第2話 『オタクなギャルの探し物』
「あ! あったぁ〜!」
そんな声が響いたのは捜索を開始してから約一時間後。
時刻は20時。もう完全に日は暮れてしまっていた。
「
彼女の声に鼻を鳴らし、俺もゆっくりと立ち上がる。
見つけた。と言うのもを手に持ち、コチラに駆け寄ってくる彼女、『詩帆さん』に俺は口を開いた。
「そっか。見つかってよかった」
「うん! あ〜、もしも見つからなかったら、もうどうしようかなって……はぁ〜も〜ほんとーによかったぁー!」
満足げにため息をついた詩帆さん。その表情には先ほどと打って変わって、だいぶ余裕や安堵を感じられた。
俺も彼女につられて息を吐くと、彼女の手元に目を向ける。
まぁ、詩帆さんの探し物が、それだったことに一番驚きを感じたけど。
「『鹿野先生』のコミケ先着二名限定缶バッジ……。もし見つからなかったら、私、そのままリスカしてたかも。あ〜マジ病んだぁ〜って!」
「いやそれはちょっと困るかな……」
そう、彼女が探していたのは、まさかの缶バッジだった。しかもアニメや少年ジャンプの漫画のようなものではなく、ガチガチの同人イラストレーターの、エロイラストの。
「でもそれぐらいの価値はあるって! だって先着で2人だよ、2人! これちょーレアなんだから!」
「うん、まぁ……なんつーか。実は知ってる」
そう言って俺は、カバンのポケットから冷たい感覚の円盤状物を取り出すと、彼女に見せる。
そして、「……え?」と素っ頓狂な声の後。
「えぇぇー! それ、もう一個の!?」
「あぁ。実は俺も前回のコミケ、アーリー当ってさ。それでダッシュで向かったらもらえたんだ」
「うっわ、ちょー奇跡じゃん! 待って、写真撮っていい?」
と、そんなことを言いつつも、すでに彼女はパシャパシャとシャッター音を響かせていて。
そんな彼女に、まぁいいっかって息を吐いた。
……っていうか。
「詩帆さんって、そういう話し方するんだな」
すると詩帆さんは、ハッと息を呑んで、少しだけ恥ずかしそうに視線をちらつかせては、
「えーっと、まぁなんていうか……あっはは〜、やっぱ気になる?」
そう言って、ぎこちなく笑った。
でも、笑顔がなんか苦しく感じて。
「いや、むしろ詩帆さんって感じがしていいと思う」
なんの脈絡もないまま、そんな返答をしていた。
小さく「へ?」と声を漏らして、目を見開く詩帆さん。そして、
「……そ、そっか」
そんな風に、安心したように息を吐く。
その頬が少しだけ赤く染まっているような、そんな気がした。
「てか、もう8時半……ごめんねこんな時間まで。隼人くんも明日学校?」
「いや、時間のことはあんまり……」
……ん? 8時半?
……。
「あ、あのさ。もしよかったら隼人くんの連絡先」
だがその瞬間。ふっと頭に浮かんできたのは、頭の片隅に追いやられた幼馴染との、ちょっとした約束。
—— それじゃ、8時半、隼人の家行くから。
「ヤッベェ!」
サーッと血の気の引いた頭に、幼馴染の声が蘇ってきてカバンを持ち直す。
「すまん用事思い出した! 先帰るわ!」
「え、えぇ〜! ちょ、あ、隼人くん!?」
そんな彼女の声を背中で聞きながら、自宅のある方面へとダッシュする。
その途中、彼女の華奢な声で「忘れ物〜!」という声が聞こえた気がするが、まぁ気のせいだろう。
今はただ、早く帰宅せねば。
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