悪役転生して60年破滅を回避して世界を救ったワシは隠居してたけど、彼女が欲しいから若返って学園に通うことにしたが、周りが弱すぎて草生える。これだから最近の若者は。やれやれこの世界の未来が心配じゃわい

にこん

第1話 悪役じいさん

【ラストラグナロク】というゲームに出てくる悪役。


ルーク・ウィザード・ベネジーラ。


ルークは性交を必要としない特別な妊娠方法、処女であっても妊娠するという異常な子供の授かり方【神授】により生まれた【神の子】。


そして特筆すべき点がまだある。

その手には魔法使いとしての才能を示す激レア紋章である【魔術師の紋章】が手の甲に刻まれていた。


そんな生まれながらのエリートだったがルークは傲慢で残虐、そして怠惰であった。


悪役としての素質を全て持ち合わせていた。

最後には怠惰なため実力が足りず原作主人公と敵対して死んでいくようなそんな典型的な悪役だった。


原作をプレイした人間がそんな悪役に転生すればもちろん破滅回避のために動く。


そして、現在のルークもそうだった。


今のルークは破滅を回避し終わった。

だが、悪役が破滅を回避したあとどういう生活を送っていたのだろうか?


これはそんな男の物語。



「ふぅ……今日の分の薪割りはこれで終わりじゃな」


【ウィンドカッター】で木を切り細かくして薪とする。


薪は色々使えて便利だ。


そして、そんな薪を保管庫に置く。

出ようとしたとき、ふと鏡が視界に入った。


鏡に映る自分の顔を見た。

美しかった金色の髪はすっかり色が抜けて白髪。


そして、再生能力は低下してしまい顔には傷が残っている。


そんな自分を見ていたら最盛期のことを思い出す。


「もう随分と昔になるのう」


昔のことを思い出していた。


60年前。

この世界に生まれた。


悪役貴族として、だった。

右手の甲に目をやる。


そこにあるのは【魔術師の紋章】という才能ある者のみに現れる紋章。


そして原作のルークはこの紋章を授かり努力をしなかった。

実際子供のウチは才能によるゴリ押しが通じていた。


しかし


【一切努力しなかった】


そんな怠惰が通用しなくなるのもまた当たり前の話であり、ちゃんと努力していた主人公には勝てなかった。


だがワシは勝った。


原作の流れを知っていたから努力して勝ったのだ。


それが数十年も前の話。


そして、そのまま世界を救ってしまった。


悪役のワシが魔王をぶっ倒して英雄となった。


しかし、ワシはその後やることが無くなり、辺境に身を移した。ストーリーにこれ以上干渉しないように。


中々誰も来ない丘の上に家を建てそこで生活を送る。


そんなスローライフを何十年も送ってきた。


外の世界には関わらない。

そう決めていた。


外の世界に関わらないとなるとやることがどっと増えた。自分一人で生きなければならないからだ。


まず、今も使っている薪の元になる木の栽培。

それから川の設置と維持。


魚を繁殖させるための環境整備。

それからモンスターの排除、動物の保護。


色々とやる事があり忙しかったので暇ではなかった。


そしてその過程で少しずつ実力も磨かれて行った気がした。


元々最高峰だったはずの魔法技能は更に研ぎ澄まされていく。


「おじいちゃんが現役だったころはなぁ……。ミノタウロスをワンパンしたものじゃ」


ポツリと呟いたが聞く相手がいないのは知っている。


ワシには女房もおらんし子供もおらん。


そんなことを思い出して呟いた。


「こんなことなら恋愛くらいはしておれば良かった」


若い時は魔法のみを練習した。


その結果破滅ルートは回避したがそれだけだ。


ワシの周りに人は残らなかった。


人とのコミュニケーションを捨て魔法に取り組んだらそりゃそうなるよなという未来を迎えていた。


「ワシの選んだことじゃ仕方あるまいな」


