カラーギャング(青)

日本帝国(ユグドラシル)


 エルフの森ダンジョンの攻略が無事に終わり、500年以上もこの世界に君臨し続けた五大ダンジョンの1つがついに陥落した。


 ようやく終わったよ。このクソ長いダンジョン攻略。攻略方法があまりにも面倒臭すぎる。


 しかし、我らが祖国日本は無事に帰ってきたし、なんかよく分からんが世界樹の加護まで受け取った。


 終わりよければ全てよし。過程のことはもう忘れよう。と言うか、忘れたい。


「全く。疲れたよルーベルト。アンタが命を賭して守ったクソガキは、遂に世界を変えたんだぜ?俺の自伝が発売させることがあったら、必ずお前の名前も出してやるからな。あの世で誇りやがれ」


 エルフの国の王室。それも、最上級の部屋のベランダで俺はタバコを吸いながら首に下げた趣味の悪い髑髏のネックレスを見る。


 見ろよルーベルト。これがあの五大ダンジョンの一角“エルフの森”の景色だ。


 出来れば、生きていた頃のお前と一緒にこの景色を見たかったよ。


 この世界の最も恩人であり、決して再び出会うことの無い男。


 俺とリィズを守って死んだこの世界の英雄は、今どこで何をしているのだろうか?


 俺みたいに神のクソッタレたゲームに参加させられているのか、それとも天の元で安らかに暮らしながら俺の生活を映画のように見ているのか。


 それは分からないが、一つだけ確かなこともある。


 ルーベルトをぶっ殺したあの兄弟共は何があろうと必ずぶっ殺してやる。頭にケツ穴拵えて、地獄にたたき落としたあと、悪魔共にファックさせてやるよ。


 FR(フランス)が吹っ飛び、アリス機関も月の裏側まで吹っ飛んでから奴らの行方が掴めていないらしい。


 木偶情報屋に捜索をお願いしているものの、未だに何処にいるのかは分かっていなかった。


 前の世界なら他の国へ高飛びすると言えばアフリカとか中東なんだがな。見つけ次第、何があろうと必ずその首を道路に並べてやる。


「ボス、タバコを吸っているところ悪いが、アバート王が来ている。なんでも、重要な話があるらしい」

「今行くよ........あぁ、そういえばこの国から出る手段のことを考えて無かったから、何とかしておいてくれ。一旦グダニスクに帰ったあと、その足でUSA(アメリカ)に行ってクズ刈りマンハントするぞ。ウチの可愛いアリカを苦しめたヤツらは全員もれなく銃弾ブリットとファックさせてやる」

「ウチのメンツもあるしな。わかった。何とかしてみるよ」


 基本いじられ役のジルハードだが、彼はこの組織の中でも数少ない纏め役。


 やる時はちゃんと仕事をしてくれる男なので、適当に任せていても何とかなる。


 どこぞの詐欺師みたいに俺の言ったことをねじ曲げてドンパチとか起こさないからね。何気にジルハードは常識人枠としてこの場にいるんだし。


 元ギャングのボスが常識人枠とか、この組織って終わってるな?あとマトモなのってミルラぐらいだぞ。


 類は友を呼ぶという言葉が頭に浮かぶが、そんなことは無いと俺は首を横に振るとドアの前まで待機していたアバート王に声を掛ける。


 王様直々に来てくれるなんて、俺達はとんでもないVIPに成長したもんだ。


「一昨日は楽しそうだったな。盛り上がれたか?」

「あれ程にまで楽しい宴もそうそうあるまい。種族の垣根を超えてあれほど騒いだのは初めてだ。誰もが楽しそうで誰もが喜んでいたよ。私がめざした世界がそこにはあったのだ」

「それは良かった。出来れば、その平和を長く続けて欲しいものだがね。また保守派と名乗る左翼集団を生み出してくれるなよ?」

「ハッハッハ!!私が弱っている間に好き勝手やってくれた老害共は、根喰いヘッグど元の繋がりをでっち上げて全員処刑したさ。こういう時、王の権力というのは楽で助かる。民衆を陽動してそれらしい雰囲気を作れば、あっという間に犯罪者に成り下がれるのだからな。もちろん、家族も皆殺しだ。恐怖政治は好きでは無いが、奴らはあまりにも自由すぎた」

