二十億の男


 セリッド・アークロイスと言う超有名人が日本国民となった。


 ゴリゴリのエジプト人ではあるが、この世界にでれっきとした日本の血を引く人間なんて二人しかいないんだから、誰が国民になろうが関係ない。


 しかも、ハンター協会の理事長がパン屋を開きたいと言うなんとも可愛らしい夢を持っていたのだ。こんな面白そうな人材を、受け入れないほどこの国は器が小さい訳では無い。


「セリッド・アークロイスねぇ。またとんでもない有名人がここに来たもんだ。しかも、密入国?いい歳してロックに走ってんな」

「だろ?太ったハゲのおっさんだが、中々根性があるじゃないか。そこまでしてこの国に来た理由が、パン屋を開きたいなんだから面白いよな。挑めばなんでも手に入る地位にいたにも関わらず、パン屋のひとつすらできないとは皮肉なもんだ」

「POL(ポーランド)政府には抗議しておきましたよ。今後の交渉で優位に立てるかと思います」

「お疲れ様、レミヤ」


 翌日。俺達は新たに住人となったセリッドの話で持ち切りであった。


 ハンター協会の理事ともなれば、その名を知らない人間は居ない。他人に興味がほとんどないアリカですら知っているのだから、ハンター協会の名はそれだけ世界に大きな影響力があると言える。


 そんな組織からガッツリ恨みを買ってるんだけどね。


 あぁ、最悪。これじゃ安心して旅行に行けないよ。


「そういえば主人マスター主人マスターの懸賞金がさらに上がりましたよ。ハンター協会はどうやら本格的に貴方とコトを構えるようです」

「........はぁ。ちなみに幾らになったの?」

「懸賞金は6億ゴールドですね。ちなみに、歴代の指名手配犯の中でもぶっちぎりのトップです」

「2位は幾らなの?」

「2.5億ゴールドですね。300年ほど前にUSA(アメリカ)FR(フランス)EGY(エジプト)でテロ事件を引き起こしたカルロス・アッハシールと言う人物が最高懸賞金額でした。しかも、主人マスターの場合は国際指名手配犯の他にもその国の中での指名手配もかけられています。えーと........全部で大体50ヶ国ぐらいですかね?その全てを合計すると10億ゴールドを超えますよ」


 わぁ、全く嬉しくない歴代一位だ。


 国際的に指名手配されながら、更には国別で指名手配をかけられているとか、世紀の大テロリストじゃん。


 どうやったら、たった一人の人間に10億ゴールドの懸賞金が掛けられるんだよ。


 この世界はひとつなぎの大秘宝ワンピースってか?ありったけの夢なんてかき集めなくていいから、その手配を今すぐに取り下げてくれ。


「ボスは人気者だな。金に目の眩んだ殺し屋達から熱烈な銃弾ラブコールが貰えるぜ?人生最大のモテ期だ」

「ふざけんじゃねぇ。弾丸と硝煙にまみれたラブレターなんか貰っても嬉しかねぇよ。真面目にこの国から出ない方がいい気がしてきたぞ。引きこもるか」

「........あー更に言いますと、各国の暗殺組織なんかにも依頼が来てますから確認できるだけで20億は超えますよ。暗殺者組織からも狙われるとは、流石は主人マスターです」


 ファック!!更に10億プラスされやがった!!


 この世界には人を殺して飯を食う奴らがごまんといる。そん奴らが集まって出来たのが、暗殺者組織。


 名前は沢山ありすぎて覚えてないが、こいつらは人殺しに関してはプロだ。軍やマフィアなんかとはまた違って、単純に純粋に殺しにくる。


 恐らく、国は表向きに懸賞金を掛けながらも裏で暗殺者達に依頼をしているのだろう。


 POL(ポーランド)に居た時も、嫌という程相手にしたしな。


 もう何人殺したのか覚えてないぐらいには、相手にした気がする。俺じゃなくてリィズが。


 まぁ、流石に日本の中にいれば安全ではあるだろう。そして、第三次世界大戦が終わればこの懸賞金は取り外されるはずだ。


 れっきとした国家の代表が、ゴリゴリの指名手配犯とか笑えないからな。暗殺者を送り込んでくる可能性は高くとも、表向きは誤解があった事になるだろう。


 今は未承認国家だからね。しょうが無いね。


 日本独立のための根回しもやってはいるし、この戦争に勝つことさえ出来れば三分の二の票を手に入れることは難しくないはず。


 ブリテンやPOLと仲のいい国々はこちらの味方だし、アジア圏は既に抑えた。


 あとはアフリカ諸国を何とかしたいのだが、セリッド曰く“戦争に勝ちさえすれば、票を入れてくれる”らしい。


 どうやら今のEGY(エジプト)首相はかなり有能な人物らしく、俺の事をかなり高く評価してくれていたそうだ。


 北アメリカと中央アメリカは数が少ないからほっといてよし。となると、やはりヨーロッパがどうなるのかで全てが決まると言っても過言では無い。


 旧ソ連の残骸達はこちら側に着いてくれたし(着かなきゃ滅ぼすと脅した)、ヨーロッパさえ何とかすれば日本は正式な国家となってくれるだろう。


「やっぱりバルカン諸国の統一は絶対か。あそこら辺を抑えると、形勢はこっちに傾いてくれるし」

「ミスシュルカとの約束もありますからね。つい先日、試作のミサイルが完成してCHを確実に潰す準備も整いましたし、国を開けても問題ないかと」

「ちょっと待って。なにそれ聞いてないんだけど」

「え?言ったでは無いですか、主人マスターとリーズヘルトちゃんを攫った中国人チンク共は、核の炎によって焼き尽くすと」


 確かに核ミサイルをぶっ飛ばしてやる!!みたいなことは言っていたけど、まさか本当に作るとは思わないじゃん。


 と言うか、報告してよ。初耳だよそんなの。


「報告は?」

「........?了承していたので既に許可が出ていたかと思っていたのですが?あ、製作途中の報告ですか?それはしてませんね。専門的用語が多すぎて、主人マスターには分からないと思いましたので」


 何?今煽られてる?


