人の制裁
カルフォルニア州ロサンゼルスのカジノ街から遠く離れた少し田舎臭の漂う場所。そこに建てられた一軒のビル丸ごとが、ホワイトクランの本部である。
こんなに堂々と事務所を構えているというのに、警察やCIAは何をやっているというのだ。
今すぐにでもこの場所に乗り込んで、神の子と名乗る不届き者達を吊るし上げる必要があると言うのに。
やはり、カルフォルニア州ノ二大巨頭なだけあって、政府との繋がりとかありそうだよな。
政府による後ろ盾によって、自由を得る。
自由の国とは実に権力者に優しい国だ。権力さえあれば自由が手に入る。それこそ、殺人をしたとしても神の元に許されるとなれば誰だってその加護を欲するものだ。
が、その自由には代償を伴う。折角の旅行を台無しにしてくれたお礼参りは今ここでしてやるよ。
政府に関しては木偶情報屋が上手くやってくれるだろう。ただでさえ滅茶苦茶になりつつあるUSA政府に、更なる火種を投下してやるのだ。
「立派なビルだ。マンション兼事務所のビルなんだって?ギャングは金があって羨ましいね」
「神への寄付という名の集金だな。どこの組織もそうだが、結局上の連中が得をするように出来ている。そして、その財力を見せつけるんだから、救いようがない」
「ウチの組織は言うて何もしてなくね?........あ、いや、革命家の皮を被ったテロリスト共が上納金を収めてたわ。今度
「言うて結構ボスは施してやっていると思うがな........」
「?」
何もしていないのに施してやっているとはこれ如何に。
俺はマジで何もやってないんだが?レイズの仕事がなかったから適当に振ったら、知らない間に何故かテロリスト共が配下になっていただけだし。
しかも、上納金まで収めて寝ていても金が入ってくる。
不労所得バンザイ!!働かなくても十二分に生きていけるぜ!!が、今の状況なのである。
その対価がこのクソッタレなことに巻き込まれる事なのだが。
毎月数千万近くの金が入ってきたとしても、命が尽きたら意味が無いんだよ。
金は生きているから価値があるというのに。
「で、ここからどうするんだボス。もう真夜中だぞ?」
「決まってんだろ。
「グレイちゃんを怒らせたベテシメシどもに、神の裁きを加えるんだね?!全員拷問しちゃう?」
「このビルの最上階に居るトップとその家族だけはやろうかな。ほかはもう雑に殺せ。時間が掛かりすぎる」
「いっその事このビルごと破壊しますか?そのトップの家族だけ攫って」
「俺達は
「教訓を得ていたら今頃世界では戦争が無くなっているはずですもんね。人は一世代変わるだけで何もかもを忘れる愚かな存在ですし」
「そういう訳だ。じゃ、行くぞ。神の子を騙る愚かな奴らに、9mm弾をプレゼントしてやろう。少し早めのクリスマスプレゼントだ」
俺はそう言って愛銃を取り出すと、今回はスーちゃんに事後処理を頼むかと思いつつビルの正面に立つ。
もし上から逃げられると面倒だな。レミヤとローズに抑えて貰うか。
「レミヤ、ローズ。上を抑えてこい。逃げ場を完全になくしてやれ」
「了解いたしました。ローズさん。飛べますか?」
「私をスーパーマンだとでも思っているのかしらん?普通に飛んでも届かないわよん。ま、やりようはあるけどねん」
登れるんだ。もし無理だったらリィズに任せようかと思っていたのに、普通にこのバベルの塔のように高いビルを登れちゃうんだ。
やっぱりローズもまぁまぁイカれた性能をしてるよな。気功術の師範代なだけはある。
「じゃ、頼んだ。トップは殺すなよ?もし制圧が終わったら、最上階から1つ下の階に入って分離しろ」
「了解よん。加減を間違えるとこのビルの階層が一つ減ってしまうから気をつけないとねん」
「私が指示を出します。ご安心を」
