新たな仲間
ミドレギャングの生き残りは、現代アートとなった殺し屋から言われた場所に居た。
彼は俺達を見て、ようやく自分のケツに火がついた事を認識したが時すでに遅し。
ケツに着いた火は既に全身へと回っており、彼が出来ることと言えば神への祈りを捧げるぐらいだ。
「これで良しっと。何度やっても慣れんな」
「グレイちゃん、無理しなくてもいいんだよ?嫌なら私がやるし........」
「自分の手を汚さず、リィズだけ汚させる訳ねぇだろ?俺達は同じ罪を背負うのさ」
最早、人として区別がつかない肉塊へと変貌した生き残り。見せしめとしては十分だろう。
こんな事をすれば警察が黙ってないように思えるが、この街の、否、この国の警察組織は腐りきっている。
流石に人目の多い大通りで銃をぶっぱなしながら殺戮の限りを尽くせば、警察もその面子にかけて俺達を殺しにくるだろうが、人目のないところで誰かを
日本じゃ有り得ない事だが、この国では当たり前であり常識である。
俺はゴロゴロと猫のように喉を鳴らしながら抱きつくリィズの下顎を撫でてやりつつ、ここまで着いてきたジルハードに話しかけた。
「港に着いたぞ。さっさと降りろ」
「おいおい、少しの間とはいえ、航海を一緒にした同士に酷い言いようだな。俺はアンタとまだ旅をしたいんだが?」
「生憎、船長は俺だ。決定権は俺にある」
「そう言うなよ。久々に俺の直感が“面白い”って言ってるんだ。料金は払うから、もう少し乗せてくれや」
ジルハードは何故か俺達と行動を共にしたいらしく、必死に食い下がってくる。
そこに敵意は無いが、怪しい。この世界で生きていくために木偶情報屋に教えられた心構えは、1に疑い2に疑う3.4も疑い5に殺せである。
成り行きとはいえここまでは一緒に行動してきたが、これ以上船に乗り掛かられるのは勘弁願いたかった。
「お前ら、
「自分で自分を強いって言うやつは宛にならんな。帰ってスーパーマンでも見てろ」
「生憎、俺はヒーロー物よりダークヒーロー系の方が好きだ。バットマンとかな」
「母親の名前はマーサってか。親の名前が一緒なら人類みな兄弟か?
「警戒するのは分かるが、少しは取り合ってくれよ。俺は役に立つぜ?」
しつこいな。何故そこまでしてジルハードは俺達の仲間になりたいんだ。
若干イラつき始めた俺は、少し口調を強くする。
「帰れ。3度目は無いぞ」
俺が本気でイラついているのを感じ、ジルハードはこれ以上食い下がっても敵対するだけだと判断したのか、肩を落として部屋を出ていく。
部屋を出る寸前、彼はポツリと呟いた。
「残念だ。“五大ダンジョン”に挑んでくれそうなヤツだったんだがな」
「──────────まて。“五大ダンジョン”だと?」
俺が反応すると、ジルハードは部屋を出る足を止めて戻ってくる。
その言葉は聞き逃せない。俺はジルハードを呼び止めると彼は俺が興味を持ったと確信したのか、勝負をしかけてきた。
ここで俺を逃せば、次は無いと悟ったのだろう。
「そうだ。一度は諦めた“五大ダンジョン”の攻略。俺はそれを目指している。だからこそ、今は
「........なぜ目指す?“五大ダンジョン”の攻略は世界ダンジョン連盟の名において禁止されてるんだぞ?」
「そこにロマンがあるからさ。男なら一度は見てみたいだろう?前人未踏の禁忌。世界が恐れる最強のダンジョン。その先になにがあるのか、気にはならないか?」
「たとえ犯罪だとしてもか?」
「それは今更さ。当たり前のように人を殺してきたんだぞ?犯罪に手を染めることに危機感を持つなら、こんなクソッタレな街にはいないさ」
動機は十分。しかも、コイツは“五大ダンジョン”の攻略を目指している。
こんなところに原石は転がっていたのか。まだ完全に信用はできないが、少なくとも同じ志を持つ同士として仲良くするだけの価値はある。
「リィズ、コイツは黒か?」
「んー白かな」
裏切る可能性は“低”。リィズの勘はほぼ100%なので、これは信頼してもいいだろう。
俺は“場所を変えよう”とだけ言うと、ジルハードを連れて俺達が拠点にしている小さなアパートの一室に案内した。
流石に、隣に肉塊がある状態で長々とは話したくない。ジルハードも同じ気分だったのか、素直に俺達の後を着いてきた。
俺とリィズが住んでいるアパートは、この街の中では比較的綺麗な部屋であり、住んでいる者達も脛に傷持っている訳では無い。
大通りから1本逸れた道にある見た目はボロいアパートが、今の住居だ。
木偶情報屋の口利きで契約したアパートの部屋に入ると、ジルハードはようやく口を開く。
「で、俺をここまで連れてきた理由は?」
「言わなくてもわかってるだろ?“五大ダンジョン”だよ。お前の話しに興味を持った。もう少し囀ってくれ」
