攻略完了


 なんか想像していたよりもあっさりと戦いが終わってしまった。


 ニーズヘッグとの戦いで最も警戒するべき相手であった根喰いヘッグの連中は、ピギーの嘆きによってあっという間に潜伏がバレてリィズに処されたし、彼らが信仰する神はタダの人間に執着してタコ殴りにされたのだ。


 最後にクソ適当に投げたグレネードで倒したっぽいんだけど。


 自称神様?たかが人間に作られた兵器に殺されるとか情けなくないんですか?


 辞めたら?神様。


「勝った........勝ったぞ!!我々の勝利だ!!」


 ニーズヘッグの死を確認したカルマ王の一言により、その場にいた誰もが剣を掲げて雄叫びをあげる。


 そこに種族の垣根は存在せず、近くにいたもの達が喜び会い、共に勝利をかみ締め抱き合っていた。


 これでダンジョンはクリア扱いになったのかね?これだけ苦労して、実はボスじゃありませんでしたとか笑えないんだけど。


 嫌だよ?この後エルフの王を殺さなければダメですとかそう言うのがあったら。


 流石にそれなりに仲良くなったアバート王を殺したくはないよ?あのオッサン、なんか普通に強かったし。


「やったねグレイちゃん!!私達の勝利だよ!!」

「お疲れ様リィズ。リィズが居なかったら、かなり大変だったよ。ピギーガ嘆く中でも動けるようになってくれて助かった」

「えへへ。頑張ったからね。でも、一番凄いのはグレイちゃんだよ。ピギーを手懐けたのも、これだけの人達を纏めあげたのもぜんぶグレイちゃんの功績だからね!!もちろん、最後の一撃も!!」

「アレはまぐれだ。同じ事をやろうとしても、二度とできないだろうな。それで、このダンジョンは攻略これでできたのか?おーい、誰か確認する方法を知ってないかー?」

「恐らくクリア出来たかと思いますよ主人マスター。例えクリア出来ていなかったとしても、これ程の功績を積みあげれば誰も我々とは敵対しようとは思いませんし。一度ダンジョンのゲートを確認する必要がありますね。緑色に変わっていればクリア。金色に輝いていれば、恐らくは今後もこの世界に足を踏み入れることができるでしょう」

「つまり、緑色だとこの世界とはおさらばって事か。出来れば金色に輝いて欲しいものだな。今後日本を再建するのに必要だし」


 誰もが勝利に酔いしれる中、俺は吸い終わったタバコを吐き捨てて新しいタバコを加えて火をつける。


 俺達がこの世界に来た目的は邪神を倒すことでも、この世界に平和をもたらすことでもない。


 このダンジョンをクリアするために来たのだ。


 何故かエルフと仲良くなって世界を纏めあげて邪神を討伐することになってしまっていたが、最初は普通にエルフとドンパチやるつもりで来てるからね?


 それが何故か人族の王として君臨させられる羽目になり、五万もの軍勢に率いる羽目になったけども。


「やったなお兄ちゃん!!これでダンジョンがクリア出来ていれば、人類初の快挙だ。私たちの名前が歴史に残るぞ!!」

「そうだな。無事にクリア出来ていたら、先ずはトランスフォーマーでも見るか。ポップコーンとコーラを用意してみんなで映画鑑賞をした後、USA(アメリカ)に飛んでウチの可愛いアリカを痛めつけたファック共を皆殺しにしに行くぞ」

「え、アレ本当にやるつもりなのか?」

「アリカが嫌ならやらないよ。だが、見たくないか?自分たちの無能さを棚に上げて他人を蹴落とす人類のゴミ共が、救いもしない神に助けを求める姿を。奴らの幸せは、アリカの不幸の上に立っているんだぜ?後、単純に俺達が許せん。仲間になる前の話だったとしても、ペド野郎だけは絶対に殺す」

「いいのか?ガッツリ犯罪だぞ?」

「おいおい、メキシコ野郎タコスの葉っぱ売りに麻薬を売り付けていた癖に今更道徳の授業か?俺達は世界最悪のテロリストにして泣く子も黙るマフィアだぜ?今更人殺しの一つや二つでケツの穴が縮む訳でも無いだろうに」

「........なら、お願いしちゃおうかな。ちょっと欲しいんだよね。人体実験用の被検体モルモットが。クズならどれだけ壊しても心が痛まないし、これを機に今までやって来た事のお礼参りも済ませちゃおうか」


