90.振る舞い
フェナが何やら遺体が寝かされていた台から拾い上げる。
神官服を来た男性が、手元の小箱にそれをもらい受けていた。
儀式は終わったのだろう。
「バル、ヤハト。シーナのことお願いしていいかしら?」
「おう任せとけ!」
ヤハトが請け負うと、ガラはよろしくと、足早に出ていった。
「フェナ様を待ってから行くんだよね? でもさ、大勢がいる広場とか、フェナ様が行ったら大変なことにならない?」
「ならない。フェナ様が通るところには道ができる」
何かの名言か。
「フェナ様は組み紐ギルドの中か、ベラージ翁の家かで振る舞い料理を食べると思う。シーナも一緒に食べればいい。外はなかなかに戦場になるからな」
「フェナ様の特権使って一緒に食えばいいよ、シーナも」
そうさせてもらおう。
「さっき、フェナ様が台から拾ってたのってなあに?」
「ん、拾ってたの?」
「神官様に拾って渡してた」
「あー、精霊石だろ、ベラージ翁の」
人の精霊石とはどういうことか。
シーナの疑問を察したバルが説明してくれる。
「百歳を越えると雫葬をするのは、人が精霊に近づいていくからなんだ。そして亡くなると残りの魔力に精霊がなだれ込んで精霊化する。闇の魔物に取り込まれないよう、寄り付いた精霊たちともども雫葬で世界樹様に還すんだよ。そして残るのが精霊石。あれは、大祭のときに神官が世界樹様の元へ運ぶんだ。それで完全に世界樹様に還ったこととなる」
「人は亡くなるとみんな石に?」
「いや、百を越えるくらい生きないとそうはならないね。普通に土にかえるだけだ。精霊の炎で焼いて、灰を、ここなら海に撒く。山や森に撒く場所もあるな」
火葬で良かった。ちゃんと遺灰もあるようだ。
「雫葬を見たのは俺も初めて!」
「俺は二回目だな」
「だいたい百生きるのなんて
そう、シシリアドでヨボヨボの足腰たたない老人を見たことがない。平均寿命は低めなのだろう。
なんだか唐突に淋しくなって、じっとヤハトを見つめる。
「どうした?」
聞かれて首をふる。
「ううん……死ぬまでに、ヤハトは私の身長超えられるのかなって……成長期、終わってるよね?」
途端に顔を真赤にする。
「俺はまだ成長してる! 精霊使いはわりと長生きするんだよ! で、精霊に関わってると成長が緩やかになる!」
「という説もあるな」
「バル!」
フェナ様バルなみに背が高いんだが、ヤハト……と、心の中でつぶやいてると、着替えを済ませたフェナがやってきた。いつの間にか祈りの間に残っているのはシーナたちだけだった。
「お疲れ様です」
さっと駆け寄るバル。
無理やり引き抜かれて連れ回されたと言っていたが、バルのこういったときの対応を見ていると、絶対好きでやっている。
「とっても綺麗でしたよ、フェナ様」
ぶすくれてるのか無言のフェナ。と、唐突にシーナの顎に手をのばす。
これは、伝説のアゴくいっ!!
と、驚いているとまっすぐ両目を覗き込まれる。
「めちゃくちゃ近いんですけどぉぉ」
鼻がつきそうな距離にドキドキを通り越してハラハラする。
「黒だよな」
そうつぶやいて離れた。
「何か問題が?」
バルが心配そうにシーナとフェナを交互に見る。
「……シーナが精霊を目で追いすぎる」
「あー、その件はまた屋敷で」
ヤハトが答えると、フェナは形の良い眉を跳ね上げたが、何も言わずに出口へと向かう。
「シーナの作った物が食べたい」
「たくさん作りましたけど、のんびりしてたらなくなっちゃうかもしれませんね」
そうしたらまた作りますよと言葉を続けたかったが、フェナがぐんと歩調を上げた。
「フェナ様早い! そんな急がなくても!」
「シーナが新しいものを作るというから、面倒だったけどいやいやしぶしぶ我慢して儀式をしたんだ! これでなくなってたら広場吹き飛ばすけどいい!?」
「よくない!! ヤハト先に行って確保ぉ!!」
結論から言うと、
雫葬の終わりが告げられると、あとは戦場だったらしい。一応各テーブルに人がついて『良い雫葬でした』とのやり取りのあと振る舞いの料理に手を出すらしいのだが、一人基本一つなので、すぐさま次のテーブルに並ばなくてはならない。いかに早く挨拶を済ませ、料理を取って次へ行くかの勝負が繰り広げられるのだ。
そして旨いテーブルの噂はすぐ広まる。人気のテーブルには長蛇の列が出来る。
シーナの揚げ餃子は瞬く間に売り切れたそうだ。テーブルの前に立ち挨拶を交わしていたガラは満面の笑みを浮かべていた。揚げパンもすでにない。
「良くやった」
ガラのそばを通り抜けるとき、耳元でそう呟かれた。
運び込むときを見ていたので、決して他のテーブルより量が少なかったわけではない。チーズと肉どちらがより人気があったか知りたいなと思いつつ、先に来ていたヤハトに先導されて
中は他のギルド長もいるらしい。イェルムなど見知った顔の他に全く会ったことのない人もいた。どこから持ってきたのか大きなテーブルに料理を並べて酒を飲んでいる。
「フェナ様の席はこちらです」
一人だけ座り心地の良さそうなソファが、この大テーブルに似つかわない。が、フェナが座るとすべてが丸く収まるので謎だ。シーナたちも少し離れた空いている席に座った。
「お酒はどうされますか?」
フェナの隣の男性が聞く。
「献杯としようか」
グラスが配られたところをシーナはすかさず立ち上がりお酒を注いで回る。
「慣れてるなぁ」
「故郷でもこういった席はありましたので」
飲み会のお約束である。シーナが一番年が若い。ヤハトは入れていない。ヤハトは……眼の前の料理に釘付けで無理だ。
注ぎ終わって、シーナが席に戻ると、フェナがグラスを持った。
「ベラージ翁に」
「「「ベラージ翁に」」」
そして皆の手が真っ先に揚げ餃子に伸びた。
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