第6話 アルフォンス・フランツ連合軍

   キューンハイト軍の動員を決定した6日後の朝、ケシンで訓練していたアンファング軍に次の作戦内容が伝えられた。アンファングはその日の訓練を中止し、兵たちを休ませた。キューンハイト軍にも5日前に作戦が伝えられており、すでにレイドで待機していた。

 翌朝、アンファング軍はケシン攻略のためカミレを出撃した。そして翌朝にはケシンの包囲を開始した。この時、敵軍がケシン防衛のために出撃してくる可能性が高かったため、アンファングは斥候による哨戒を怠らなかった。包囲が完了しかけたとき、アンファングのもとに報告が来た。

「報告、敵軍発見。北東からこちらに向けて行軍中、規模約4万こちらに到達まで約1時間。」この報告を聞くとアンファングはキューンハイト軍に救援要請を送り包囲を中止、南東のカミレ方向に行軍した。包囲を中止している間に敵軍との距離は縮まり、アンファング軍はケシン~カミレ間の平原に布陣した。敵軍もアンファング軍に追いつき同じく平原に布陣した。


   アンファング軍の布陣は前回と少し違い、前衛に重装歩兵、後衛に弓兵、両翼に重装騎兵、騎兵の両翼に軽装歩兵の配置である。アンファング軍からわかる敵軍の布陣はアンファング軍とほとんど同じだが、アンファングは後方に予備兵力の騎兵がいると予想していた。

 布陣が完了するとアンファングは兵士たちを激励した。

「敵軍は約4万。この2倍の軍を破ることは難しいことではない。単純な話だ、敵を2人倒せばいい。それだけのことで勝てる。そして俺たちはそれができるだけの練度がある。見かけに騙されるな、この程度で俺たちの勝利は揺るがない。全軍、前進せよ!」アンファングが号令を掛けると前回の戦い同様に、右翼の赤猪隊から順に斜線陣で前進していった。


   サボジオ軍では、左翼をフランツ、右翼をアルフォンスがそれぞれの軍を指揮していた。戦いが始まり、アンファングを先頭に赤猪隊が左翼に突撃してくるのを確認するとフランツは、

「左翼騎兵を左に移動。」と指示を出した。

 アンファングが敵に突撃していく中で、敵騎兵が右に移動するのを見るとアンファングは赤猪隊副隊長のドミニクに

「ドミニク、敵騎兵を追え!俺は全体の指揮を執る!」と指示を出すとドミニクは

「了解!赤猪隊、私に続け!」と叫び敵騎兵のほうへ向かった。赤猪隊と敵騎兵が右に逸れていき、アンファングは速度を落とし追従していた軽装歩兵と速度を合わせた。するとアドルフの前には、敵の重装歩兵が正面と左側に、騎兵が回り込めないように槍衾を作っていた。

 フランツは一度アンファング軍と戦った経験があり、前回の戦いぶりを見て斜線陣がアンファングの得意な戦術であることを見抜いていた。よって今度の戦いでは斜線陣の対策をしていた。アンファング軍の行う斜線陣の要はアンファング直属の赤猪隊であり、赤猪隊が敵戦線を突破することで敵を背後または側面から襲い挟撃することができる。そのためフランツは、赤猪隊を潰すために、左翼の重装歩兵を正面と側面から攻撃できるように配置してその前に騎兵を配置することでその布陣を隠していた。そして騎兵が左に移動すると槍衾で固めた重装歩兵が現れ、赤猪隊がそのまま突撃すれば大打撃を与えられ、騎兵を追ったとしても最初の衝撃を避けることができる。この布陣は数的有利であるからこそできるものだが、フランツ自身の機転も利いている。


   アンファングは敵の重装歩兵を見るとすぐに

「軽装歩兵!」と叫ぶと軽装歩兵が一斉に敵正面に槍を投げた。だが敵は槍衾で守りを固めているため、ほとんどが盾ではじかれた。だがアンファングは

「俺に続け!」と号令を掛けて敵正面に突撃し、軽装歩兵も剣を抜いて突撃した。

 このアンファングの突撃は凄まじく、敵の槍を躱して歩兵1人を槍で貫き、槍を抜き振り回し敵を吹き飛ばすと

「クリスタ将軍アンファングの首はここだ!手柄の欲しいものはかかってこい!」と叫んだ。それに続いて軽装歩兵も次々と敵に突撃する。だが、軽装歩兵と重装歩兵とではやはり厳しいものがあり、軽装歩兵が次々を倒れていく。それでも士気は衰えることことを知らず、勇猛果敢に敵に向かっていく。

 この状況を見たフランツは急いでアルフォンスのもとへ駆けていき

「アルフォンス、全軍の指揮を頼む。私は騎兵を連れて敵右翼を潰しに行く。」と言うとアルフォンスは

「騎兵を連れて行くなら、敵右翼よりも主力騎兵を先に潰したほうがいいと思うよ。せっかく孤立させてるし。」と助言するとフランツは

「いや、敵の将軍はここで殺しておいた方がいい。あの男は危険だ。」と言い騎兵を連れてアンファングのいる右翼に向かった。サボジオ軍の後方に待機していたのは予備ではなく、フランツとアルフォンスそれぞれの直属部隊であった。

アルフォンスはため息をついて

「そろそろ敵の左翼がこっちに到達する頃だね。僕も少し暴れさせてもらおうかな。」とつぶやくと後方で待機していた自分の騎兵を連れて

「右翼の騎兵と合流して敵左翼騎兵を叩いた後、敵を側面と後ろからすり潰すよ。」と説明して左翼の騎兵に合流した。そして

「騎兵!僕に続いて突撃!」と号令を掛け突撃していった。

 だがこの時、フランツが向かったアンファング軍右翼ではさらなる激戦になっていた。

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