祈りの対象


 自分達を革命家と名乗るテロリスト共達に協力することが決定した翌日。俺は、内政はある程度安定し始めたと判断して、外交に手を出し始めた。


 国としてこの場に存在している以上いつかはやらなければならないことではあるものの、正直死ぬほど面倒臭いし上手くいくかも分からない。


 しかし、どこの世界も隣人付き合いは大事だ。それは規模が大きくなったとしても変わらない。


 もしそれが無理なのであれば、その国を消すしかないのだが。


「アジア諸国で残っているのは、PHL(フィリピン)SGP(シンガポール)MYS(マレーシア)とかの東南アジアか。黙示録のダンジョンがあるから、大陸側はほぼ全滅だな。インドとか滅んでるのやばすぎだろ」

「第一次ダンジョン戦争はそれだけ大きな被害を世界に齎したという事ですよボス。何せ、人類の人口が半分に減ったとまで言われていますからね」

「まぁ、まだ能力者が少なかった頃に魔物なんて言う化け物が現れたら銃を撃つしか知らない人間は滅ぶわな。むしろ、その戦争の中を生き残った上にエルフ相手に戦って何人も殺せた吾郎じいさんがおかしい」

「フォッフォッフォ。儂も死にかけたぞ?流石に魔物を討伐するのは無理じゃろうて。今となっては容易じゃがの」


 この世界で唯一能力を持たない人間の癖して、Sランクハンターですら苦戦するような化け物相手に勝てる爺さんがおかしいんだよ。


 銃弾飛び交う戦争の中で剣を片手に暴れ回り、挙句の果てには不老になって世界を漂うとかこの爺さんこそが人類のバグだろ。


 そんなことを思いつつ、俺は対中国同盟を組む相手を探していた。


 現在、アジア諸国はCH(中国)の手下。アジアにあるほぼ全ての国がCHになんらかの借りがあり、下手に逆らえない状況となっている。


 特に東南アジアは酷く、完全にCHの傀儡だ。第一次ダンジョン戦争で被害ことでていたものの立て直しが早かったCHが全てを持って行っている。


 そんな中で、我らが祖国日本帝国はCHに戦争を仕掛けようとしているのだ。


 いくらなんでも部が悪すぎるな。どうやって勝つねんこれ。


 下手をすればアジア諸国全てを敵に回す。しかし、1カ国でも上手く丸めこめれば、CHが孤立する。そんな状況が今の現状である。


「ミルラ、1番経済的に厳しい国はどこだ?」

「PHL(フィリピン)でしょうね。第一次ダンジョン戦争の被害が大きく、その後の復興もかなり手間取られたお陰でCHからの支援を多大に受けていた国ですから。その借金も凄まじく、資源を大量にCHに流しています。資源も取られて、金も取られる状況になってしまっているので、どうしようもない状況になっていますね。昔、PHLのVIPを護衛したことがありましたが、他の国のVIPに比べて羽振りが悪かったと記憶しています」

「なるほど。富裕層であろうとも厳しいのが現状か。なら、借金を踏み倒せるだけでも乗っかってくれる可能性はありそうだな。CHとの関係ない次第では、簡単に寝返らせることが出来そうだ」


 第一次ダンジョン戦争以降、アジア諸国はかなり弱い国になったからな。


 一昔前のアフリカ諸国みたいな扱いを受けているのが現状である。


 次第が時代なら、黄猿動物園イエローモンキーパークが作られていた事だろう。


 いまが18世紀じゃなくて良かった。


「一番CHの犬になってるPHLを丸めこめれば、他の国も何とかなりそうだな。市民はCHに対して何らかの不満を持ってないのか?」

「そのVIPの話いわく、かなり反中感情はあるらしいですね。今の苦しい生活はCHのせいだという人も多いらしいです。まぁ、CHが支援をしてくれなければ今ごろさらに苦しい暮らしを強いられていたでしょうが」

「フォッフォッフォ。与えた恩が仇となって帰ってくるわけかのぉ。いつの時代も人は己の事しか考えぬのだな」

「俺達も人の事は言えないさ。さて、それじゃどうするかね。先ずは連絡でも取ってみるか?あの共産主義者コミー共も今はこちらに目を向ける暇はないだろうし、そこそこ大きく立ち回っても何とかなりそうだしな」


