26.神殿教室の昼食
途中から冒険者の生活話になりつつあったのを、計算の時間は終わりということでぶったぎった神官とは目が合わせられなかった。申し訳ない。
「次は読む練習です」
本は高価なものなのだろう。ガラの店でも部屋でも一つも見当たらなかった。一枚の紙をぺろりと渡される。それもかなり年期の入ったものだ。
「聖典の一節です。みんなそれぞれ目の前のものを読む練習をしましょう」
これだ、これが過酷である。
ニールやミリア、大きめの子どもたちはもうだいたいわかっているらしい。まあ、話してる言葉がそのままだからまあ、書ければ読めるよね。
シーナはもちろん読めず、とりあえず単語の発音と意味をそれぞれニールに教えてもらった。
しかし、光は、ニールの口から光と発されてしまう。仕方なく、先程学んだ文字の発音を繋げて聞くと、訂正されて光と聞こえる。
うん、無理だわ。
「れーりぃ?」
「ちょっと違う、ひ か りだよ」
なぜこれで口の動きに違和感がないのか不思議設定いいい!! と脳内で頭を抱えた。口許と、発音に差異がないのだ。世界樹様の祝福よぉぉ!! 困った方向にうごいておりますー。
吹き替えを聞いているような違和感が生まれない。本当に謎仕様であった。まあ諦めて、発音できないけど読めるように努力します。
単語を丸まま覚えるしかない。この年で他言語を学ぶことになるとは……。
やがて、昼の鐘がなった。子どもたちが我先にと借りていた石板と石筆を神官の籠に返しにいき、席に着く。ぴんと背を伸ばし、静かに座る。
すると、先程シーナたちが入ってきたのとは反対の入り口から、籠と鍋をもった人々が入ってきた。神官服を着ておらず、シーナたちと変わらぬ装いだ。
「今日も奉仕のみなさんが昼食を準備してくださいました。感謝していただきましょう」
籠から食器を取り出し、前から順番に取りに行く。
これは、私ももらってよいのだろうか? ここで帰るとかもありなのだが。
戸惑っていると、ミリアがシーナの腕を掴む。
「行きましょう」
神官も、どうぞと促すので列に並んだ。
学校給食みたいだ。ただ、ずっとずっと質素である。
固いパンと、野菜が少し入ったスープ。それを両手に持って席に座ると、前の方から匙の入った籠が回ってくる。
「今日もまた食事を得られたことに感謝し、協力してくれた皆様に感謝し、いただきましょう」
食事の始まりの挨拶がないのにはなれたが、心の中で、いただきますと唱える。
子どもたちはわりときれいに食べていた。がっつくわけでもなく、黙ってもくもくと平らげる。
久しぶりの味の薄いスープとゴリゴリのパン。
パンをちぎり、スープを吸わせて食べるのだ。
この昼食が終わると、神殿教室はお開きとなる。この後、孤児院の子どもたちは孤児院の掃除をするそうだ。
「教室がないときは何をするの?」
「午前中は奉仕作業だよ!」
「孤児院もだけど、神殿のお掃除!」
「草むしり!」
「薬草園の水やり!」
「お仕事いっぱいだね。薬草園があるの?」
「そうだよ! 神官様がポーションを作るのに使うんだ」
でた、自動翻訳! ポーションて、何だろう。ゲームだとHP回復、小説なんかだとダメージ受けた傷とかがみるみるなおる不思議薬だけど。傷薬とは聞こえなかったから、たぶんそれ以上の効果のあるもので、私の知ってる単語だとポーションになってしまったんだろう。後者が近いのかもしれない。
「ポーションかぁ。見たことないなぁ」
「街の中だと、そんなに使うことないからね。事故があったときくらい。冒険者は必需品だけど」
「街の入り口付近にたくさんお店があるよ」
後ろから声をかけてきたのは、孤児院の子どもでなく、街からやってきた平民の男の子だった。
「神殿では下級中級ポーションがよくあるけど、材料が入ると、上級ポーションが売られてることもあるよ。どんな傷でもあっという間に治るって」
「へー、下級だとどのくらいの傷なら直せるの?」
「ナイフでつけられたのとか、打撲捻挫には効くらしいよ。とりあえず逃げるための最大限だね。ニールが冒険者になれたらうちで格安で売ってやるよ」
「別に神殿で買うからいいし」
少しむすっとした顔でニールが返した。
これは、確執の予感。
「お店をやってらっしゃるのね?」
話に割って入ると、男の子はニッコリと笑顔を見せる。
「これは、
ニックとニール名前もにてるし、ニールが痩せているのはあるけれど、年齢はそう変わらないのだろう。
「ありがとう」
これは、口では勝てないだろうなぁ、ニック。
「もしよろしければ今度は僕らの席の方でお話しを」
いやー、子どもの喧嘩に巻き込まれるのは、大人はいたたまれないです。
「この世界の常識を学んでいるところなの。今は神殿のお話しを中心に聞いているのよ」
だからごめんなさいねという言葉にしない部分を察した彼はうなずく。
「では、神殿のことを知り尽くしたらぜひまた。街の話は彼らはあまり詳しくないですから。冒険者のことも」
バチバチやーん。ニックはさっとその場から消えるが、ニールは大変不満そうにうつむいていた。何と声を掛けてよいのやら。
「さあ、あなたたちも、午後の掃除の時間になりますよ」
神官の言葉に、子どもたちはパッと立ち上がる。
「シーナさんまたね」
「うん。また。ニックもまた、十日後。読み書き教えてちょうだい」
「……うん」
あの歳になるとさすがにこの程度でご機嫌は直してもらえないようだ。気になることではあるが、詳しい事情もわからないシーナには、これが限界だった。
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