第41話 アジト⑥お魚欲しい

 あ、ヨモギ。

 今日は野菜をいっぱいもらったから摘む必要はないんだけど、食べたいので摘んでおく。いつか食べよう。ヨモギはお餅とかでも食べたいなー。

 ドクダミもそこかしこに根を蔓延らせ、存在を誇っている。お茶にできるけど、独特すぎて子供の口には合わないか。あ、でも化粧水とかにもなるし。いずれ使うかも。摘んでいこう。わたしがドクダミを採っていると、クリスとベルンも手伝ってくれた。


 もらった野菜にはジャガモやニンジンがあったので、これをアジトの近くの畑になり損なった畑に蒔いてみよう。少しでも作物が育てばお腹の足しになるものね。あと、足が早い野菜は乾燥させちゃおう。栄養価も高くなる。


 丈夫そうな蔓や枯れた蔓、細いしなやかな蔓など、長さをなるべく揃えてナイフで切って頂戴しておく。


「それは何にするの?」


「網とかカゴとかザルとか作れたらいいと思って」


「網って、昨日のえびとったやつ?」


「そうそう。水は通して、えびは通さない適度に荒い網がいいね。あと、魚も獲れるといいんだけどね」


 釣りはやったことないから、わからないんだよね。


「そっか釣る必要無いのか。仕掛けで追い込めばいいんだ」


「何が?」


 声に出していたみたいで、クリスに尋ねられた。


「魚をとるいい方法がないかな、と思って」


 仕掛けか。

 メダカを捕まえようとかいって、ペットボトルを使って仕掛けを作ってた、テレビ番組見たことあるな。

 どんなふうだったっけ? 肝心なところが思い出せない。興味なかったからな。


「魚の習性を利用して、狭い口と。流れに逆らって泳いでるから。で、えさ?」


 だめだ、やっぱり思い出せない。


 育ち盛りには肉が必要だもんね。水を通す一方向だけ空いているツボみたいのを川底に置いておけば仕掛けになる気がする。でもその獲るための『水は通すツボ』を編むのはわたしの技術じゃ難しそうだな。


 クリスはそれから何かを考え込んでいた。

 わたしがメイと一緒に、野菜のスープをこしらえている間に、ナイフを貸してくれと言われた。小麦粉も少し分けてくれないかと言われたので、少し渡した。

 そしてどこからか竹のような木をいっぱい抱えてきて、何やら作り出した。ベルンと協力して、ふたりで相談しながら何かをしている。


 今日はニョッキにしよう。茹だっただろう丸ごと入れたジャガモをオタマで取り出す。深い木皿でジャガモを潰し小麦粉を入れてこねる。まな板として使っている板の上に、コロコロニョッキを丸め、最後に手をすり合わせるようにして棒状にする。メイにスプーンの背で角度をつけて斜めに厚さに差が出るよう潰してもらう。できたものからぽんぽんお鍋に放り込む。ジャガモニョッキの入った具沢山野菜スープ完成!


 ふたりに声をかけにいくと、なんと、魚を獲る仕掛けが完成していた。

 石を置き、竹なのかな? 筒状のものを緩やかに角度をつけて固定してある。そこにその両端に小麦粉を練ったもの、餌だね、これを置いて、竹の片方は出口から滑らせるようにし、板で作ったデッキの上にあがるようになっている。

 スゴイ。仕掛けを知らなくても、考えてできちゃうんだ。頭いい!