「へぇ、“マーサ”では釣れなかったが、“五大ダンジョン”は釣れるのか。やっぱり俺の目に狂いはなかったな」
ジルハードはそう言うと、椅子に腰を下ろした。
俺がタバコに火をつけるのを待ってから、ジルハードは話始める。
「どこから話して欲しい?」
「経歴は?」
「会社の面接かよ。俺は元ギャングのリーダーさ。活動場所はブルガリア。ギャングでありながらダンジョンを3つほど持ってた大きな組織だった」
「そいつは凄いな。そのギャングの名前は?」
「ブルーギャング。当時は青い服を俺がよく好んできていたからその名前が着いた」
ブルガリアのブルーギャングか。後で木偶情報屋辺りに話を聞いてみよう。何か分かるかもしれない。
「“元”って事は、辞めたのか」
「いや、他のギャングに滅ぼされたよ。幹部に
重い話である。ジルハードの顔も一気に曇り、部屋の空気は一瞬にして重たくなった。
が、別になにか言葉をかけることは無い。俺もリィズも、こういう時気を使わない方がいいと言うのは知っていた。
「それで、この街に流れてきたと?」
「そんな感じだ。一度は世帯を持って夢を諦めたんだが、また1人に身になったんでな。ならば夢を追いかけてみようと、“五大ダンジョン”に挑んでくれそうな馬鹿を探していたって訳だ」
「それが俺達だったと?」
「そうさ。勘だったが、その勘は正しかった。今、お前達は俺に興味を持っているんだからな」
ジルハードはニヤリと笑う。
こう言うタイプの人間は、滅多なことでは裏切らない。愚直で裏のない人間であり、波長が合えば気に入る奴も多いだろう。
ギャングのリーダーをやっていたのを見て分かる通り、彼は人に好かれやすい。その分、後ろから刺されやすいが。
「どうだ?俺を仲間にしないか?俺は上に立つ器の人間じゃないって学んだからな。
彼の強さが未だ未知数だが、その溢れ出る自信から相当な猛者なのだろう。少なくとも俺よりは強い。
完全に信用するには時間がかかるが、仲良くなるに越したことはない。彼は長年裏社会で生きていた様だし、学べる部分もある。
俺はリィズに視線を向けると、彼女は小さく頷いた。
リィズも賛成。ならば、この提案を断るという手は無い。
「いいだろう。俺の下に付け」
「了解。ボス。俺の夢の果て見せてくれよ?」
「安心してくれ。神の思し召しがあるからな」
「?」
ジルハードは俺の言葉に首を傾げながらも、俺が差し出した右手を握り返す。
先ずは1人。正式に仲間になった訳では無いが、貴重な戦力を手に入れた。
こうして、後に
【バットマンvsスーパーマン】
2016年に公開された映画であり、アメリカン・コミック史上最も有名なヒーロー、バットマンとスーパーマンが対決する作品。禁断のヒーローバトルが見られると期待していたが、母親の名前が同じ“マーサ”という事を知り和解。
この和解の仕方が議論を呼び、デッドプールでは度々ネタにされている。
世界最悪の犯罪都市グダニスクに現れた新星“
元々様々な組織から注目されていた存在と言うだけあって、俺たちの動向は常に監視されている。
この街の腐ったポリ公ですら俺達には細心の注意を払っているのだから、その危険性は重々承知されているのだろう。
俺がやったつもりは無いが、俺はFRの4分の1近くを火星にまで吹っ飛ばしたヤバいやつだ。
監視されるのも無理はない。
それでも彼らが手を出してこないのは、俺がその気になればPOLを吹っ飛ばせると考えているからだ。
もちろんそんな事出来ないが、それが抑止力となっているのは有難い。
メリットとデメリットを考えれば、圧倒的にデメリットの方が大きいが。
「いやぁ、昨日も楽しかったなボス」
「そう思ってるのはお前だけだよ。俺は疲れた」
仲間になったあの日以来、俺を“ボス”と呼ぶジルハードは、楽しそうに今日も俺達とダンジョンに潜る。
今の街の情勢を鑑みて、なるべくエボラスファミリーとデックギャングの縄張りから離れたダンジョンを選んで潜っていた。
「グレイちゃん疲れたの?今日はやめとく?」
「いや、そこまでじゃないさ。ダンジョンに潜るのも疲れるが、チンピラに絡まれるほどじゃない。それより、そこにいるゴブリン共を殺してくれるか?」
「はーい」
ジルハードが仲間になってからと言うもの、俺達には絡んでくる馬鹿は目に見えて減った。
俺達に手を出した馬鹿どもが次々と豚の餌になっていると言う噂が広がっているのもあるが、ジルハードがこの街で恐れられていると言うのもあるのだろう。
ジルハードはとにかく顔が広い。
俺がよく行く店のバーテンダーとも知り合いだったし、よく分からん麻薬売の商人や教会という名の暴力集団とも知り合いだった。
暴力教会........ここはロアナプラかな?
