2話だよ
▽部室棟2階プラロボ部▽
「コンテスト用に作ってはみたものの……俺は何かプラロボに対して見失っていたのか……」
「なぁどうなんだ、インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉」
「たしかにお前、背荷物その大荷物がイカしてないよな……今は蟹だけど」
シラガの生徒がじっと見つめる先にあるのは、あの御大層な透明ケースの土盛り、地上戦場にガニ股でバランスを取り後部のフルパックから多脚を下ろす、ぶっ刺す────────
インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉:
短編アニメ全4話漫画版12巻、グランドSIDEマーキュリーに登場する主人公のライバル機。
その名をインフィニットホーク。
最初は黒くてひょろいスピード重視の機体だったんだけどな、若いパイロットの男もスピードスターのエリートって言われていたり……。
インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉、主人公の機体マーキュリーに幾度も挑んだインフィニットホークのこれまでの全武装を載せた幻の最終決戦仕様だ。
そう幻……こいつは実は間に合っていない全くの架空の存在こいつで主人公と戦うことすら無かったのだ、本編ではインフィニットホーク金剛夜叉というもうちょっとだけはスマートな機体だったな、それでもゴツかったり。
俺としては何度も主人公にしつこく挑むエリートが機体でどうこう積極的に改造したり自分でも改造案の意見出しちゃったり何故か寺で精神修行したりしてエースパイロット、ライバルまで上り詰めるってのは嫌いじゃないけど、ちょっと主人公のマーキュリーじゃなくて悪役側の設定とか過去の方が多いのがどうなのかなと思う。漫画版ではこいつが完全に主人公みたいだったな……。そういうファンからの要望が多かったんだろう。
まぁ主人公の才能と最強の機体に挑んだ成れの果てとも言えるし、その死に様嫌いではないな!
110分の1サイズのこいつのお値段は……想像にお任せしよう。(パーツがめっちゃ多い……3日コースは覚悟してね)
「そういうツギハギのドラマを知っているとコンテスト用の見栄えだけどコンテスト度外視で魅力的に見えたんだよなぁ、そのときは……今はさ蟹だもん。でもインフィニットホークのエリートのパイロットさんは腕が、じゃなくて脚が増えて喜んで乗り込んでいそうな気がするな、あの金髪マンなんでも乗るからなハハハハ、そう思うとまた笑えて来るぜ」
ひとり妄想を膨らませ思い出し部室で笑っていると────ガチャリ。
「失礼しまーす」
「んぎっ!?」
「んぎっ? なにそれしょっぱなはきもいんだけど……」
「な、なんでも……ってなんできたああああ!」
そこにいるのは、もうすでにドアを開けっぱで閉めずのスタイル、そのエリアのナカにいるのは。
青い瞳のちょっとだけ周りよりスカートの短い女子高生。
1年2組佐伯海魅。
放課後16時に現れた部外者の一般生徒であった。
突如の彼女の登場に驚いた銀河はドアの方の彼女の方を向きなかなかのボリュームで普通の驚きのセリフを発した。
それに対して口を真一文字にシメ、左肩に提げていたスクールバッグからごそごそそそくさと取り出して近付いて手渡した。
「ん」
「あぁ?」
「ん、これ」
「これは……」
受け取った灰色の包みと白いリボン結び。の両手で支えるほどの軽いおもさの長方形。
「入部届」
「にゅ、入部とっどけえええええええええええええええええええええええええええ」
それが彼女の一歩下がって腰に両手を当てた、入部届。
▼
▽
「馬鹿かお前このプレゼントラッピングの中身が入部届なわけないだろ」
「じゃあなんだと思うの」
これが単純な入部届なわけがない、そんな事は分かっていて、中身を揺らし振りそうになったがそれはイケナイことだと思い出し冷静にやめた。