「言論の自由は多少尊重してやれよ。俺達の世界では、共産主義国家コミンテルンは亡びる運命にあるんだぜ?」

「王の暗殺を目論む言論の自由があってたまるか。国の膿は1度吐き出したのであれば確実にやらねばならんのだよ」


 エルフもエルフで大変そうだな。


 ここぞとばかりに王としての権力を行使しているアバート王と廊下を歩いていると、すれ違ったエルフの兵士が慌てて道を開けて敬礼をする。


 初めて来た時は睨まれていたと言うのに、今となっては尊敬の眼差しすらも見えていた。


「最初の頃とはエライ違いだ。手のひら返しが早いな」

「ハッハッハ!!そう言ってくれるな。人もエルフもそう変わらんよ。英雄が道を歩いたとなれば、道を開けるか群がるかの二択なのだからな。我が国では........いや、この世界はグレイ殿によって救われた。死を操り、かのニーズヘッグの一撃すらも止めた者の功績を称え、世界樹から最も近い場所に銅像を建てようという話すらも出ている」

「本当に、本っ当に勘弁してくれ。俺はそんな褒められた人間じゃないんだよ。俺が外の世界でなんて呼ばれているか知ってるか?“史上最悪のテロリスト”そう呼ばれているんだよ」

「グレイ殿の部下が話していたな。なんでも、ひとつの国家の領土を四分の一程消し飛ばしたのだとか。その規模はどれほどか分からんが、推定で1000万人も死んだとも聞いたぞ」

「誰が話してたんだコノヤロー。今からシバいてくるわ」

「まぁまぁ、そう怒るでない。とても誇らしく話していたのだからな」


 あ、多分リィズですねコレは。


 何でもかんでも俺がやった事を美化しやがって、お前の目は節穴か?何をどう見たらこの話を誇らしくできるというのだ。


 後でリィズにはお説教だな。そんなことを思っていると、アバート王がついに本題を切り出す。


 それは、アバート王の執務室に付いた時であった。


「さて、グレイ殿。貴殿のおかげで我々は邪神ニーズヘッグを打ち滅ぼし、世界樹様をお守りすることが出来た。更には今まで形式的なやり取りしかしてこなかった他種族のもの達とも分かり合うことができ、今や他国を見てみたいというエルフも多くいる。中には、ダークエルフの女に惚れた兵士もいるぐらいだ。いい趣味をしているな」

「アバート王もカルマ王と随分ど仲が良さげだったが?」

「ぷはは!!あの男よりも男のような女に惚れることはあるまいよ。私の好みで言えば、静かでお淑やかな方がいい。仕事の疲れを癒してくれそうでな」


 そういえばそんなことを言ってたな。この王様は赤ん坊のプレイがご所望なんだと。


 人の性癖に口を出せるほど俺も人のことは言えないが、うん。まぁ、それは人それぞれという事で心の中にしまっておこう。


「で、何が言いたいんだ?」

「そこで王達で話し合った結果、いっその事種族の垣根を無くし新たな国を建国しようと考えたのだ。種族間の移動を自由にし、小さな国々が集まってひとつの国となす。この世界はひとつの国へと纏まるという訳だな。その土地毎に法律は違うが、大きな連携を保ち交流を深める。その中に、グレイ殿達の国も招待したい」


 へぇ、思っていた以上にこの世界は変化を迎えているんだな。


 かつてはそれぞれの種族がそれぞれの国で生活し、他種族との関わりをほとんど持たなかったと言うのに。


 そして、その中に見下していたはずの人族まで参加させようとしているとは、人な考えとは簡単に変わってしまうんだな。


 しかし、これはチャンスである。


 日本国を再建するのに必要な要素はいくつもあるが、国を発展させるにはその土地に住む人々が必要だ。


 エルフは日本国にもある程度の拠点を持っていたが、現在は一旦祖国に帰るように指示をされているらしい。


 まぁ、一応俺の所有物になった訳だしね。


 つまり、現在日本の国民は俺達“九芒星エニアグラム”のメンバーだけ。たった9人で国を運営するとか、シーランド公国かよ。いや、あの国はそもそも国土が大陸の一部ですらないんだけどさ。