「よし。ジルハード、1人でここから出てくる奴らを抑えられるか?」
「ボスが取り逃がさなきゃ暇するだけだ。問題ない。やばそうなら逃げる」
いいね。“いのちだいじに”という方針が伝わっていそうでなによりだ。
こういう時のジルハードは安定感があって安心する。ベテランマフィアはやることが違うね。
「俺とリィズ、アリカ、ミルラはカチコミだ。ミルラ、護衛は任せた」
「例えこの場所に核弾頭が降ってこようとも、お守り致します」
頼もしいね。
リィズは適当に暴れてもらって、アリカは見学か?いや、そういえばなんか戦える植物とか作ってたな。
「アリカも暴れるか?」
「いや、私は拷問用にドギツイ奴を作っておく。好きにやってくれていいよグレイお兄ちゃん」
「そうか。暴れたくなったら言ってくれよ」
「分かった」
では行くとしよう。アダムの子を名乗る差別主義者共に、自らの理念による失態を見せてやる。
【アダム】
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教で広く伝承される、創造主ヤハウェ・エロヒムによって創られた最初の人間とされる人物。
モーセ五書と旧約聖書に含まれる『創世記』では、第2章と3章でアダムについての物語が語られ、4章と5章でも一部触れられている。エチオピア正教など少数の教会における聖典『ヨベル書』、『エノク書』等でもアダムの生涯が詳細に語られているが、多数派の教会では認められておらず、ユダヤ教徒、キリスト教徒の大部分からは聖典でない外典とみなされている。
ホワイトクランのトップであるリヒト・ナーサスは、真夜中に異変を感じて目を覚ました。
今日は夢の国を襲撃し、世界に自分達の恐ろしさと正しさを説いた日。
テレビを付ければ速報が流れ続け、何もかもが上手くいっているように見えた。
が、それはマスメディアですら流せない映像がそこにはあり、更には情報が錯綜としていた事による嘘の報道。
幾ら手段を選ばす倫理から外れた報道をするマスメディアとは言えど、空から血に塗れた夢の国をお茶の間に流す訳にも行かず、頭のイカれたテロリスト集団が暴れる場所に近づくことも難しい。
彼らとて、守るべき最低限の規則はあるものなのだ。
犯行声明を出したホワイトクランだったが、彼は既に自分達の計画が失敗していることを知らなかった。
現場報告がないという違和感はあったが、神に選ばれた自分達が失敗するとは欠片も思っていかなったのだ。
そして、その情報による不利益と選民思想は自らにも降り注ぐ。
完全防音の部屋だった事も相まって、彼は彼の家族はこの真夜中に入り込んだ自分たち以上に頭のイカれた存在に気づけなかったのだ。
彼が招かれざる客に気づいたのは、目の前に銃口を突きつけれたその時であった。
「........ん?なんだ?」
「
「........だ、誰だお前は?!」
幾ら寝起きで頭が回っていないとは言えど、知らない人間が入ってきて銃口を突きつけているとなればいやでも目が覚める。
むしろ、これで目が覚めなかったら驚きだ。
あまりの危機感の無さに、銃口を向けるその人物も呆れ果てるだろう。
リヒト・ナーサスは慌ててベッドから飛び起きようとしたものの、身体が動かない。
よく見れば、自分はいつの間にかワイヤーとテープによってぐるぐる巻きにされて拘束されていたのだ。
「目が覚めたか?それじゃ、神へ祈る言葉でも考えながら、ゆっくりしておいてくれ。おい、電気を付けていいぞ」
「了解」
パァと明るくなる部屋。
照明の明るさに目を細め、目が慣れてくると元に戻す。
そして、自分に銃口を向ける存在の姿を見て驚いた。
仕事柄、テロリストや犯罪者の顔は覚えている。その中に彼の顔もあったのだ。
「グレイ........だと?!
