寝袋配達ダンジョンマスター
龍翠
プロローグ
「くそ……!」
東京のダンジョン。その深層と言われる八十階層で、男は悪態をついていた。男の側にはドローンが浮かんでおり、搭載されているカメラが男を撮っている。
「なあ、救助とか誰か来れそうか?」
男がカメラに向かってそう言いながら、スマホを見る。スマホに表示された画面には、男の生配信を見ている視聴者からのコメントが流れていった。
『救助要請は出しておいたけど、無理っぽい』
『ギルド側も貴重なAランクを見捨てたくないみたいだけど、さすがに深層はな……』
『あと何日ぐらい隠れられそう?』
「無茶言うなよ……」
男がいる深層に安全地帯と呼べる場所は少ない。階層を移動する階段のある小部屋ぐらいだろう。それ以外は全て、強力な魔物が徘徊する危険地帯だ。
男がダンジョンに入ったのは、明朝。パーティメンバーと共にダンジョンに入り、転移の魔法陣で七十階層にたどり着いた。深層の攻略を行うために。
だが深層の魔物は七十五階層までの下層の魔物よりも遙かに強く、八十階層からさらに劇的に強くなってしまった。次第にパーティは追い詰められ、前衛の男は仲間を逃がすために自ら囮になり、現在の状況になっている。
「なあ……。俺の仲間は、どうなってる? 誰か確認できたか?」
パーティのリーダーが男であったために、ドローンは男を追尾してきた。そのため男からは仲間がどうなっているか、確認できないでいる。せめて、仲間が無事であればと思う。
『お仲間さんならさっきギルドに帰ってきたぞ』
『ギルドで助けを求めていて、見ていて辛い』
『ヒーラーの子がめちゃくちゃ泣いててさ……。きっついわ』
「あー……。先週付き合い始めたところだったしなあ」
『マジかよ』
『彼氏彼女持ちはダンジョンに行くなよこういう時辛いんだぞ』
「いや、マジでそれだよな。めちゃくちゃ後悔してるよ」
そもそもとして、最後に一稼ぎしてからパーティを解散しよう、という話だった。これが今のパーティでの最後の探索であり、その後はため込んだ金で悠々自適に暮らすつもりだったのだ。
恋人と一緒に、のんびりと。そのつもり、だったのだが。
『ユウジ! 諦めないで! 絶対に助けに行くから!』
『泣きながらスマホで文字打ってるのシュールだよな』
『お前そんなこと冗談でも言うなよ』
『現実逃避だよ』
「おう。カエデ。ごめんな、最後にこんなことになっちまって」
『最後とか言わないで! 助けに行くから!』
『あかん、もう無理、離脱する』
『せめて見届けるよ』
ユウジと呼ばれた男は苦笑いを浮かべ、ドローンに足をうつさせた。曲がらない方向に曲がってしまった左足を。
『あ』
『げ』
『これはあかん』
「ああ。見ての通り、戦うのも逃げるのももう無理ってことだよ」
だから、そう。
「カエデ。今までありがとう。楽しかった」
『やめて! 言うな!』
『お前マジでどうにか生き残れよカエデさんめっちゃ泣き叫んでるぞ』
『心がいてえ』
どうにかできるならどうにかしているよ、と心の中で呟き、ユウジはため息をついてスマホから視線を外した。
そして、それを見た。ユウジを見つめる巨人の姿を。
「あー……。サイクロプスか……」
だめだな、これ。そう思って、目を閉じる。目を開けておくのは、怖くて無理だった。
そして、轟音が響き渡り。
「まにあったー!」
そんな、女の声が耳に届いた。
「は?」
『え?』
『なんだ?』
ユウジが目を開ける。そこにいたのは、サイクロプスではなく。
「迷子のあなたに希望をお届け! ダンジョンマスターミオちゃんただ今参上!」
十代半ばぐらいの、少女だった。
普通の少女だ。本当に普通の少女だ。ショートポニーの黒髪に赤いパーカー、黒いスカートの少女。どう見ても日本人の少女であり。
ダンジョンの深層というのに、鎧でもなければ魔法のかかったローブでもない、普段着の少女だった。
「はあ?」
『女の子!?』
『深層だぞなんだこれ!』
混乱するユウジの目の前で、サイクロプスが起き上がる。まずい助けないと、と思ったのだが。
「あ、サイクロプスさんおつかれさまー。蹴っちゃってごめんね。ここから先は引き継ぐから帰っておっけー! はーい、おつかれー。またねー」
少女が手を振ると、サイクロプスは去って行った。