 で、そんな人口問題をどのように解決するかだが、1番手っ取り早いのが“移民を国民として認める”もしくは“他国を吸収して国民を強引に獲得する”という手だ。


 エルフやダークエルフを国民として受け入れられれば、人口問題はあっという間に解決する。


 俺達も今後のことについて話していた時に話題にあがり、いくつかの手段は用意していた。


 ちなみに、爺さんが暴れないか心配ではあったものの、時の流れの中で世界が移り変わるのは仕方がない事であり、1度滅んだ日本を過去なような国に戻すのは不可能と理解してくれていた。


 話のわかる爺さんだ。流石は500年以上も生きてきた生きる伝説である。


 爺さんとしては、合法的にこの日本の大地を踏みしめられるだけで嬉しいのだろう。今日だって“散歩してくる”と言って、暇をしていたアリカと俺たちの中では付き合いの長いミルラを連れて楽しそうに本国を歩いている。


 爺さんとしては割とマジめに俺を天皇にしたいらしいが、それは断った。流石にそれは不味い。


 仮にも日本人として生きてきた本能が、危険信号を発している。


 国民の象徴たる天皇陛下に成り代わるなど恐れ多く、一国民としてそれなりに尊敬はしていた天皇陛下に成り代わろうとだなんて俺には荷が重すぎる。


 嫌でしょ。天皇陛下がチャカを持って人の頭をぶち抜いていたら。


 俺は小悪党の頭を勤めるぐらいが丁度いい。なんならこれですらキャパシティーをオーバーしているぐらいだ。


「どうする?今すぐに決めて欲しい訳では無いが........」

「ひとつだけ条件がある。それを飲めるなら、俺達もその新たな国に入らせてもらいたいかな」

「ほう。その条件とは?」

「こちらの世界での国の呼び方は好きにして貰っていいが、俺達が住む国の名前は変えないで欲しい。“日本帝国”この名前だけは、譲っちゃいけないんだ」


 この名前を取り戻すためにここに来たのだ。俺は、この国の名前を捨てては行けない。


「なんだそんな事か。それならば問題ないぞ。元々我々の世界では国の名前など決まっていなかったからな。エルフの国、ドワーフの国などと呼んでいた。しかし、様々な種族の人で溢れるようになれば、固有名称が必要になるだろう。その名前は、この世界を救った英雄に付けてもらうつもりだったのだ。ちなみに、これは我々王のみならず、共に戦ったもの達も賛同してくれている。世界樹様が直々に同意の意思すらも見せてくれる程にな。よし!!では今日からこの国は“日本帝国”だ!!早速ほかの王達にも伝えんとな!!」


 .......え、まじかよ。そんなあっさり決めちゃっていいの?世界樹ユグドラシルが日本になっちゃうよ?


 まさかここまでアッサリと決まるとは思わず、面食らう俺。


 と言うか、日本に王は必要ないんですけど。


「あぁ、そうだ。ついでにこの国........いや、もう街か。この街の名前も決めてくれ。どうせならば、英雄から授かった名の方が嬉しいからな!!」

「え?えーじゃあ“アールヴヘイム”で」

「よしわかった!!今日からこの街は“アールヴヘイム”だな!!私も王としての役目は終わりだ!!今日から私は街長になるぞ!!」


 うん。もう止めるのは無理そう。


 俺は全てを諦めると、その後それぞれの種族の国に名前をつけていくことになるのであった。


 もちろん、全てユグドラシルから名前をとって。


 日本の中に世界樹があるとかもう滅茶苦茶だよこの世界。ご先祖さま達も、こんなことになるとは思ってなかったんだろうなぁ........

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る