“こいつ馬鹿だから困難もわかんないし、報告するだけ無駄っしょ!!”とか思われてる?


 まず製作しますよって報告を出せよ。俺が既に許可を出していたとしても、報告するのが常識なんじゃないのか?


 あぁ、これだからお前はぽんこつメイドなんだよ。


 泣きながら俺に抱きついてきた可愛い頃のレミヤを返してくれ。


「うん。まぁもういいや。好きにやっていいよ。ただし、CH以外の国に迷惑はかけるなよ。後、核を使うのは禁止だ」

「ご安心を。もちろん核以外の兵器開発もしていますので」


 にっこりと笑うレミヤを見て、俺は全く安心できないのであった。




【カルロス・アッハシール】

 300年ほど前に三大国家の全てでテロ事件を起こしたヤベー奴。懸賞金2.5億の指名手配犯であり、凄まじい化け物ぶりを発揮していた。

 最後は政府に捕まり、死刑。尚、空想上の人物のため実在はしない。いや、そもそもこの話は全てフィクションなので、この物語に登場する全ては架空の存在なのだが。




 レミヤはやはりぽんこつ。そう確信した俺は、ある人物と電話をしていた。


 俺と同じく国際指名手配犯であり、大層な目的を抱えている割にはやっていることはテロリストと変わりない集団の幹部ミスシュルカである。


「まずは、あんたらのボスの解放おめでとう。そのボスは複雑だろうけどな」

『お前ほどでは無い。記事を見て目を疑ったぞ?何故戦争中に五大ダンジョンの一つを攻略しているのだ。戦争はついでだったのか?』

「いや、どちらかと言えばダンジョンがついでだった」


 旧制人民解放軍チトーパルチザン


 旧ユーゴスラビアの再建を目論むテロリスト集団は、セルビアに幽閉されいたボスの解放に成功した。


 今は部隊編成や作戦会議で忙しいだろう。何せ、バルカン諸国全てを相手にしなければならないのだから。


 所詮はテロリストの組織。1国家を相手にできるほどの戦力は持ち合わせていない。


 そこで、俺たちの手を借りたいと言って来たのだ。第三次世界大戦が始まる少し前だったか、少し後だったかにね。


「こっちの用事は片付いた。うちの爺さんが暴れまくって簡単に終わってくれたよ。まだ敵対国家は多いが、一先ずは安心だ」

『それは何よりだ........あれも記事を読んだ時は目を疑ったな。たった一人の人間が、あんな真似ができるとは思いもしなかった』

「それに関しては同意だね。俺はこっそり人類核兵器だなんて呼んでるよ」

『ハッハッハ!!いいネーミングセンスだ。約束通り、バルカンの兵士たちを殺してくれたのも我々にとってはありがたい限りだ。さて、本題に入ろうミスターグレイ。ボスが会いたがっている。そして、やはり我々の軍だけで計画を遂行するのは厳しい。手伝ってはくれないか?』


 やっぱり電話してきた理由はそこだよね。


 爺さん1人でも借りられれば、かなり戦況は変わるだろう。


「条件付きならいいぞ」

『聞こう』

「この革命が上手くいって、旧ユーゴスラビアの再建が果たされた場合、ユーゴスラビアは日本を正式な国家として認めること。これさえ守ってくれれば手伝ってやる」

『........それだけでいいのか?』

「一応、アンタらは俺たちの組織の下部組織に当たるからね?そこまで酷い搾取なんてしないさ。俺は、部下は大事に使うタイプなんでな」

『........分かった。その言葉を信じよう。だが、一旦はボスに話を通す。私はお前の恐ろしさを知っているが、ボスは何も知らないのだ』

「人を化け物のように言うな。酷いじゃないか」

『どこの世界に戦争の片手間に五大ダンジョンを攻略する奴がいる?そんな頭のイカれたやつを、人は化け物と呼称するのだよ』

「あぁそう。まぁ、いいや。いつそっちに行けばいい?」

『手配はこちらでしよう。それに合わせてきて欲しい』

「分かった。じゃ、良き革命を」


 俺はそう言って電話を着ると、俺の膝の上で寝るナーちゃんの背中を撫でる。


「戦争が一段落したかと思えば、次は革命の手助けか。俺、この世界に来てから何やってんだろう。頭がおかしくなりそうだ」

「ナー?」

「あぁ、ナーちゃんも巻き込まれた側だったな。助かってるよ。いつもありがとう」

「ナー!!」


 俺はそう言うと、革命に行きたい人を聞くかーと部屋を出るのであった。


 平和な日々がまた終わる。世界はどうやら、俺に一時の休暇すらゆるさないらしい。


 ファッキンクソッタレのマザーファッカーめ。こんな世界、滅びてしまえ。




 後書き。

 グレイ君。懸賞金二十億の男となる。海賊王を超える日も近そう。

 それはそれとして、セリッドがジャムおじさんって言われてるの笑う。流石にアソパソマソは作らないぞ。

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