 と見ているうちに、筒に餌を食べにきた魚が板の上を目論見通りに滑り、デッキの上にジャンプする。

 すげー、魚獲れちゃった。ふたりは嬉しそうに手のひらをパチンと合わせた。


「どうする? 焼いてすぐ食べる?」


 ふたりは顔を見合わせて、同時に顔を横に振った。


「にーちゃんたちに、食べてもらいたい」


 そっかぁ。わたしはバッグから、小さなお鍋を取り出した。


「魚をここに入れて。持ち帰ろう」


 クリスがお鍋を受け取る。なんてしているうちに、もう一匹魚がデッキに飛び込んでくる。


「スゴイなぁ、ふたりは」


 あっという間に仕掛けを考えて、形にして、結果を出しちゃうんだから。


「ランディが言わなかったら、思いもしなかったよ。だからスゴイのはランディだ」


 川魚を入れたお鍋に魔法で水を入れておく。しばらく真水に入れておけば泥を吐き出してくれるだろう。


 みんなでお昼ご飯を食べる。ジャガモ味のニョッキの変わった食感にほっぺを押さえている。いちいち、かわいい。

 みんなで片付けてから、毛布マントを敷いてお昼寝タイム。

 野良仕事はやっぱ疲れるね。3人とも深く眠っている。



 その間に、わたしは考え事をしながらカゴを編む。蔓をお湯とかにつけて柔らかくするところが大事なんだよね。

 わたしは学生の時、長い休みの自由研究と名のつくものは、何かしら物を作ることで切り抜けてきた。藤のカゴを編んだことがある。チラシをこよりにして、カゴを編むのもやったな。出来栄えは、不器用なので酷いもので。家族にはそれを提出できる神経がわからないとよく言われた。

 だってしょうがないじゃん。どう頑張っても、わたしにできる最高はここまでなんだから。そして下手でもなんでも、やってみたかったのだ。そしてやってみた結果なのだから、それが人からしたらどうしようもないものに見えても、わたしは手間暇かけて作り上げたものなのだ。残念ではあるけれど。

 そんなことを思い出しながら編んだかごはやはり、不格好な出来栄えだ。これは材料を持ち帰り、器用な人にやってもらう方がいいかもね。これは見本で。


 3人を起こして、アジトへ帰る。水場のことを考えようと思いながら、疲れたので一眠りするつもりが、みんなが帰ってくるまでやはり眠ってしまった。

 起きた時には、本日の報告大会だ。



「頑張りすぎてないか? 大丈夫か?」


 尋ねてきたのはトーマスだ。


「わたしでもハードだから、3人にも大変だったかも」


 そこは反省点だ。


 トーマスが頭を撫でてくれる。


「来て1日目からチビたちの面倒見ながら、食料を調達してご飯も作って、キレイにして。お前本当にスゴイな」


「スゴイのはちびちゃんたちだよ。理解が早いし、器用に作り出すし。魚を獲る仕掛け考えたのクリスとベルンだよ」


 大きな伸びをする。

 みんなのご飯を作らなくては。


「あ、そうだ。みんな今まで洗濯物とかどうしてたの?」


「休息日に、川に服のまま入って、洗ってた」


「替えの服はないんだ?」


「兄貴たちの破けた古いのならあるけど」


「どこに?」


 それを持ってきてもらって、食器や洗濯するものを置く場所、洗ったキレイな衣類を置く場所が欲しくて、棚とかごが欲しいと思っていることを話す。全部今すぐどうにかしてって具合に欲しい訳ではなく、できたら欲しいから、どうやるのが一番手に入れやすいのか一緒に考えて欲しい旨を伝えた。わたしの作った下手くそなカゴも見本で見せた。


 トーマスの持ってきたお古はかなりの量だった。破れたりなんだりでそのまま着るのは難しいけれど、繕ったり、合体させたりすれば、なんとか人数分になりそうだった。そしたら洗濯の道筋が作れる。


 それから買ってきてくれたパンをいただき、値段のことを聞いてみる。かなり高かったので、今度は出来上がったパンを買うのではなく、そのお金で小麦粉を買ってきて欲しいと言ってみた。

 本当はお米とかあるといいんだけど。やはり小麦粉が一番慣れているだろうしね。あとはゆっくり、調味料など揃えていって、アジトで作って食べられるようになれば、少しは栄養状態も良くなるはず。


 クリスとベルンが獲った魚は、頭を落として3枚におろし、小麦粉をつけて、焼いた。5匹取れたので、ものすごくちっちゃいフライもどきは10個。それをみんなで半分こ。

 年少組が食べ物を持ってきたことで、しかも自分たちで獲ったとなると感動もひとしおみたいで、全員で喜んでいただいた。

 そんな感動的な中、わたしは脂身を使いきってしまったので、やっぱり油が欲しいと、ひとり違うことを考えていた。

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