第13話 新と静の馴れ初め

今日は大恩寺で夏祭りが行われる


アブラゼミが忙しなく鳴く夏の暑い日


時緒も出店を許可され出店で焼き菓子を売る準備を進めていた



大手デパートの店の方は焼き菓子と日持ちの効くパウンドケーキを前日から用意して売り切れたら店じまいするようにバイトリーダーに頼んでいた


一通り準備を終えると叔母の新がやって来た


「頑張ってるわね〜そろそろ休憩とりましょ♪」


お茶と父東吾の作った蕎麦ぼうろを食べながら雑談をする2人の元へ大恩寺静もやって来た


「楽しそうだね!私も一緒に良いかな?」



「静伯父さま…そう言えば新伯母さんとは幼馴染なんでしょ?今日こそは馴れ初め聞かせてもらうわ」


「わかったわ…あれは今日みたいに夏の暑い日だったわ」



新は思い出話を始めた



○○○○○○○


あれは新がまだ幼い頃…幼稚園の年長の夏祭りの日


父と弟と共に賑わって居る大恩寺の境内に来ていた


その頃、母は産まれて間もない妹の麦の面倒を見ていたので家で留守番していた


沢山の出店を前にはしゃぐ新と東吾


わたあめ、焼きそば、たこ焼き、お面屋さんにヨーヨー釣りに金魚すくいなど目を引くもので溢れかえっていた


「おねえちゃん〜お父さんと手ェ繋がないとはぐれちゃうよ!」


弟の忠告する声がしたけど新は知らぬ存ぜぬどこ吹く風で動き回っていた


しばらくすると聞こえていた弟の声が聞こえなくなった


ハッと我に帰ると新は神社の裏の森の中に迷い込んでいた



(え?どうしよう…東吾があんなに言ってたのに…真っ暗で何も見えなくなっちゃった)


後悔しても辺りは真っ暗で音一つしない静まり返った空間に新は恐怖を覚えた


不安が身体中を駆け巡り声を上げても静寂が包み込んで木のざわめきでかき消されてしまった


泣きそうな新は後ろから不意に声をかけられた


「こんな所に1人でいると危ないよ…もしかして迷子になったの?」


飛び上がりそうなほど驚いた新が恐る恐る後ろを振り向くとそこには狐のお面を被った同い年くらいの少年が立っていた


怯える新に少年はお面をずらして素顔を見せて話しかけた


「お祭りに来てたんだよね?こっちだよ!僕がお寺まで連れて行くからそんなに怯えなくて良いから」


少年は新の手を握ると大恩寺まで連れて行ってくれた


迷子になった新を探す父と弟の姿を見つけた


「あの人が君のお父さんと弟?」


新は頷いた


「じゃあ僕はここで…見つかって良かったね!」


少年はそう言うと人混みの中に消えていった


その日の出来事は新にとって夢を見ていたような気分だった


あの少年は何者なのか…わからないままろくにお礼も言えなかった事が気にかかっていた


そして翌年の春…新は小学生になった


あの日の事がずっと忘れられずにモヤモヤした気持ちを抱えていた


自分がこれから学ぶ教室に入った新は息を飲んだ


何故なら教室の中に夏祭りで出会ったあの少年を見つけたからだった


恐る恐る少年に近づくと新に気づいた彼は声をかけてきた


「君は夏祭りで迷子になった子じゃないか…」


新の事を覚えていてくれたことに喜びを感じると共に夢では無かったことを実感するとお礼を言った


「あの時はありがとう…お礼が言えなくてごめんね…えっと」


「良いんだよ…あ?僕の名前?大恩寺静だよ。君の名前は?」


「私は葛城新よ…よろしくね」


それからはクラスメイトとして一緒に勉強に励みお互いの家に行き来する仲になった2人は親睦を深めていった


クラスが離れてもずっと互いの家を行き来して仲を深めていった


そしていつしか公認の恋人同士になっていった


静はお寺の跡取りとして学校の勉強以外でお寺の修行も欠かさずこなしていた


そんな静に新は差し入れを持って行ったりしていた


お寺の住職である静の父も2人の事を温かい目で見守っていた。もちろん新の父である亜斗夢も…


そして静がお寺を継ぐ決意をした時に新にプロポーズしたのだった


その言葉は普通に「俺と結婚してこれからも側で支えて欲しい」だった



「その後の事は時緒も知っての通りだよ」


そう静は付け加えた



「父上!そろそろお時間でございます!お経を上げませんと…」


静を呼びに息子の悟と楽がやって来た


そして時緒を見つけると嬉しそうに声をかけた


「来てたんだね時緒…お祭りの準備そろそろ再開しなくて良いのかい?」


それを聞いた時緒はしまったと思った


「話聞くのに夢中になりすぎたわ!じゃあまた後でね!」


そう言い残して部屋から出て行った


その姿を見送る4人は可笑しくて笑い合う


「全く時緒らしいね!と言う事は僕達が父上を呼びに来て正解だったみたいだね」


「ええ…お祭りが上手く行くようにしないとね!貴方達は時緒の出店の手伝いをしなさい」


母からそれを聞いた悟と楽は嬉しそうな顔になり時緒の後を追うのだった



「あの子達にもたまには息抜きさせないと…ね?」


そう言って静と新は笑顔を交わして寺の職務をこなす為に本堂へ向かうのであった



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