お話終了

「ミオ姉。つまり、その二人がダンジョンの元凶ってこと?」


 ミユがそう聞くと、ミオ姉はすぐに首を振った。イオとシオの二人は晩ご飯を食べたからか、ちょっと眠たそうにしてる。その二人を撫でながら、


「ダンジョンを転移させたのは、魔王様」

「魔王……!」


 本当にいるんだ、魔王。いよいよゲームみたいだ。つまり魔王を倒せば解決して……。


「場所の指定をしたのは、地球の精霊」

「え」

「地上の人がどう考えてるか知らないけど、ぶっちゃけ元凶は地球の精霊さんです! この二人から聞いたけど、ダンジョンの転移直後は人里ど真ん中ってことで大騒ぎだったらしいからね!」


 だから。


「この二人のことは、恨まないであげてほしいな。二人はのんびり暮らしたいだけみたいだから」

「それは……うん。分かった」


 正直、納得できるかと言えば微妙なところだ。私もミユも、あの災害でダンジョンに呑み込まれた過去がある。私たちは運良く脱出できて助かったけど、ほとんどの人は亡くなったと思うから。

 でも、意図的じゃないのなら、この二人を恨むのは、ちょっとできない。今も子供みたいにうとうとしてて、見ていてちょっと和んじゃうし。


「ところで。ダンジョンマスターっていうのは?」


 この様子なら、何かやっぱり理由がありそうだ。そう思って聞いてみたけど、返答はとてもミオ姉らしいものだった。


「楽しそうだから引き継ぎしました!」

「ええ……」


 ちなみに。ミオ姉曰く、ダンジョンマスターといっても、やってることは雑用みたいなものらしい。ダンジョン内部で壊れてるところがあれば魔法で修理して、空っぽの宝箱の中身を補充して……。そういうのを、冒険者に見られないようにやるのが仕事なのだとか。

 何の得があるのかと思えば、訪れる冒険者の魔力や生命力をもらって、色々とやってるとのことだった。冒険者は財宝を求めてダンジョンへ、ダンジョン側はその魔力や生命力をもらう。


「つまり! うぃんうぃんの関係ってやつだね! 助け合い大事!」

「殺し合いしてるけど!?」

「それはまあ、仕方ないと思って割り切ってほしいね! 気付いたら助けてあげるぐらいはするから!」


 ほとんど魔物は野生動物みたいなものだから、ミオ姉にはコントロールできないらしい。一部意思疎通ができる深層の魔物は、彼らが特別なんだとか。


「だからまあ、今後ともダンジョンに来るなら命大事にで気をつけるようにね。冒険者さんにも伝えてね。毎回助けるとは限らないからね!」

「うん……。分かった。伝えておく」

「よっし! それじゃ、お話終了! お泊まり会しようぜぃ!」


 ミオ姉がそれはもう楽しそうに立ち上がった。元々ダンジョンで野宿するつもりだったから助かるけど、でも。


「いいの? 私たちをここに泊めて」

「いいのいいの! 気にしない! イオ、別にいいよね?」

「んにゅ」


 ミオ姉に呼ばれたイオが顔を上げた。ほとんど寝ていたみたいで、なんだか呆けてる。なんだろう、ぽやぽやっとしていて、とてもかわいい。


「んー……。ミオー。だっこー」

「イオは甘えんぼさんだなあ。よいしょー」

「んふー」


 ああ……。いいなあ。ミユも羨ましそうにイオを見てる。私も、正直すごく羨ましい。私たちも幼い頃は、ああしてミオ姉に甘えていたから。


「ねえ……。ミオ姉は帰ってくるつもりは、ないの?」


 そう聞いてみると、ミオよりも先にイオとシオが反応した。がばっと顔を上げて、私たちを見て、そして不安そうにミオ姉を見つめる。

 ああ。分かる。分かるよミオ姉。あんな顔を見たら、帰りたいなんて言えないよね。迷子の子供みたいな顔だから。


「あはは……。ごめんね。私の家はここで、私の家族はこの子たちだから」


 それが答え。私たちも、それ以上は何も言えなかった。


「さて! お泊まり会だ! イオ! シオ! 寝るよー!」

「ぱーす」

「…………」


 イオはミオ姉から離れると、そのまま何も言わず部屋の奥の暗がりに向かってしまった。シオもそれに続いて行ってしまう。ありゃ、とミオ姉はちょっと困っていたみたいだけど、苦笑して肩をすくめた。


「仕方ない。三人で寝よっか」

「あの二人はいいの?」

「たまにあるからいいよ。心配しなくても、機嫌が悪いとかじゃないから」


 ミオ姉が言うには、あの二人はたまにああして工房とやらにこもるのだとか。工房は何かと思えば、あの二人がこのダンジョンの宝箱の中身を作ってるらしい。

 少し驚いたけど、ミオ姉の体を作ったことを思えば、むしろまだ常識的な範囲なのかもしれない。少し常識とは何かと混乱しそうになるけど。


「というわけで、こっちに何もない部屋があるからどうぞー。あ、寝袋あげるね寝袋!」

「あ、どうも……」

「ありがとう?」


 ミオ姉は寝袋に何かこだわりがあるのかな。よく分からなかったけど、とりあえず受け取っておいた。




 ミオ姉が指定した、フローリングだけがある部屋で寝袋に入って就寝。そうして、翌日。とてもぐっすりと眠ってしまった。もう朝の八時だ。いつもなら六時には起床してるのに。

 あとは、帰るだけ。ミオ姉にも会えたし、ユウジさんからのお礼品も渡せた。みんなで全部食べてしまったけど、渡せたことは事実だから大丈夫、のはず。

 そして、いざ帰るという時に案内された場所は、転移の魔法陣。しかも、百階層の。


「ここから帰れば、二人はいつでも魔法陣でここに来れるから」

「ミオ姉、いいの?」

「もちろん! 気軽に遊びに来てね!」


 ただし、とミオ姉が続ける。


「ダンジョン攻略に利用とかはなしだよ? あの二人を討伐とか、間違っても考えないように。強いから」

「強いのは分かるけど……。そんなに?」

「そうだね……。イオは、近接特化。軽く殴ったら人がミンチになる」

「え」

「シオは、魔法特化。魔法一発でボス部屋を吹っ飛ばせる。つまり回避不能の超威力の魔法がとんでくる」

「え」

「正直、人間が勝てる相手じゃないよ」


 それは、うん。間違いない。間違いない、けど……。


「ミオ姉、よくそんな二人を怒れるね」

「悪いことは悪いと言わないとだめなのです!」

「ミオ姉、すごい。尊敬する。悪い意味で」

「悪い意味!?」


 ミユの言葉にミオ姉がショックを受けてるけど、私も同意見だ。本当にすごいし尊敬できるけど、正直普通はできないしやらない。命知らずのバカだけだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る