「お?俺を知ってんのか。ま、どうでもいいっちゃいいけどな。右を見ろよ。首を曲げるだけだ」
グレイはそう言うと、顎を軽くしゃくって右を見るように促す。
大人しく右を見た彼は、その目を大きく見開いた。
声も出せず震え続ける自分の家族がそこにはいたのだ。
妻と息子。愛すべき子孫を残すべき神に選ばれた人間の2人が。
「隣の部屋でジジィとババァが寝ていたんだが、悪いな。もう殺しちまった。結構年老いてて、数も数えれないような奴だったみたいでな。悪いことをしてしまったよ。
一瞬、男が何を言っているのか分からなかった。が、数秒後に理解する。
この男は、自分の親を既に殺しており、しかも手の指を吹き飛ばしてから殺したのだと。
「き、貴様!!こんな事をして許されるとでも思っているのか?!俺を殺したら、今すぐにでも神の尖兵達がお前を殺しに来るぞ!!」
「夢の国を血祭りに上げておいて何言ってんだお前。テロ事件を起こしておいてよくそんなことが言えるな」
「ダメだぜボス。こういう人種に一般的な話しは通じやしねぇ。他の奴らも殺して分かっただろ?基本的に神だのなんだのほざくやつは、人の話に耳を傾けられないんだ。もっと上の尊いお方の言葉にしか耳を傾けないからな」
「いい迷惑だぜ。その尊いお方の言葉で、俺達の観光が台無しにされたのか?子供の夢を奪うことが神のお告げだって言うなら、俺が殺してやろうか。その方が世界も平和だろ」
「数年は夢の国で遊べないだろうな。思っていた以上に楽しかっただけに、残念だぜ。あそこは凄いな。ちゃんと大人でも楽しめるように作られている」
グレイはそう言うと、なんの躊躇いもなく銃口をリヒトの妻に向け弾丸を放った。
弾丸が頬をかすめ、血がしたたり落ちる。
あまりにも脈絡のない行動に、リヒトは一瞬固まるがその直後にグレイを怒鳴りつける。
「何をしやがるこの腐れマザーファッカー!!妻に手を出すんじゃない!!ぶち殺すぞ!!」
「白豚の丸焼きができそうなこの状況でも、吠えることが出来るのは一種の才能だな。心の底から拍手を送るぜ。それと、神の子にも赤い血が流れているんだな。てっきり青色でも流れるのかと思ったら、残念だ。こいつら、血の色は俺達と変わらんらしいぞ?」
「解剖でもして中身も確かめましょうか?きっと私たちと同じ内部構造をしていますよ」
「いや、お前は機械だろ
「酷いですね。心は人で乙女です」
「寝言は寝てから言うもんだ」
パン!!
さらに一発。
次の弾丸はリヒトの一人息子の頬を掠め、血がしたたり落ちる。
グレイは明らかに、頬を掠めるように弾丸を放っていた。
「最初はエグい拷問でもやろうかと思ったんだがな?もう眠いんだよ。良い子は寝る時間で、うちの組織には子供もいるんだわ。このビルを上がってくる間に随分とスッキリしたしな。それに、俺達は意外と紳士でな。旦那の前で妻を
「いい趣味してるぜ。俺達に殺された方がまだ幸せだっただろうにな。ボスは意外と慈悲深いというのに」
「神だって俺の慈悲深さに涙するだろうね。さて、下に行くか。ブラックソードの連中が車を回してる。CIAやら警察やらがカチコミに来るまでに、さっさと帰ろう。どうせこのビルの中に残っているのも俺たちしかいないからな」
これ以上話すことは無いと判断したのか、グレイはリヒトの顎を殴って気絶させる。
リヒトは淡々とそしてつまらなさそうにしながら、最も屈辱的で心をへし折ることを言うグレイに気を取られすぎて今の一撃を予想出来なかった。
ほぼ黒人だけで構成させるブラックソードに殺されるという事は、彼らが最も下に見ていたはずの劣等種に負けるという事。
しかも、奴らの拷問は容赦がない。そこにグレイのような悪魔の存在が心をへし折る為に助言したとなれば、地獄で行われる拷問よりも酷い結末が待っている。
その後、リヒトとその家族がどのように死んだのかは割愛しよう。あまりにも酷すぎる内容に、神ですら語る気が起きないのだから。
後書き。
リヒトは目の前でマザーファッカー共に妻と息子をあれこれされた後、拷問の末に太平洋に沈められましたとさ。めでたしめでたし。
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