250.ラコの運用とご飯作り

 フェナの部屋は前回泊まった部屋だった。

 寝室が三つもあるその部屋を、フェナは一人で使っていたらしい。

「いつも通りバルさんとヤハトと一緒に泊まらなかったんですね」

「アレが猛反対してな……しまいにはバルやヤハトを殺意のこもった目で見るので、バルが逃げた」

 こんな状況で嫉妬とは! と思ったが、そう言えばフェナは状況が悪化する前に来たのだと思い出す。

 順調に組み紐トゥトゥガを編みながらほっと息をはく。

「エセルバート様がぶれてなくて安心しました」

「そんなところで安心されてもなぁ……」

「フェナ様と調査できて、エセルバート様がウッキウキな様子が目に浮かびます」

「まあ、聖地に着いたときは泣いて喜んでいたな。大祭ではないが、さすがにあの魔物の調査ということで中に入る許可も得たし」

「あのシミの魔物、聖地の中にも現れたんですよね?」

「闇に潜む魔物ではないと証明された」

「シシリアドの街にはやってきませんでしたけど。周りではちらほら出て来ていて、退治に向かってました。そう言えば、シシリアドの北の山に最初に出たとき、ラコちゃんが教えてくれたんですよ。身振りで一生懸命」

「……ラコはシーナよりもさらに察知能力が高いということか」

 ラコの生態はかなり謎だった。

「大きな魔物をばくっと食べてしまった時は叫びそうになりましたけど」

「側に置いておけば安心だな。普通の魔物は食べるのだろうか?」

「わからないです。ただ、前も闇に潜む魔物を食べていたっぽいから、そういった闇から生まれるものだけかもしれないですね」

「そう言えばそうだっな……」

 小さなものだから貝に打ち付けるよう、シーナの想像に付き合って、ラッコの生態を再現してくれていたのかもしれないし、とどめを刺すのに打ち付けていたのかもしれない。

 完成した組み紐トゥトゥガを渡すと、フェナは満足そうに頷いた。

「まだいけるならもう一つ編んでくれ」

「はーい」

 聖地に着いたのはもう夜遅くで、そのあと一時間以上はサンドウィッチを作って、プリンを作ってしていた。たぶん明け方なのだと思うが、眠気とともに寒気が押し寄せ、眠れる気がしない。

「戦況はどうなんですか?」

「……魔物の動き方が普通ではない。脇目も振らず聖地を目指してくる。指図している者がいるはずだ」

「それがさっき言っていた魔物の中にいる人、ですか?」

「ああ。そんな気がする。……人のいるあたりがいつも気持ち悪いんだ」

 魔力溜まりに魔力を注いだあとは、フェナはソファに寝転んで目を閉じている。平気そうに見えても、疲労は蓄積しているのだろう。

「そこが解決の糸口になるといいですね」

 フェナはもう、それには答えなかった。

 組み紐トゥトゥガの糸を切ると、フェナが立ち上がる。

「無理矢理にでも寝なさい」

 出来上がった組み紐トゥトゥガを持って寝室へ向かう。

「フェナ様……五割増しの祝福があると、変わりますか?」

「……断然違う。今日も、ラコがやってきたあとは魔力の消費量も違うし、威力が桁違いだ。かなり楽だった。ただ、これを知られればシシリアドに帰ることはできないかもしれないぞ」

「どちらにせよみんなで帰ることができなければ意味がないんです」

「……とりあえずエセルとジェラルドには話してからやりなさい。下手をすると周りに被害が出る」

「はーい」

「眠れないならアルバートを連れ込んでもいいぞ」

「は!? こんなときに何言ってるんですか!」

「人肌というのは案外眠りやすいのだと、エセルが言っていた」

「それ、単にフェナ様お誘いしてるだけじゃないですかぁ」

「まあ、私は気にしないという話だ」

 ふふふと笑って寝室へ消える。

 もー、と憤慨しながら丸台を片付けてベッドにダイブする。

 だが、確かに一人寝は不安だなと目を閉じながら思った。


 うとうとしつつも深くは眠りきれず、一の鐘とともにベッドから抜け出す。自分にできることは、組み紐トゥトゥガを作ることか、ご飯を作ることぐらいだ。

 【万緑】と【常緑】の食堂が開かれていると言っていたが、そこへ出向いて調理となるとまた付き添う人などの問題が出そうで、それならエセルバートの厨房で作り、運んでもらうほうが面倒はかけないで済みそうだ。

 マヨネーズは魔法の調味料。みんな大好きマヨネーズだ。

 せっせと作り、パテラを茹でて皮を剥く。ハムとキリツアスライスを準備し、全部混ぜればパテラサラダの出来上がりだ。それをバターを塗ったパンに挟む。もう一種類はハムタマゴにした。

 神官に運びたいと頼むと、快く了承してくれた。どれが人気かも聞いておいた。

 食パンのような形はなく、フランスパンのような長いものをスライスしてサンドウィッチにしている。このあとも作るから、パンを回して欲しいと頼むと、神官たちがウキウキと大量のパンを持ってきて、さらには手伝いを希望してきたが、それはお断りした。

 なんとなく、一人で作業していたい。

 アルバートたちのタイムスケジュールがわからないのでそれに合わせて食事を作るのが難しい。

 ということでさらにクリームシチューとパテラサラダ、たまごサンドの卵を鍋に作って冷暗所においておくことにする。

 ごはん作り二回戦の始まりである。

 二の鐘は先程鳴った。

 ツナがあればツナマヨという最高の物体ができるのになと思いつつ、シシリアドに帰ったらやってみようと心に決める。ここに魚はない。

 シチューをぐるぐるかき混ぜる。温かい食べ物は心を落ち着かせるのだ。

 ああ、ここに米があれば、おにぎりを山程作るのに。

「シーナ?」

「あ、フェナ様おはようございます。もう起きたんですか? もっと寝てなくて大丈夫ですか?」

「今日は丸一日休みだからな……シチューか」

「食べます? 今できたところですよ?」

「もらおう」

 スープ皿にシチューをよそって、パンにパテラサラダと卵ハムを挟んだものも準備する。

 お茶はすでに他の神官が淹れていた。

 と、ちょうどそこへドタドタとヤハトが現れる。

「疲れたぁ〜」

「おかえりヤハト! バルさんも! 御飯食べる?」

「食べる!」

 二人の分も準備して運んだところで、シーナの絶叫が食堂に響いた。

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