メイド服の女
昼食を食べ終え、暇つぶしに俺の能力で具現化したゲームで遊んで暇を潰す。
この世界では我が祖国日本が滅んでしまっているので、某有名ゲーム会社の殆どは無くなっており某Xな箱の会社がゲーム事業の覇権を握っている。
二つ折りのゲーム機とか、W〇i等が生まれなかったこの世界は、俺からしたら少し退屈でもあった。
が、流石は俺の能力。
小学生時代に遊んだゲームは玩具と判定されているらしく、ほぼ魔力を使わずとも本物を具現化できてしまう。
スーちゃんと遊ぶ時は、スーちゃんがゲーム機を今日に扱えないのでチェスやら囲碁を楽しむが、こうしてリィズやジルハードと遊ぶ時は専らゲームをして遊ぶのが最近のブームである。
「あぁぁぁぁ?!ミスったァァァァァァァ!!」
「やっぱりジルハードは弱いねぇ。
「俺は昔から遊んでたからともかく、リィズは上手いな。当たり前のようにフレーム回避してやがる」
「え?こんなの見てタイミング良くボタンを押すだけじゃん」
「それが出来ない奴が隣で泣いてるぞ」
「いや、俺も本気出せばできるから!!銃弾よりも遅いこのモンスターの攻撃なんて避けられるから!!」
「見栄を張るなよジルハード。もうオッサンなんだから反射神経が鈍ってんじゃないのか?歳だよ歳」
「馬鹿言え俺はまだまだ
「んじゃ、この後のクエストはソロでいいな。頑張れよ。応援してる」
「あ、ちょっと待ってボス。ボスはボスなんだから、可愛い弟分の面倒を見てくれないと」
お前みたいな筋骨隆々の弟を持った覚えはねぇよ。
今俺達がやっているゲームは、某モンスターをハントするやつ(4G)。
流石、落ちるヘリを作ることに定評のあるゲーム会社。本物を知っている奴らまで虜にできるだけのゲームを作れるとは恐れ入ったぜ。
自由自在に動ける現実と違い、制限された
こんな所でも向上思考を持てるなんて真面目なヤツだ。今はモンスターにはめ殺されて発狂してるけど。
そんなこんなで3人でモンスターをボコし、ジルハードが一乙してクエストを終える。
「んー、グレイちゃん。これなんて読むの?」
「それは“獄〇竜の昏玉”だな。確率2%とかの超激レア素材だぞ」
「お、それはラッキー。常日頃から神への献身を欠かさない私だから、運が巡ってきたのかな?」
「どの口が言ってんだ
「あーそれはだな──────」
こうして楽しくやっているゲームではあるが、1つ問題点があったりする。
それは、言語だ。
俺の遊んでいたゲームはもちろん日本製のものであり、どのゲームも日本語で作られている。
既に古語と化した日本語をリィズもジルハードも読めるわけが無く、俺がこうして日本語を教える羽目になっているのだ。
リィズは俺の事情を知っているため何も疑問に思わないが、ジルハードには何も話していない。
が、長年裏社会で生きてきただけあって、彼は余計な詮索をしてこなかった。
“詮索屋は長生きしない”。
彼は自分のボスたる俺の秘密に興味こそあれど、その秘密を暴くのに自らの命を
まぁ、知られたところで殺されることも無いけどね。
そんな訳で、言葉が理解できない彼らからすると、モンスターを狩って強くなると言う単純明快なゲームはストーリーを理解さずとも楽しめるゲームなのであった。
流石はカ〇コン。言語が理解できないやつでも楽しめるゲームを作るとは流石だ。
「さて、報酬も受け取ったし、そろそろバーに行くか。何か面白い情報があるといいんだが........」
「どうだろうな?この三日間の間では俺の耳に大した情報は入ってきてなかったが........何があるのか分からないのがこの街だ。案外、俺たちが探している人材が出てきてくれるかもしれんぞ」
「そうであることを祈りたいねぇ。出来れば、全てが穏便に住んで欲しいけど。また
「ハッハッハ。名前をラザロにでも改名しておくか?そしたら生き返れるだろ」
「キリストが居なきゃ意味がないだろうが。ヨハネによる福音書を読み直せ」
俺も読んだことないけどね。
俺はそう言いながら服の下にスーちゃんを仕込み、愛銃を持ってバーへと赴くのだった。
【ラザロの復活】
イエス・キリストの友人であり、ユダヤ人男性。“ヨハネによる福音書”によれば、一旦死より甦らされた。
俺達の行きつけのバーは、相も変わらず腰に
メキシコの治安が終わってる場所と大差ないイカれたこの街で、夜中の店に護身用の武器も持たずに入り込むなんてのは自殺行為でしかない。
どう見ても、バーの雰囲気だけで隠せる物々しさでは無いな。
誰かが
酒に酔うよりも先に、血の匂いに酔えるバーなんざ行きたかねぇよ。
「お久しぶりですね。随分と派手にやったらしいじゃないですか」
「ウチのボスは優秀だからな。一体どこで
「グレイちゃんは凄いからね。世界の先を見据えた未来視を持ってるよ。そこら辺の路地で占いしている詐欺師より余っ程為になるとは思わない?」
「ハハハ。なら、私の儲け話も占って欲しいですね。そうは思いませんか?“
「俺が稀代の占い師なら、今頃こんな小便と血の臭いがこびり付いた街に居ねぇよ。やる事なす事上手くいって、世界最大の大富豪にでもなってる」
マスターからいつものカクテルを入れてもらい、それをチビチビと飲みながらツマミとして出された唐揚げを摘む俺。
頼むから俺を持ち上げないでくれ。望んでもないのに、マフィアになったやつの先見の明がそんなに偉大か?