 組織の中ではアイドル的存在として可愛がられているアリカだが、コイツも裏の世界に住む住人であり自分のために人を殺す。


 これだけを見れば俺達が“悪”に見えるが、そもそも先にアリカを虐めたりファックしようとしたのは奴らだ。


 法のもとに裁かれもしない悪は、悪が滅するしかない。


 なぁに、正義の権化であるアーサー君だって、俺達の正義を分かってくれるさ。アイツは真の悪しか捌けない。


「次はUSAか。娘の顔を一目見てぇな........」

「辞めておけジルハード。お前みたいな奴が娘に会いに行けば標的にされるぞ。後、男がもし出来ていたらクソ面倒くさそうだからダメだ」

「何でだよ!!クズ共が俺の娘を誑かしていたらぶっ殺すのが普通だろ?!親としてこれは譲れんぞ!!」

「今の今まで育児放棄ネグレクトしていた奴が急に出てきて父親面とか、一緒にいる俺達が恥ずかしいからやめて欲しいんだが?おい、アリカ、こいつの頭を治してやってくれよ。治せるんだろ?人の傷を」

「無茶を言うな。私が治せるのは物理的傷であって、脳の奥まで侵食した毒親の脳みそを改造できる訳じゃない。アレだ、前頭葉白質切截術ロボトミーでも受けさせた方がまだ見込みがある」

「じゃぁ手遅れだな。頭にでかい風穴でも開けさせるか」


 マジでどうしようもない親だな。頼むからジルハードの嫁さんよ。このバカな夫のケツを蹴り上げてシバキ回てくれ。


 このままだと、俺達がこのオッサンをあの世に送ることになりそうだ。


「ジルハードちゃんも相当アホよねん........」

「全くですね。あんな親の元に生まれなくて良かったですよ。そして何より、母親の遺伝子を引き継いでくれたおかげでかなり綺麗な子達で良かったです」

「フォッフォッフォ。親の愛も行き過ぎれば毒となるのぉ。普段は真面目なだけに、余計酷く見えるわい」

「本当にないっすわ」

「みんなもお疲れ。よく頑張ったな」

「嫌味かしらん?殴っても殴っても全く効果がなかった私への」

「私、何もしてないですよ。ボスの護衛をしていたつもりでしたが、守られていたのは私でしたし」

「フォッフォッフォ!!鱗は切れたが、骨までは切れんかったわい。まだまだ修行が必要じゃの!!」

「俺も何もやってないっす。一応傷口に向かって撃ってはいたっすけど、全部弾かれたんっすよね。なんであの化け物は肉まで硬いんっすか」


 娘のことを考えて暴走するジルハードを見ていると、続々と仲間達が集まってくる。


 小さな怪我こそちらほら見えたが、大怪我はしていないようで何よりだ。


 世界樹同盟軍の中には死者こそ出なかったもののかなり大きな怪我をしたものがちらほら見える。


 これでは勝利の美酒に酔いしれることは難しい。後でアリカに治させるか。


「さて、みんな無事だったみたいだし、勝利の宴をしてから帰るか。そもそもダンジョンがクリアできているのかすら分からんけどな」

「これでクリアじゃなかったら泣くわよん。まぁ、グレイちゃんがやったことに間違いはないと思うけどねん」

「ボスの事ですし、どうせ結果は分かってるんすよね。一応の確認ってだけで」

「フォッフォッフォ。もしダメだとしても、国は戻ってきた。儂はそれだけで嬉しいのぉ」

「まだ死ぬなよ爺さん。四千年以上もの歴史が続いた偉大なる祖国を再建するには、まだまだやることが多いからな」

「フォッフォッフォ。もちろんじゃろうて。この上泉吾郎、主が死するその日までお供致しますぞ」

「私はけが人を治してくるよ。護衛を頼めるか?」

「私が行きましょう。何も仕事していませんし」

「あ、私も行きますかね。魔物........分類上は魔物ですから体に興味ありますし」

「娘は、娘はやらんぞォォォォォォ!!」

「ねぇ、ジルハード殺していい?ウザイんだけど」

「やめてやれ。というか、これを録画して後でジルハードの前で流してやるか。そっちの方が楽しそうだぜ?」


 こうして、邪神との戦いは幕を閉じた。


 死者ゼロ人、怪我人多数。


 大金星もいい所だな。




【ニーズヘッグ】

 世界樹の根を喰らう龍。邪神として恐れられ崇められているが、普通に魔物。その大きさは想像を絶するものであり、体長は2km程もあるという。それを吹っ飛ばせるタイタンの王やリーズヘルトがおかしいだけ。

