23.神殿教室
ガラに、常識に触れる機会が必要かもしれない、と言われた。
先日の組み紐ギルド長の言葉をずいぶんと噛み締めたようだ。自分の糸を作ってから編んだ、フェナの
まあまだまだガラの作ったものには遠く及ばないが、実践でも辛うじて使えるくらいになったそうだ。
汎用の
あとは一月に一度くらいの頻度でフェナの
それでも、食うに困らない不労収入を得たし、以前よりは心配事は消えたと、ガラは安堵のため息をついていた。
ほんとうに、この師はシーナのことを心配してくれる。ありがたい限りだ。
「と言うわけで、神殿に話をつけたわ」
と、唐突に告げられた。
そして今、子どもたちに囲まれている。
この世界のひと月は三十日である。一年はなんと十三月もあった。十日に一度、神殿では無料の読み書き教室が開かれるのだ。平民には学校なんてものはないこの世界で、読み書き計算を教えてくれるついでに、昼食も提供してくれるこの神殿教室は、どこかの仕事に見習いとして入る前の子どもがわんさかと押し掛ける……のかと思えば、そうでもなかった。人口が万を越えるこの街でも、小さな子どもたちにも家庭での役目があるのだ。少し余裕があるような家庭の子どもが中心となってやってくる。親が勧めても子が拒否することもある。読み書き計算の何が役に立つのだと。
後々後悔することになるのかもしれないが、それよりは家業を手伝いたい、駄賃稼ぎをしたいと言う子どもを止めてまで神殿に行かせる親はいないということだ。
一の鐘で起きたガラがシーナをたたき起こし、追いたてられるように神殿へ向かう。神殿への道は同じように朝早くから祈りを捧げに行く人々の流れができていた。
いつもの神殿の入り口から、参拝客を越えると、ローディアスの姿を見つけた。
「おはようございます」
「おはようございます。いらっしゃいませ。右手の廊下を真っ直ぐいったつきあたりの部屋です。子どもたちがいるのでわかると思いますよ」
かなり早い時間だと思うが、もう子どもたちが教室の開始を待っているのか。
日の出が少しずつ遅くなってきていて、こういった天体や気候はわりと地球と似ているところもあるんだなぁと思う。月が二つあったりするし、色が緑になるが。
教室は、とても広く、長机の両側に同じく長いイスが合った。同じような光景を見たことがある。某魔法少年の食堂みたいな感じだ。
子どもたちが二十人くらい、おしゃべりをしながら座っていた。神殿には扉が基本的にはないので、シーナの姿を見付けた男の子がまず声をあげた。
「大人だ!!」
ええっと言う驚きの声とともに、バタバタと椅子を跨いで子どもたちが振り返る。
「ほんとだ! 大人だ!」
「大人がきた!」
「大人がお勉強するの?」
「仕事は? してないの?」
「おとなだおとなだ」
珍獣扱いである。
「みんな静かに!」
なかでも一番年長に見える少女が手を叩いた。
「ローディアス様がおっしゃっていたでしょう? 今日から
明るい金の髪を後ろでひとつにまとめた、六、七歳くらいに見える子どもが、やってきて胸の前に手を当てた。
「初めまして、ミリアです。ここにいる私たちはみんな神殿の孤児院の子どもです。参加する街の子どもはもう少ししたらやってきます」
「初めまして、シーナです。わからないことだらけなので是非教えてください」
二人のやり取りを見ていた他の子どもたちもわらわらとシーナの周りへやってくる。
「あのね、来たら石板をとってくるの」
「好きな席に座って良いんだよ」
「シーナは初めてだから僕らと座れば良いよ」
「もってきてあげる! 座ってて!」
後ろから押されて、先ほど皆が座っていた席へと誘導される。一番小さくて三才くらいか? 話すのもたどたどしい子どもが二人。他は幼稚園児くらいから、先ほどのミリアくらいまでが均等にいた。
男の子が座ったシーナの前に石板とチョークのような細長い石を置いてくれる。
「石筆も大切だから、書いていいよって言われるまでは持ったらだめだよ!」
すぐに手に取ろうとしたシーナは、はあいと答えて腕をテーブルの下に隠す。
やがて、ちらほらと新しく子どもがやってきた。さすがに併設されている孤児院の子どもとは違って、小さくても五歳くらいだった。
二の鐘がなって少しして、神官が三人やってくると、子どもたちはピンと背筋を伸ばして立ち上がった。
「皆さんおはようございます。今日から、世界樹様のお導きによって巡りあったシーナさんも一緒にお話を聞きますので、どうぞ仲良くしてあげてくださいね」
「はーい」
子ども、お利口さんだ。
「それではまずは聖典のお話をしましょう」
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