俺だったら金を払われても占って欲しくないね。
今すぐ視界から消えろペテン師がって怒鳴る自信があるよ。
「それで、今日来たご要件は?ただ酒を飲みに来た訳でもないのでしょう?」
「そうだ。目出度くマフィアになったとは言えど、ウチは
僅か3人のマフィアなんざ、小学生のお遊びにもなりゃしねぇ。
「そういう事ですか。求めている情報とは少し違いますが、面白い話を聞きましたよ」
「ほう?是非聞かせてくれよ」
ジルハードはそう言うと、金貨を5枚置いて情報を買うという意思を見せた。
どこの世界でも情報は金に勝る。
その点、リィズを我が娘のように思ってくれてほぼ無償で手助けしてくれている木偶情報屋には頭が上がらないな。
今度行く時には差し入れでも持っていくか。あの木偶人形が何を好むのか知らんけど。
金を2枚だけ受け取ったマスターは、少し声を小さくしながら話始める。
金貨2枚分しか取らないということは、詳しいことはよく分かってないと見てよさそうだな。
「つい先日、ダンジョン抗争が終わってから4日後辺りにこの街では見かけな人が入ってきたと言う噂があるんです」
「この街は人の出入りが激しいから、特段気にかけることでも無さそうだが........何か特徴があったのか?」
「客の話を聞く限り、どうもメイド服を纏った女だったらしく、
「この街じゃ珍しくもないな。
「そうなんですよね。で、次の日、その声を掛けた男は死体として見つかったそうですよ?」
急展開すぎるだろ。
サスペンスドラマでももうちょい手順を踏んでくれるよ。
「監視カメラ........はほぼ無いから、誰かがその状況を聞いていたか見てきたのか」
「そんな所ですね。そしてここからが本題です。二日前、この街にCH(中国)の
「
「グレイちゃんもそれなりに目立つもんねぇ........」
「いや、貴方達のボスの場合はもっと別の理由で目立ってますけどね?」
CHか。
前の世界では日本のお隣であり、何かと面倒事を引き起こしてくれていた国ではあるが、この世界ではどうなんだろうな?
現在アジア圏の国は経済的にかなり苦しい状況であるとは聞いているが、真実がどうなのかは不明である。
「CHが入ってきた時期を考えると、そのメイド服の女が怪しいのではないか?となっている訳ですね。彼女の顔を見たという物は、アジア系の顔をしていたと言っていましたし」
「となると、どこぞの政争に負けたお嬢様か?この街ならそんなヤツごまんと居るだろうし、アジア系は目立つとは言えど時間が経てば誰も気にしなくなる」
「もしくは、何らかの機密情報を持った存在かも?今のCHってダンジョンのせいで世界の中でも真ん中ぐらいの力しかないし、逆転の一手を打とうとしていた所を邪魔されたかもしれないね」
「リーズヘルトの考えも有り得るな。と言うか、急にマトモになるなよ。情緒不安定か」
「失礼な。私はいつもマトモだよ」
今の世界経済は、確かヨーロッパと北アメリカ、そして北アフリカの三ヶ所。
どこもダンジョンからの被害が少なかった場所であり、アジア圏はダンジョンに飲まれてしまっている。
人が住めるとは言えど、贅沢な暮らしはできないんだろうな。
「今の経済国ってどこだっけ?」
「三大経済国と言えば、
「あぁ、そういえばそうでしたね。世界の均衡が崩れそうです」
「で、CHの経済状況ってどうなってる?」
話が逸れそうだったので、さっさと質問に移す。
FRの半分が吹っ飛んだのは俺のせいじゃないから。理由は知らんけど、なんか吹っ飛んだだけだから。
神に誓って言おう。俺はやってない。
「昔は
「へぇ?崖っぷちの資本主義よりも1歩先に行く共産主義を捨てたのか」
「プハハハハ!!崖から落っこちてるじゃねぇか。ま、そんな訳で金の亡者となったCHだが、やはりダンジョンの存在が邪魔なんだろうな。管理できるダンジョンよりも、管理できずに被害を生む方が多い。昔のように畑から人が取れる時代は終わったんだ」
「人を使い潰すすべしか知らなかった
「だな。んで、経済状況は最悪とまでは行かずとも悪い。リーズヘルトの様に逆転の一手が無ければかなり厳しい立ち位置に置かれると言われている」
世界線が違えば、USA(アメリカ)とタメを張れるだけの経済大国になったというのに。
俺は最後のから揚げをつまむと、タバコに火をつけながら考える。
確かに面白い話ではあるが、CHがその女を追っているのであればまず間違いなく“
また国家に追い回されるのは勘弁願いたいし、今回の話は見送る方針で行くとしよう。
「仲間にすんのは無理だな。もしウチで匿えば、CHの連中が血眼になって俺達のケツと口を溶接しに来るぞ」
「だろうな。リーズヘルト。メイド服の女を見かけてもちょっかい出すなよ?」
「グレイちゃんの敵にならなければ何もしないよ。私は“待て”ができる女だからね」
「主人が待てを言う前に相手をミンチにしてちゃ世話ねぇよ。ともかく、コイツと関わるのはよそう。ボスが言ってる通り、最悪CHの連中にケツの穴を狙われかねん」
この言葉がフラグになるとは、この時の俺は思いもしなかった。
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