 ちなみに、割とボコられていたので弱そうに見えるが、もし地球上に現れたら一年と経たずに人類は滅亡するレベル。特に口から発射されるエネルギー砲の威力が凄まじく、一発でグレイくんが引き起こしたテロに相当する威力を持つ。




 無事にニーズヘッグに勝利した世界樹同盟軍は、ニーズヘッグの死体を引き摺りながら自分たちの国がある中層へと戻ってきた。


 彼らは今から自国の酒や食べ物を持ってきて、宴をするという。


 もちろん、俺達も参加するつもりではあるが、その前に確認しなければならない事があった。


「........金色。つまり、完全攻略ってことか?」

「実例が一つしかありませんのでなんとも言えませんが、恐らくは完全攻略と考えていいかと。歴史的快挙ですよ。完全攻略されたダンジョンはたった一つしかありませんし、それも多大なる犠牲を払った上での攻略でしたから。誰一人として死ぬことも無く、しかも攻略不可能とまで言われたこのダンジョンを完全に攻略してしまうのは世界中の金貨に主人マスターの顔が掘られてもおかしくありません」

「嫌だよそんな硬貨。使いたくないね」


 結局、ダンジョンの攻略は出来たのか?と言う疑問だが、答えは完全に攻略したという事であった。


 試しにダンジョンの外に出てみたが、ダンジョンが消えるということも無く、自由に出入りすることが出来る。


 これで日本の再建も出来そうだな。各種族の人達とは仲良くなれたし、手伝ってと言えば手伝ってくれるだろう。


 特にドワーフなんかは凄いことになりそうだ。入国制限とかかけないと全員こっちに来そうで怖い。


 取り敢えず国の防衛だけお願いしようかな........ほら、お隣には“この場所は元々我が国の領土であった!!”とか歴史を捏造して来そうな国家もある事だし。


 防衛を優先させつつ、発展に力を入れる。


 国民については適当でいいや。どうせこの世界に残っている純日本人は俺と爺さんしか居ないし。


 え?子供を作れって?巫山戯んなよ。俺はリィズ以外に興味は無い。


 そんなことを思いつつ、仲間達がそれぞれの思いを話す中突如としてそれは現れた。


 四つの羽を持つ小さな光。一瞬誰もが警戒態勢をとるが、敵意を感じない。


「───────」

「なんだこれ。光の玉?」

「気配が世界樹と同じ気がする。もしかしたら、世界樹の思念かも?」

「─────!!」

「何か言ってるな。何言ってんのか分からんけど、感謝してんのか?」

「──────!!」


 俺がそう言うと、“その通り!!”と言わんばかりに緑色の光が激しく揺れる。


 そう言えばアバート王も言ってたっけ。“世界樹には意思がある。その意志をごく稀に緑色の妖精が伝えに来るのだ”って。


 これがその妖精なのだろう。


「─────?」

「おい、誰か通訳してくれよ。言葉を発してくれないと流石に何を言ってんのか分かんないぞ?」

『ピギー』

「え?ピギー分かるの?じゃ、通訳お願いしてもいい?」

『ビギー!!』


 本当に高スペック過ぎだろピギー。もう何やらせても出来ちゃうじゃん。


 で、ピギーが翻訳するには、ニーズヘッグの討伐に最も貢献してくれたお礼として、願い事があればなんでも聞いてくれるそうだ。


 もちろん、世界樹ができる範囲での話だが。


「........んー、誰か願い事がある人いる?」

「今回はボスが決めろよ。ボスがいちばん活躍したんだから」

「そうっすね。ボス以外に決める人もいないっすよ」


 特に何も思い浮かばなかったので、なにか願いごとがある人がいないか聞くが皆が俺に丸投げをしてくる。


 困ったな。特に願い事とかないぞ。欲しいものは全て手に入れたし、別に力が欲しい訳でもない。


 あ、一つ重要な願い事があったな。世界樹にできるかどうかは知らないが、お願いだけしてみるとしよう。


「俺達の国も世界樹の加護で守ってくれよ。悪意あるもの達を滅し、大日本帝国を守ってくれ。範囲は沖縄から北海道までの区域とその領海及び領空で頼む」

「───────!!」


 世界樹の意志は大きく1度揺れると、そのままどこかへと飛んでいく。


 え、もしかして本当に守ってくれるの?だとしたら最高だぜ、防衛費が丸々浮くわ。


 俺は思いがけない報酬を手に入れ、この日本国の再建の第一歩を踏み始めるのであった。




後書き。

多分、これが最速です(転生して半年)。

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