そう言いながらワシは今日の作業を終えて家に帰ることにした。


ガチャっ。

木製の扉を開けて中に入ると


「キャン!」


ボロボロのウルフが飛びかかってきた。


ワシには女房も子供もおらんが唯一家族と言える者がいた。

それがこのウルフだ。


この辺境で暮らすウチに出会いそして懐かれた。


「ははは、お前は寂しがり屋じゃのう」


頭を撫でながらワシはベッドに向かっていた。


そこに腰掛けるとあらかじめ用意しておいたビーフジャーキーを食わせてやることにした。


このウルフはこのビーフジャーキーが好きなのだ。


(んでもってワシも好きじゃがな。ガハハ)


ということでビーフジャーキーは多めに作っている。


グチャグチャ。


ブチッ!


ビーフジャーキーを食っているウルフを見ていると少し食べにくそうにしていた。


「老化か?筋力でも低下しておるのか?」

「クゥン」


ワシもそうだがウルフにも寿命がある。


(あと何年生き残れるんじゃろうなこの子も)


そう思いながらワシは壁にかけてあった杖を手に取った。


人生には出会いがあり別れがある。

生まれたものは死ななくてはならない。


そういうことじゃが。


「お前と別れとうないぞ!ウルフ!」

「キャン」


このウルフはワシの言葉が分かる。

おそらくワシの言葉に同意してくれたはずじゃ。


そこでワシは唱えた。


【若返れ】


ウルフに時魔法をかけた。

ウルフの時間を逆行させる。


記憶は維持したまま巻き戻すのは大変な作業だが、それでもワシにはいつしかできるようになった。


そうして数秒後、そこにいたのは銀色の毛並みをサラサラとさせたウルフ。


「ワオン」

「ふむ。ワシより早く死ぬことはワシが許さん。お前のような可愛い動物は無限に生きて欲しいのじゃ」


そう言いながらワシは杖を壁に戻そうとしたが、その時に気付いた。


「……この魔法自分に使えばどうなるんじゃろ?」


今まで考えたことがなかった。


漠然と人間として死ぬんだろうなぁと思っていたからだ。


しかし


「ワシはまだお前と別れたくないぞ!ウルフ!」

「クゥン」


擦り寄ってくるウルフの頭を撫でながら思った。


「このもふもふと一生の別れ?そんなもの耐えられる訳がなかろう」


そう思うとワシは杖を持って切っ先を自分に向けた。


そして呟く。


【若返れ】


淡い光がワシを包み込む。


そして数秒後光が収まると、みずみずしい手が見えた。


ぎゅっ。

ぱっ。


手を握って開いてみた。

その作業に少し力強さを感じた。


老人の手では無い。

やせ細った枯れ木のような手じゃない。


どうやらワシ……いや俺は若返ったようだ。


「ワシなんてジジくさいのはやめよう」


そう言いながら俺は歩いた。

そして鏡の前に立つ。


そこに写った顔は金色の髪を持った青い碧眼の少女のように美しい顔をした少年だった。


そう。これこそがかつてのルーク。


ルーク・ウィザード・ベネジーラ。


滅びの運命にあったはずの少年だったのだ。


「ウルフ」

「キャウン」


若返っても誰が主人なのかは分かっているようで俺に頭を下げてくるウルフ。


「旅に出よう」

「クゥン?」


首を傾げるウルフに言ってやる。


「俺は彼女が欲しい。お前もだろ?」


ピクリ。

耳を立てるウルフ。


「俺はぁ!デートがしたい」

「クゥン(頷く)」

「てことで、探しに行くぞ。俺の嫁探しだ」

「クゥン?(どこに?)」

「もちろん、魔法学園だ。そこには女がいるだろ?!若い(重要)女が!最近の若者と恋愛をするのだ」

「クゥン(深く頷く)」


ここまで60年かかった。


60代から始めるラブストーリー・開幕。

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