精霊樹の落とし子と飾り紐
鈴埜
1.組み紐《トゥトゥガ》
まだまだだねと、目の前の美人が自分の腕に巻かれた
「ほら、お客様にその態度はだめでしょ?」
しかしそれを見て美人がまた笑うのだ。艶々と手入れをされた腰まである銀髪に銀の瞳。陶磁のような白い肌。ほっそりとした指先には富の象徴である玉のついた指輪がいくつも嵌まっている。
「今さらだろう」
こぼれ落ちた笑みから、ニヤニヤとからかう笑いに変わり、私の口はまた尖った。
「シーナ?」
師匠の声色が変化してきゅっと口を結んだ。
「フェナ様、作り直しますか?」
師匠がフェナの腕に視線を落として問うと、
「いや、いいよ。今月は特に大きな依頼もないし、暇をもて余しているんだ。シーナの
そちらに魔力を通さなければいいのさと、手首をくるくると回す。
「職人が何年何十年とかけて学ぶことを半年そこらで出きるとは思っていないよ。仕上がりが一丁前なだけまだましさ」
「ほんと、紐の編み方だけは完璧なのだけれど」
はぁと息を吐く
フェナは
「
「今月のシーナの生活費だ。何せわたしは、この子の後見人だからね」
ふふ、とにっこり笑って個室から出ていった。シーナもすぐ後を追う。
今日も店は盛況だ。八人の兄姉弟子たちは、客の精霊使いの
「またのご来店をお待ちしております」
お決まりの口上をシーナがのべると、ガラも隣でお待ちしておりますねと繰り返した。
ふぅ、と誰かが息を吐く。そして、その場はフェナの話で溢れるのだ。
「相変わらずおきれいだわー」
「居合わせるなんて大樹様のお導きだ。帰りに祈りを捧げていこう」
「これがあるかもしれないから、あんたのとこに通うのやめらんないのよねー」
「彼女の回りだけ精霊の濃度が違うよ」
口々に、この場にいた幸運を喜び、大樹様に感謝をのべる。
シーナは個室に戻り自分の編み台を持ってくると、店の片隅にある椅子の前に置いた。編み台はシーナの腰ほどの高さがあり、低めの椅子に座って作業しやすいようになっている。フェナの
すぐ横に置いた作業道具一式から青い液体の入った口の大きな瓶を取り出し蓋を開けると、そのまま右手を突っ込む。指の根本までしっかり浸けて引き抜けば指が青色に染まる。同じように左指も青色にして、次は糸の選別に入った。
とは言え、魔除けの組み合わせは決まっている。
赤いディゴの糸、黒のベベゼの繊維をよったもの、そして薄紫のカズラの実の蜜につけたピニアの糸。それを、決められた模様に編んでいく。
伊賀のくみひもと同じように。
そう、旅行先でくみひも体験をしてから興味を持って、通販で簡単くみひもキットを注文し、自分ではつけきれないほど量産した組み紐。仕事でつかれて家に帰ったあと、テレビやラジオを聴きながら手を動かすのが楽しくて、家族はもちろん友だちにも押し付けまくって、山ほど作った。だから、編み方だけは上手だと誉められる。
でもここではそれだけじゃ足りないのだ。
指先につけるの液体は、魔力を遮断する物。人の魔力はその人の数だけあるといわれ、簡単に相容れるものではない。客を前にして
この、精霊樹に守られた異世界の
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