日常と親友

カエデ

東雲の日常

朝私は煩いセミの声で目が覚めた。二度寝しようにもセミが私を寝かせてくれない。まるで私に健康的な生活をしろと言わんばかりの五月蝿さだ。残り僅かな夏休みなんだからこれくらい許してくれてもいいじゃないかと思いながら徐にベッドから立ち上がる。寝ている時は気づかなかったが思った以上に汗をかいている。このままだと気持ち悪いのでシャワーを浴びていると脱衣所に置いていたスマホがなっていることに気づいた。浴室から出て電話に出ると親友の小夜からだった。

「やっほー!!東雲ちゃん」と 元気な声がスマホから聞こえてくる。

「早起きだね。どうしたの?」

「もうお昼前だよ!?それより今日遊ばない?」

時計を見るともう11時半を回っていた。私は遊ばないと言って電話を切った。こんな暑い日に外に出るなんて頭がどうにかなってしまう。こういう日は引きこもるのが1番だ。そう思いながら再びベッドに横になってスマホをいじる。この時間が永遠に続けばどれだけいいだろうか。そう思いながら小一時間程こうしているとピンポーンとチャイムがなった。そっとドアを開けるとさっき断ったはずの小夜がいた。

「やっほー!!暇だから来ちゃった」

その五月蝿いほどに元気な声を聞きながら私はユートピアが崩れ落ちる音を聞いた。

「なんでいるの?」と聞くと

「暇だからだよ」と返された。まるで回答になっていない。

この暑さの中追い返す訳にもいかないのでひとまず家に居れることにした。

「おっじゃましまーす」

本当におじゃまだ。

「私今日遊ばないって言ったじゃん」

気だるげに言うと

「だって暇だったんだもん」と返された。

さすがにワンルームに二人は狭すぎる。

「そういえば東雲ちゃん課題終わった?」

「そんなのあったね」と言いながら鞄の中に眠っている教科書たちを指さす。

「夏休みあと二日しかないよ!?」

最悪だ。夏休みが終わるなんて思い出したくもなかった。永遠に続けばいいのに…

「私頭いいから一日あれば終わるもん」

そういうと小夜は

「ほんとにその頭羨ましいよー!」と嘆いていた。

「まぁ小夜は勉強するのにおばかだもんね」と言いながらそのせいで退屈なんだよなぁと思う。

そんな他愛のない話をしていると小夜が

「この家狭いから出かけようよ!」と言い出した。

お前のせいで狭いんだよ!!「暑いからやだ」と言ったがあいつは聞いていない。人のタンスを勝手に開けて下着姿の私に服を着せようとしてくる。こうなればもうなすがままだ。十数分後には私は外に連れ出されていた。化粧も髪もバッチリの状態で。本当にどんな早業なんだ…

「どこに行こっか?映画館でいいよね」と聞いてくる。

「嫌だけど。映画は展開がすぐに分かっちゃって退屈だし。」というか帰りたい。

「え!?もうチケット取っちゃった」もう訳が分からない。一体いつ取ったんだよ

「東雲ちゃんとこに行く途中に取っちゃったんだよね〜。木曜で安かったし」

「はぁ…じゃあ行こっか」はなから私に選択肢なんてなかったのだ。

何を観るのか聞いても「秘密〜」と教えてくれなかった。映画館に到着すると「時間あるからお昼食べよう!」と向かいにあるラーメン屋に入ろうとしている。私は慌てて小夜の手をとって止める。こんな茹だるような暑さに当てられて死にかけているのにラーメンなんて食べれるわけが無い。すると「あ!ごめん気分じゃなかったよね」と言いながら隣の焼肉屋に入ってしまった。本当に最悪だ。だが入ってしまった以上少しは食べよう。お昼抜きなんてのはごめんだ。「適当に注文するね!」と注文を始めた。しばらくすると肉が運ばれてきた。肉の種類を見るとホルモン、バラと脂っこい肉ばかりだった。

「脂の少ない肉は頼んでないの?」届いたコーラを飲みながら尋ねる。

「あとで頼むよ〜」と言いながら肉を焼き始めている。

脂が溶けているのをみて私まで溶けてしまいそうになる。いや、もしかしたらどこかしら溶けているかもしれない。そんなことを考えていると「焼けたよ〜」と私の取り皿に肉を入れてきた。私は「脂が少ない部位がいいからあとでいいよ」と言うと「そっか!」と言ってパクパク食べ始めた。少なくとも五皿は頼んでいたのにもうほとんど食べてしまっている。一体この華奢な身体のどこに入っているのだろうか。

「じゃあ脂の少ないとこ頼むね〜!」と最後のホルモンを食べながら注文している。

「少しでいいよ」

「たくさん食べないと痩せすぎて消えてなくなっちゃうよ!」と言いながら先程よりも多い量を注文している。また変なことを言っている。

結局私は肉を数枚食べてギブアップしてしまった。他は全て小夜の胃袋に収まってしまった。その上アイスも食べている。本当になんてやつだ。

「私ばっかり食べたからここは私が出すね」と全額出してくれた。なぜこういう所は気遣いできるのに普段はああなのだろう。店を出ると「あっ!!時間がやばい!」と私の手を引いてスタスタと映画館に入って行く。一体何を観せられるのだろうと少し気になりながら本編の前の広告を観る。本編が始まって私は唖然とした。始まった映画はバイオハザードだった。しかも再上映。ゾンビが虐殺されるだけのグロテスクなものの何が面白いのだろうか。私にはまるで理解できない。映画が終わる頃には私の体力は残っていなかった。