 バルカン諸国が戦争の準備に入っているの言う情報が、CHにも入ってきているのだろう。


 そして、CHもそれに対応する準備を始めている。


 でなければ、真横にぽっと出てきた国を放置しておくわけもない。


 ウチの国はどこからも独立保証とかされてないからね。戦争を吹っ掛け放題なのだ。


 ありがとうバルカン諸国。お礼にバルカン諸国を統一して、管理しやすい国でも作ってあげるよ。


「おばちゃんに連絡を取るか。PHLの大統領に連絡を取れるようにしてもらって、CHとの戦争に介入させないように動くとしよう。バルカン諸国ともやり合うことになるだろうが、それは後でいいや」

「かしこまりました。レミヤ辺りがおそらくやってくれると思います」

「そういえば、アリカ達はどうしたんだ?最近アーサーに構ってたから、あまり見かけないんだけど」

「あぁ........アリカちゃんはその、研究をしてますね。ほら、彼女の知らない植物の効力や薬の作り方を色々と調べています........」


 なんか歯切れの悪い言い方だな。


 アリカ達も楽しそうにしているのは知っているが、なんで歯切れがここまで悪いんだ。


「歯切れが悪いな?」

「いやー、アリカちゃんってほら、ちょっと特殊な癖があるじゃないですか。それを目の前で見せられると........ねぇ?」

「フォッフォッフォ。確かにアレはちょっと引くのお。この国に降り立った時もかなり興奮しておったが、今はさらに酷いぞ。儂でも流石にそれは........と思うわい」


 そう言えば、アリカは植物に興奮するド変態だったな。


 もう終わりだよこの国。ろくな奴がいやしねぇ。


 基本アリカには優しいミルラと爺さんがドン引きするって、一体どれだけ騒いでるのやら。


 アリカの未来がちょっと心配である。


「そんなにやばいの?」

「ヤバいですよ。夜中に声が聞こえますし........間違っても部屋に入ってはダメですよ?年頃の女の子なんですから」

「俺よりもお前の方が心配だけどな、ミルラ。なんで顔を赤くしてんの?」

「だって可愛いじゃないですか!!アリカちゃんはどんな姿をしていても天使です!!」


 お前も終わってるよ。


 俺はそう思いながら、レミヤに連絡をとってもらうかと思うのであった。




【PHL(フィリピン)】

 通称フィリピンは、東南アジアに位置する立憲共和制国家。7641の島々がある島国であり、そのうち有人島に暮らす総人口は1億人を超える。首都はルソン島にあるマニラ市またはマニラ首都圏。

 排他的経済水域をめぐって中国や台湾と揉めているが(現実)、この世界では中国に実質的な支配を受けているので揉めることがない。現在の大統領は反中国派。しかし、大々的に反対はできないので表向きはペコペコと頭を下げている。




