第7話 絶体絶命

   アンファングは軽装歩兵と、敵重装歩兵を相手にかなり善戦していた。それはアンファング自身が強いこともあるが、その戦いぶりに影響されて軽装歩兵の士気が高まっていたのが一番の要因だった。敵からすれば、装備の薄い兵士が死を恐れずに突撃してくるのは恐怖でしかなかった。フランツはこの状況を見て、援護に向かうことにしたのだろう。

 フランツは重装騎兵を連れて、アンファングの右から突撃し、3方向から攻撃することを狙っていた。騎兵を連れて右に出ると

「この突撃で勝負を決める。私に続け。」と言いフランツを先頭に重装騎兵がアンファングを右側面から突撃した。アンファングはフランツの突撃に気づくと、ニヤッと笑った。するとフランツがアンファング軍にぶつかる寸前、最初に敵騎兵を追いかけた赤猪隊が、フランツの騎兵に側面から突撃した。これを見たフランツは

「速すぎる!」と驚いた。赤猪隊はフランツ軍の騎兵を撃破してなんとかフランツ軍の突撃に間に合わせたのだ。この突撃によりフランツの騎兵の勢いが止まり、そこを軽装歩兵が襲い掛かった。アンファングは

「ドミニクよくやった!」と叫びながらフランツに突っ込んでいった。

 フランツがアンファングの槍を躱すと

「お前が敵将か?」とアンファングが聞くとフランツが

「いかにも、私がサボジオ将軍フランツである。」と答えた。そして

「貴殿がクリスタ将軍アンファングか?」と聞くとアンファングは

「そうだ。そして今日お前が負ける相手だ!」と怒鳴り返した。

 アンファングとフランツが激しく槍を振り回し、赤猪隊と軽装歩兵が次々と敵騎兵を倒していくが、未だ重装歩兵と戦っている軽装歩兵は不利な状況だった。ドミニクは早く敵騎兵を撃破して、敵左翼に回り込んで重装歩兵の背後から突撃したかった。だが敵騎兵もフランツ直属とだけあって、すぐには撃破できなかった。実際、赤猪隊が敵騎兵と戦っている間にも味方の軽装歩兵の損害は増していった。そんな中、アルフォンス率いる重装騎兵もアンファング軍左翼に突撃を開始した。

 アルフォンスの重装騎兵は直属の精鋭だが、アンファング軍の左翼重装騎兵は、編制してすぐということもあり赤猪隊ほどの練度はない。今のところ味方重装騎兵と軽装歩兵で連携し、敵の精鋭相手に耐えてはいるが、すぐに撃破されてしまうのは誰の目にも明らかだった。

 アンファング軍右翼は赤猪隊の復帰によって何とか立て直す可能性があるが、左翼はすぐに撃破されてしまう。両軍中央の重装歩兵同士の戦いは拮抗しており、アンファング軍右翼が敵を突破できていない時点で斜線陣の特性を生かせないでいた。逆に、左翼騎兵が敵に到達する前に突撃されたため、少し後ろで戦っていた。このまま左翼騎兵が撃破されるとすぐに回り込まれるという危機的な状況になっていた。


   だがそんな時、サボジオ軍の背後から歓声が上がった。するとそこにはキューンハイト軍の姿があった。この出現に一番驚いたのはアルフォンスだった。

 アルフォンスは、アンファング軍を補足する前からキューンハイト軍がレイドにいるという情報を掴んでおり、常に兵士にレイドを見張らせていた。そのためキューンハイト軍がレイドを出るとすぐに気付けるはずだった。だがアルフォンスはキューンハイト軍の出撃に気付けていなかった。

 これにはキューンハイト軍参謀のアンムートの作戦が効いていた。アンムートは、サボジオ軍がレイドを見張っている可能性があることを考え、作戦を伝えられた時点で少しずつ軍をレイドから出していた。そこから6日後には、レイドから離れた場所で軍を集結させ、作戦決行のタイミングに合うようにケシンに向かった。そしてケシンに到着するとアンファング軍がいないことを確認すると、アンムートはアンファングが戦いの場に選びそうな平原を目指した。その結果、アンムートの予想が当たり、敵軍の背後に布陣することができたのだった。


   キューンハイトは布陣を完了すると

「俺の合図で全員叫べ。」と部下たちに指示を飛ばし、キューンあヒトが大剣を振り上げると兵士たちが歓声を上げた。敵兵がこれに気付くとキューンハイトが

「全軍突撃!」と大声で号令を掛け、キューンハイト軍全員が敵背後に襲い掛かった。敵の弓兵はこの突撃を見て士気が下がり四方八方に逃げ出した。それを見たアンファングは

「よし!」と叫ぶと

「アンファング軍!勝負は決した!全員勝利をその目で確かめるまで踏ん張れ!」と大声で激励した。

 実際、敵の弓兵が逃げ出したことによって、アンファング軍は矢の脅威がなくなり、かなりの損害を減らすことができ、逆に味方弓兵は健在なため一方的に敵の損害を増やすことができるようになった。

 重装歩兵は盾で、ある程度の矢から防御できるが、空から降ってくる無数の矢すべてを防御するのは陣形を組まない限り不可能である。そのような陣形を敵歩兵と戦っている中で組むのも不可能である。よって弓兵による攻撃は敵に損害を与え、士気を下げることもできる。それがキューンハイト軍によって排除され、アンファング軍の勢いは増した。

 そしてキューンハイト軍が敵背後に到達し、突撃していくと敵は一気に蹴散らされ、そのまますり潰されていった。この状況を見たアルフォンスは苦い顔をしながら

「全軍撤退!」と号令を掛け、サボジオ軍は散り散りに敗走した。

 これによりクリスタ軍は、多くの犠牲を出したがサボジオ軍に大打撃を与え、勝利した。

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