手に持ってみた既視感のあるサイズ感と重み、これが俺へのプレゼントなわけもなく……。
これはこいつの選んだ────
「なんだって、プラロボ130分の1サイズだよな」
「サイズまではきもっ」
そう冷静に彼女の顔を見てスマートに答えたところ、ノーマルな顔の彼女からすぐさま返ってきた一言。
ひそかにその女子は半歩左足を後ずさっている。
「おいっ! てたしかにちょっと一般人はやめてたかも……いやプラロボ好きなら普通だろ」
「ふっ、わかっちゃうなんてまぁさっすがオタ……プラロボ部じゃん」
くすりと鼻で笑い両腕を前に組んで佐伯海魅は堂々としている。
何はともあれけなされた後に褒められてしまった俺は些事には噛みつかず。
「なんか聞こえたけど聞こえなかったことにしよう……そいつぁどうも。ところでさ」
「なに」
「なにってぇ、ナゾラッピングされてる分めっちゃ気になんだけど……」
「なにが」
さっきの、なに、と彼女は全く同じノーマルな顔をするので。
「仮にもここの部長と会話する気あるか……なにってそりゃ中身だよ」
特に怒らずに少しだけ呆れて次に進むためにまた聞いた。
気になる中身があるし、怒っている場合でもなく今相手しているこいつにそういう感情も全然沸き上がってこなかった。
とてつもなく気になるのは────中身。
「ふんふーん、開けてみれば」
「いいのか!」
「どぞー」
「うおおおおじゃさっそく!」
こいつなんで私のでそんなにぴんぴんに盛り上がってんの……ちょっとおもしろいかも。
こいつがナニを選んだのかめっちゃ気になる! 今この同じカモコウに通う女子高生の選ぶ最高の1機が明らかになる!
うおおおおおおおおお!!!
「うおおおおおおおおお」
しゅるしゅると白い紐を慣れないながらも解き、叫んではいるものの動作はゆっくり丁寧にグレーの包装を破かず開いていく。
そんな作業台で下を向いてやっている彼のチグハグな様を、佐伯海魅は苦笑い微笑い。
ついに────彼女の知っている中身と彼の知らない中身が────────
「おおおおお……え、これは! ん? ふぇ、フェアリーナイト……!」
それを見た瞬間に青年の視界思考はおどろきに満ちた。
まさかフェアリーナイトを最初の最高の1機に選ぶとは……。
顎に手をやりその白い機体、鮮やかに光るエメラルドの羽の機体の130分の1サイズの表パッケージをじーーっと……。
叫んでいたのが一転、黙りこくり何かを真剣に考えている彼の様子に。
「そうだけど。な、なに?」
フェアリーナイト:
大昔のゲームグランドRPG外伝シリーズに出て来る子だ、つい最近のプラロボブームのファン投票でプラロボになった1機なんだよな。古いのは元よりあったんだけど刷新で。
それで選んだのかな? まぁ新しいし見た目はまさにフェアリーだし女子が選ぶのはあり得るか、しかし見栄え良く新しくなったとはいえまさかこのゲームでしかも古いがゆえにマニアックなヤツが若者に選ばれるとは。
し、しかもフェアリーナイトはリバーシの……バカな……。
素人のこいつがソレをわかってて…………。
「バカな……」
ぼそり、長いこと待たせた上に出てきた一言はどんな台詞が出てくるか期待し待っていた海魅の耳にたしかに届き、
「はぁあ!? バカぁ!? それっおすす!!!」
「いや、すまないちょっと感動して」
「え、きも……」
「フェアリーナっ──え、きも?」
この間なんとも高速のやり取りで、短い言葉の応酬で、
目まぐるしく変わった表情と声色と感情と。
とある店長おすすめの130分の1のフェアリーナイトな入部届が、リバーシを愛機とする浦島銀河に届けられたのは……目の前のブルーガーネットの瞳を持つ美しく可愛らしいプラロボ界に迷い込んだ妖精の知らないところだったのかもしれない。
灰と白のツートンラッピングまで施されたこれ以上ない入部届に部長の心は黒い瞳にまで震えた。
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