 今後の指針がある程度決まった俺は、暇つぶしにエルフの街へと来ていた。


 この国に帰ってきてからは結構平和な時間が続いており、特にドンパチに巻き込まれるということも無い。


 平和って最高。やっぱり争いは虚無しか産まないよ。


 最初の頃はアホみたいにドンパチに巻き込まれていたが、最近は少なくなったなーと思う。


 その分、ドンパチの規模が大きくなっている気がするけど気にしたら負けだ。


 最初はマフィアと小競り合い程度だったはずなのに、今度は国家同士の戦争を始めようとしているけど気のせい気のせい。


「おや、グレイじゃないか」

「ん?おぉ、リードじゃないか。随分と久しぶりだな。元気にしてたか?」


 戦争に巻き込まれそうな事に嫌気がさしていると、懐かしい顔がやってくる。


 彼はリード。かつて俺達がこの地へと降り立った時に初めてであったエルフだ。


 バレッタという女性に恋をするツンデレエルフであり、需要を分かってないダメなやつである。


「元気だよ。聞いたぜ?なんでも邪神ニーズヘッグを倒したそうじゃないか。お陰で今やグレイはこの世界の救世主。世界樹の近くに銅像がたってたぞ」

「待て、リード。銅像ってなんだ?」

「銅像は銅像だよ。この世界で最も素晴らしい功績を上げたグレイを称え、過去にその栄光を忘れないようにと立てられた素晴らしい銅像さ」

「俺、知らないんだけどそれ」


 エルフ共め。勝手に俺の顔を使って銅像を立ててたのかよ。肖像権はどうなってんだ!!今からでも法律を作った方がいいかもしれん。


 プライバシーの侵害ですよ。俺の顔を使いたければ、金を払え金を。


「今じゃ世界樹に祈るついでにグレイにも祈る奴が多いぜ。特に、戦争に参加したヤツらは口を揃えてグレイの素晴らしさを説く。もはや世界樹が神なのかグレイが神なのか分からなくなってきたな」

「勘弁してくれよ。俺はただの人間だぞ。神でもなんでもない。そいつに言っとけ。俺に祈る暇があったら働け、ってな」

「アハハハハ!!俺が言ったところで意味は無いさ。それに、聞いた話じゃとんでもない力を見せたとか言っていたぞ?1歩も動けず、死の恐怖しか感じなかったって。ニーズヘッグと戦った記憶よりも、そっちの方が記憶に残ってるらしいぞ」


 ピギーの事か。


 そりゃ、ウチの可愛い可愛いピギーとたかが世界1つすらも滅ぼせない自称邪神君を比べたらダメだよ。


 まじで格が違いすぎるからね。こちとら世界を三度滅ぼしたお方だぞ?そんじょそこらのカス共とは生きている次元が違うのだ。


 よく話しているとおっちょこちょいで可愛いけど。でも封印はとかないでね。死んじゃうから。


「俺が神と同格とか笑えない冗談だな。いいのか?エルフの教え的にかなりまずいだろそれ」

「今のところは問題ないさ。感謝こそすれど別に信仰しているわけじゃない。ただ祈るだけなんだからな」

「そうか。で、なんでこんな所に居るんだ?かなり離れた場所で暮らしていただろ」

「エルフが他種族との交流を深め始めたと村長から話があってな。村のみんなで戻ってきたんだよ。元々あそこに住んでいたのは、エルフの国が保守派と改革派で分裂していたからだし。改革派が勝って保守派となった今、戻ってこない理由はないさ」

「そう言えば、保守派の残存勢力はどうなっているんだ?下手に暴れられると面倒なんだが........」

「ほぼ消えたな。そもそもアバート王が全て弾圧したし、汚職していたやつは見せしめに殺された。自分の命が惜しければ、嫌でも黙り込むさ。それでも尚声を上げるやつが本当の信念を持つやつなんだが、みんな自分の命は惜しいらしい」

「生きていてこその思想だからな」

「後、色々なものが出てきて便利な世の中になりつつあるってのも大きな理由の一つかもな。なんだっけ?テレビとか、携帯電話とかスゲーな。人間の技術力は侮れないぜ」


 リードはそう言うと、新しく買ったのか携帯電話を見せてくる。


 世界観が変わりすぎてるよ。九つの世界に電子機器が入り込んでるよ。


「ゲートを超えた先のやつには話しかけられないけど、同じ世界にいるもの同士ならば離れていても連絡が取れる。便利な道具だね」

「そいつは良かったな。だが、あまり慣れすぎるなよ?文明が消えたその瞬間から、全く機能しなくなるからな」

「もちろん気をつけるさ。でも便利だよこれ」


 こうして、俺はリードと電話番号を交換するのであった。


 異世界が現代風になり始めている。この世界のそのうち、タワーマンションとか立つのかね?そしたら世界観が全て終わってしまうよ。





 後書き。

 誠に申し訳ないんですが、ありがたい事に多くのコメントを頂き、コメント返信が大変過ぎるので控えさせて頂きます。もし気になるコメントなどがあれば返しますが、毎回返せる訳ではないので悪しからず。

 毎回コメ返で30〜40分取られるのは大変なんです(嬉し泣き)。

 これからもちゃんとコメントは読ませていただきますので、これからもドシドシ送ってきてください。(返信せずに“読んだよ”って読者の皆様に伝えられるシステムが欲しい。ようつべのコメントにハートみたいな)

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