「なんでよりにもよってバイオハザードなの」と言いながら小夜方を見ると小夜はボロボロと泣きながら涙をハンカチで拭っていた。

「どうしたの!?」

「感動した〜!!」と涙声で返ってきた。

「え…どの辺が??」こいつの感性はどうなっているのだろうか。

「人類がみんなで団結してて…」この後は嗚咽で何を言っているのか聞き取れなかったがまるで意味が分からない。

映画館を出てもまだ泣いている。しょうがないので近くのベンチに座る。数分座っているとやっと泣き止んだ。

「なんでわざわざ再上映のバイオハザード選んだの?」さっき聞けなかったことを改めて聞き返す。

「だって観たかったんだもん」言うと思った…

「私一回見たことあったんだけど」

「私も〜!奇遇だね」さっき思ったことはナシだ。やっぱり理解出来ない。

そういえば映画代を払っていない。私が映画代を渡そうとすると小夜は、「私ばっかり楽しんでるからお金はいいよ〜」と断られてしまった。「お昼も出して貰ったんだから申し訳ないよ」と渡そうとすると

「だって東雲ちゃん楽しくなかったでしょ?」と断られた。

「そんなこと…!」私は驚きながら否定しようとすると小夜の声に遮られた。

「相手のこと考えずに自分だけ楽しもうとしちゃうからみんなあんまり遊んでくれないんだよね〜!」言い終わる前におどけたようにこう返された。

「私は小夜と一緒にいて楽しいの!!だからそんな事言わないで!!」自分でもびっくりするくらいの大声が出てしまった。

蝉の声が一斉に静かになった。小夜も驚いている様子でこっちを見ている。恥ずかしい。しかし直ぐに

「へぇ〜私といて楽しいんだ〜」とニヤニヤしながら言ってきた。

「うん」私は少し俯きながら呟く。

「だったら今日東雲ちゃんの家に泊まっていいよね?」は?なんでそうなるんだ。

「意味が分からないんだけど」

「だって一緒にいて楽しいんでしょ?疲れちゃったから早く帰ろうよ」なんてやつだ。人の意見なんて全く聞いちゃいない。

「いや、私課題あるし嫌だけど」こんなことを言ってももう手遅れだろう

「観察しとくから大丈夫!!」そう言って私の家の方に歩き始めてしまった。やっぱり訳の分からないやつだ。でも付け上がらせちゃいけないことだけは今回ではっきりわかった。家に着くと勝手にキッチンを漁ってカップラーメンを二つ取り出しながら「東雲ちゃんも食べるよね」なんて言っている。「いや、私は…」もう二つとも空けてしまっている。手遅れだ。まぁ小夜が居ないとカップ麺なんて食べないからたまには良しとするか。

「小夜ってさ、名前と性格全く一致してないよね」お湯が湧くのを待っている間そんなことを言ってみる。

「そんなことないよ!?どの辺が!?」本気でそう思っているようだ。

「だって夜って静かなのに小夜はうるさいじゃん」

「夜が一番賑やかじゃん!!何言ってるの」またわけが分からないことを言っている。

「どの辺が賑やかなの?」

「例えば…ほら、ホストとか…」やっぱり分かり合えないかもしれない。


「あ、他にもキャバクラ!!あと…酔っ払い!!」こいつはそれでいいのか…

「なるほどね」理解することを諦めよう。

そうこうしているとお湯が沸いたのでカップ麺を食べることにした。小夜の話を聞きながら食べていたらこんなことを言われた。

「でも東雲ちゃんは名前と性格合ってるよね〜」は?どこがだ。

「爽楽って名前のどこが私に合ってるの?」少なくとも爽やかではないし基本私は退屈している。

「だって東雲ちゃんいつも楽しそうじゃん」!?こんなことは初めて言われた。

「確かに小夜といる時は楽しい」つい口からこぼれてしまった。やってしまった。横を見るとニヤニヤしながらこっちを見ている。最悪だ。「ほら、麺伸びちゃうから食べよ」そう言って私は再度カップ麺に手をつける。数口食べた後に隣を見るともう半分ほど麺がなくなっているようだった。本当にどうなっているんだこいつ。早々に食べ終わると「お風呂借りるね〜!!」と私の家に置いてあった着替えを持って浴室に行ってしまった。しばらくして私も食べ終わったので課題をしようと眠っていた教科書を取り出す。しばらく課題をしていると小夜が浴室から出てきたのでシャワーを浴びる準備をする。準備をしていると小夜が「もうこんなに終わったの!?」と素っ頓狂な声を上げている。相変わらずうるさいやつだ。「私頭いいから」そう残して浴室に行く。シャワーを浴びながら頭がいいのも満更では無いな、なんて思う。シャワーを浴び終えたので課題を再開していると小夜が横から課題をしているのをずっと見てきた。結局小夜は寝落ちするまでずっと見ていた。本当に変なやつだ。翌朝私はうるさいほどの蝉の鳴き声で目を覚ました。どうやら寝落ちしてしまったようだ。だが課題を確認するとしっかり終わっている。さすが私だ。その時ちょうど小夜も目を覚ましたようだ。寝ぼけた声で「おはよう」なんて言ってくる。私も「おはよう」と返す。そういえば今日は蝉の声が煩わしくはなかったなとふと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る