第88話

 ネルソンを葬り、デュランの事を考えてる俺の目の前に、突然魔法陣が展開されローブ姿の男が現れる。


 一気に俺とネロに緊張が走る。


「あんた誰だ?」


「ゲイル気を付けろ、そいつは……」


 ネロが言葉を告げる前に、男は一礼すると自ら名乗った。


「わたくしは、ラー・ブレスカ様の御使い。ゲイル様はお初にお目に掛かる。ネロ様におかれてはご機嫌麗しくなによりの事」


「皮肉か」


 ネロは敵意むき出してローブの男から目を逸らさない。


「いえいえ、本当に我が主ラー・ブレスカ様共々、ご復活喜び申し上げているのです」


「ふん。わらわを封じし裏切り者共の一人。ハイ・エルフの長が今は老いぼれ竜の小間使いとはな、いつから誇り高いエルフ族は竜族の下に付いた」


「いえいえ、ラー・ブレスカ様の御使いになったのは私の意思。他のエルフ族は関係ありません」


 深くフードを被った男はネロを前に落ち着いた様子で話している。

 言葉からするとネロを封印した一人ということだが、ネロの報復を恐れている様子は感じられない。


「それで、ご要件は?」


 当然考えられるのはネロの再封印。

 たがそうなれば俺はネロと共に抗うつもりだ。


 それが古の調停者たる神竜ラー・ブレスカであろうとも。


 ちなみにラー・ブレスカについての情報は息子であるラー・カイラルが気前よく教えてくれた。

 そこで無闇に争いを好まない事も話を聞いて知った。


 ただ、そんな平和主義者だからこそ疑問は残る。なぜネロが封印されなければならなかったのかと。


「我が主が直接会って話がしたいと」


 俺の問に御使いのエルフが答える。

 ネロは警戒をとかないまま俺の隣にまで来ると耳元で囁く。


「やっちまうか」


 ネロとしては裏切り者を始末したいのだろう。

 俺としてもラー・ブレスカとの遺恨は断ち切りたい。

 だが神同士の抗争も正直気が進まない。


 それに息子であるラー・カイラルの言葉が事実ならまだ話し合う余地はあるのではないかと感じられた。

 ネロとしては不満だろうが、俺は一度会って話がしてみたいとネロに告げた。


「……分かった。ゲイルがそう言うなら、わらわも提案に乗ってやる」


「そうてすか。では早速転移させて頂きますが宜しいですか?」


 御使いエルフが最終確認を取る。

 俺とネロはそれに頷く。


「では、行きます」


 御使いのその言葉と共に俺とネロは転移魔法に呑まれた。





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