71.お風呂

 フェナに連行され、屋敷へ向かう。

「そんなに簡単な仕事だったんですか?」

「んー、守秘義務」

「あ、了解です」

 すぐに引き下がったシーナへ、フェナはちらりと視線を向けた。

「さっき買った茶葉。収穫地に魔物が出た。茶葉が栽培できなけりゃ、貴族相手の商売で大ダメージだから」

「あんなとこにアレが出るのが変だけどなぁ〜」

 ヤハトの言葉に、バルも頷く。

「確かにあちらの領地の森からも少し離れたところだったな」

「手に負えない強い魔物だったから呼ばれたけど無事討伐完了てことですね。お疲れ様です」

「……そう、とても疲れた。追い風二重掛けで走ったからすごく疲れた。なので美味しいご飯を所望する」

「えええ」

「最近呼んでなかったらいいじゃないか。お風呂にゆっくり浸かって……」


 は?


「お風呂!? お屋敷にお風呂あるんですか!?」

 シーナの剣幕に、さすがのフェナも驚きに目を丸くした。

「あるけど?」

「なんでえええ! なんで言ってくれないんですかぁぁぁぁ!!」

 こちらに来て風呂に入れない生活。ガラに泣きついて洗浄の組み紐トゥトゥガを作ってもらい、丸洗いする日々。衛生面はそれでいいかもしれないけれど、違うのだ。タオルを湯で絞って体を拭いたこともあったけど、違うのだ。

 湯船に浸かりたい!!

「私も、私もお風呂に入りたい。入りたいです。湯船に浸かってのんびりしたい!!」

「そう言えば、シーナの故郷は生活水準高かったね」

「お風呂入れるなら頑張ってなんか美味しいもの考えます〜」

「取引成立」

 よっしゃ、よっしゃやる気出た!

 一年以上も入ってない風呂に入れるのだ。やるしかない。

 さて、メニューは何にしよう?


 コメを食べたいのだが、牛丼とか作ってもそんなにピンとこないだろうな。ここは、ヤハトに手伝ってもらって、ハンバーグでしょう!

「本日は、煮込みハンバーグを作ります」

 いつも以上に気合の入ってるシーナに、他のメンバーもやる気に満ちている。ように、シーナには見えた。

「まずは器用なヤハトくんのお仕事です。お肉をボウルの中でミンチにしてください」

 野菜スープをソニアにお願いしたら、シアが自らかってでた。慣れた手つきで包丁を使い野菜の皮を剥く姿は感慨深い。

 煮込みハンバーグに使うので、チキンスープにしてもらい、骨も一緒に煮込んでもらう。その後具材とスープを分けて、食べられるものは戻す戦法。本当は鍋の形とそっくりな一回り小さい穴の空いた物があればサバっと引き上げられるのだが、残念そんなものはない。手間を掛けてもらうしかないだろう。

 ヤハトにはお米も精米してもらった。パンは配達の固いパン。みんなはそちらを食べれば良い。

「今日はハンバーグ初めてだし、ハンバーグに注目してもらいたいからハンバーグだけにするけど、野菜も一緒に煮込んでも構わないです」

 オーブンがあるなら軽く下茹でしたものを入れても良い。

 付け合せにじゃがいももどきパテラの揚げたのも準備しよう。

 キリツアをみじん切りにしてきつね色になるまで炒め、固いパンでパン粉を作り(パン粉用に少し多めにとるようにしているそうだ。いつ何時フェナからの要望があるかわからない)、牛乳と、塩コショウ、砂糖を少しだけ加えてよく混ぜる。

「えー、なんかグチャグチャで気持ち悪い」

「煮込みハンバーグ食べたらヤハトは私に土下座する羽目になるわよ」

 絶対ヤハトは好きな味なのだ。

 ハンバーグに軽く焼き目をつけて、一人ずつの皿がないのでアクアパッツァを作ったときと同じようにみんなのものを一気にオーブンで焼くことにした。鍋ごと行ければそれでも良かったが、今度皿を買ってもらおう。

 玉ねぎときのこをバターで炒めたところに少々小麦粉を振るって更に炒める。チキンスープをベースにしてピーネの皮を向いたものを角切りにして加えた。塩コショウで味を整え、よく煮詰めたあとハンバーグにかけてオーブンへ入れる。

 あとでチーズを乗せるつもりだ。

 これは普通に焼いて、ソースを掛けても美味しいんだとソニアに説明する。中まできちんと火が通ってるかの確認だけは気をつけるよう言う。ピーネとチカの実漬けでソースを作ってもいい。市場で大根のようなものがないか、今は探し中である。大根おろしとか久しぶりに食べたい。おろし和風ハンバーグなんていいなぁと妄想しているうちに夕飯の時間になる。

「シーナ……ごめんなさい。美味すぎる」

「そうであろう、そうであろう」

 先ほど気持ち悪いと称したヤハトが即座に詫びを入れてきた。チーズを上に乗っけたのも良かった。チーズインもいいが、煮込みなのでこちらにした。

「ソニアに風呂の用意をさせる」

「わーい! ありがとうございますー!!」


 浴室は最高だった。

 勝手なイメージで、猫足のバスタブにお湯を張り、その中で体を洗うのも全部済ませるタイプかと思っていたのだが違った。

 どちらかというと旅館の浴室だ。脱衣所があり、体を洗う洗い場があり、さらに一段低くなって風呂がある。手足を伸ばして三人くらい入っても窮屈じゃない、そんな浴室は、最高であった。

 思う存分体を洗う。頭も洗おうとしたら石鹸は一種類だった。覚悟を決めて髪を洗うと、ギシギシになったのでソニアにお酢を少しもらった。アルカリ性を酸性で中和します。お風呂上がりに香油で髪を梳いたら更にマシになった。

 洗浄の組み紐トゥトゥガとは違う開放感に、若干のぼせたが大満足だった。

 日によってはバルやヤハトも入るらしいが、今日はもう疲れたと二人とも早々に就寝している。

 追い風を二倍でとか言ってたのを思い出したので、帰ってきた日に食事のアシスタントをさせて申し訳なかったと反省である。 

 なにか明日甘いものでも作ってあげようと決めた。




  


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