。
拓馬は佑に何か言いたげな和樹の肩を叩き、そっと耳打ちをした。
「昨日のこと蒸し返すのはやめときなね?佑はそんなに引きずってないみたいだから気にすんなよ」
「あ…あぁ、そうか。分かった」
佑は自分の事であるとは解っていないようで、歩もちらっと2人の顔色を窺うが口は出してこない。
和樹は小さく息を吐くと、佑に話し掛けるのはやめて講義の受講準備を始める。
暫くするとチャイムが鳴り、前期最初の講義が始まった。
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