そんな顔の広いヤツを敵に回したい奴なんてそうそう居ない。バーテンダーの野郎に至ってはジルハードに借りがあるらしく、少しの頼みなら聞いてくれるそうだ。
道理で俺達が
「それにしても、リーズヘルトは強いな。なんだあの動き。本当に人か?」
「リィズは強いよ。お陰で俺は楽できる」
接敵した魔物を秒殺するリィズを見て、ジルハードは呆れ返る。
ゴブリンの群れを蹂躙するリィズの動きは、まさしく人間離れしていた。
まぁ、俺はそもそも目で追えてすらいないので、何をどうやっているかはさっぱりだが。
「凄いよな。アレで能力使ってないんだぜ?」
「化物かよ。身体強化を使えば多少強くなれるが、あれはどう見てもそういう次元じゃ無いぞ........ボス、アンタもやって見せろよ」
「馬鹿言え、俺は
リィズは改造人間だ。ルーベルトと話している際は聞き逃したが、逃亡中に改めて“アリス機関”に関して詳しい話を聞いている。
“アリス計画”。
簡単に言えば、魔物の遺伝子を人間に埋め込み、新たな人類(又は兵器)を生み出すと言う計画だ。
なんでも“第五段階”を乗り越え、更に“第六段階”の途中まで行ったそうだ。実験体の中では“特別”であり、魔力が使えなくなっていた当時で無ければあの兄弟も俺と熱い鬼ごっこを繰り広げたオーガも殺せるんだとか。
“第五段階”や“第六段階”ら辺は専門用語の羅列で、半分聞き流していたのでよく分からない。
リィズは、人に物を説明するのがあまり上手ではなかった。
いつか殺すべきであるあの兄弟も“アリス計画”の“成功例”。其の能力と相性のいい性質を持った魔物の遺伝子を体内に組み込み、適応している。
さらにもう一人“成功例”が居るらしいが、こちらはある時から姿を消しているそうだ。今どこで何をしているのか、知っている者は居ない。
「グレイちゃん!!終わったよ!!」
「よくやったな。偉いぞリィズ」
返り血すら浴びることなく帰ってきたリィズを褒めてあげると、リィズは嬉しそうに俺に抱きつく。
戦闘で興奮したのか、かなり体温が高かったが、俺は気にしなかった。
「それじゃ、さっさと解体するか。塵も積もれば何とやら。小銭でもバカに出来ないしな」
「このダンジョンは、旨味が少ないのが困りもんだな。とは言え、でかいダンジョンに行こうとすると絶対面倒だぞ。抗争に巻き込まれる可能性が高い」
「何時かは行かなきゃならんけどな。先ずは資金調達、何事も金によって“こと”は回るってもんだ」
「厳しい世の中だねぇ」
俺とジルハードはそう言うと、ナイフを取りだしてゴブリンの解体を始めるのだった。
【アリス計画】
魔物の遺伝子を人間に埋め込み、新たな人間を創り出す計画。能力の使用はそのままに、魔物のような強靭な皮膚や肉体を手に入れることが出来れば、強大な戦力になるとして二代前のFR大統領が秘密裏に進めていた。が、現大統領は余りにも非人道的すぎるとしてこれを許さず、アリス計画は頓挫。以降、アリス計画は更に深い闇の中で小さく行われている(グレイがぜんぶ吹き飛ばしたが)。
リィズは今までのアリス計画の中でも最高傑作であり、他の“成功例”3人よりもかなり特別な存在である。
ちなみに、FRの“大統領暗殺計画”の原因はこれだったりする。
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