冗談抜きで意味が分からない光景だった。なんだこれ。なんだこいつ。
あまりの光景にユウジが何も言えずに固まっていても、少女は気にせず行動する。とても軽い足取りでユウジへと近づいていく。
「いやー、大変だったね! 怪我はない? って、足が曲がってる! 大怪我じゃん! もう、だめだよこんなに無理したら!」
仕方ないなあ、なんて言いながら、少女は空中に黒い穴を作った。高レベルの魔法使いが使える空間魔法だ。自分専用の亜空間を作り、そこに荷物を入れることができる魔法。使える者はかなり限られている。限られている、のだが。
「とりあえずお鍋とー、ご飯とー、分かりやすい結界石! 治療はご飯でいいよね」
術者の技術によって広さが変わる亜空間から、少女はどんどんと荷物を取り出していく。ユウジのパーティメンバーですら、あれほどの量は入れられないだろう。
「これでおっけー! お腹減ってる? 減ってるよね? 晩ご飯作るね!」
少女はそんなことを言って、魔法でたき火を作った。何もない地面に現れるたき火。枯れ木などはない。何が燃えているのかよく分からない。
『高レベルの魔法のオンパレードなんだが』
『空間魔法はともかく火は違うだろw』
『いや、何もないのに燃え続ける火ってかなり難易度が高いはずだぞ』
『まあそれ以前に空間魔法が異常なんだけどな!』
『確かにw』
次に少女は鍋を火にかけ始めた。なお鍋はどう見ても空中に浮いている。ユウジは魔法について考えることをやめた。
「あー……。その……。少し、いいか?」
意を決して口を開く。ユウジが話しかけると、少女はとても嬉しそうに顔を輝かせた。
「はいはいどうぞー!」
「あんたは、誰だ? 冒険者か?」
「えー。自己紹介したのにー」
少女は拗ねたように唇を尖らせたが、すぐに笑顔になって立ち上がった。
「なんてね! さすがにあの状況でちゃんと聞いてるわけないよね!」
そして、叫んだ。
「迷子のあなたに希望をお届け! ダンジョンマスターミオちゃんただいましゃんじょっ……」
「…………」
「…………。参上!」
『言い直したwww』
『えらいwww』
『けど何一つ分からねえw』
少女が噛んだのは気にしないでおくとして。いや顔を真っ赤にしてぷるぷる震えているのはユウジから見てもとても可愛らしいと思うが、それはそれとして聞き捨てならない言葉があった。
それは、つまり。
「ダンジョンマスター?」
「どうしてこんなところで……。あ、うん。昨日からダンジョンマスターに就任したミオです。よろしく!」
いえーい、と笑顔でピースをするミオと名乗った少女。とても、とても軽い。気安いとも言える。だが、なんとなく、嫌な気分にはならなかった。それどころではない、とも言えるが。
『ダンジョンマスターって、ダンジョンの管理者みたいなもんか……?』
『マジかよこんな子供がこのダンジョンを作ったのか……!?』
さすがにそれはない、と思う。
ミオはどう見ても、よくて十五歳といったところだ。そしてこのダンジョンが、というより世界中にダンジョンが出現したのは今から十年ほど前。この少女が作ったとは思えない。
いや、そもそもとして。
「人間、なのか……?」
「おお! お兄さん、第一号のお客様なのに勘が鋭いね! 君のような勘のいい冒険者は嫌いじゃないよ!」
何かいろいろ混ざっている気がしたが、ユウジはミオの言葉を待つ。ミオはしばらく黙ったあと、ちぇっとつまらなそうに足下の石を軽く蹴ってから、また笑顔で言った。
「私は元人間! 前ダンジョンマスターの不思議能力で蘇生された、えっと……。ほむんくるす……? みたいなやつ! つまり人間!」
「それは人間と言わないと思う」
「なにおう!?」
『ホムンクルスって、つまり人造人間!?』
『いや、てか前ダンジョンマスターってなんだよ』
まったく失礼なお兄さんだなあ、なんて言いながら、ミオは鍋の中をかき混ぜている。のぞき見ると、どろっとしたおかゆみたいなものになっていた。いつの間に入れたのか米も入っている。ただ、見た目はあまり良くない。
『色がものすごく悪くないかこれ……』
『その、なんだ……。こう、うんk』
『それ以上はいけない』
「見た目はともかく、香りはすごく美味そうだ……」
『まじかよwww』
ユウジの言葉を聞いて、ミオはにやりと不敵に笑った。
「ふっふっふ。昔から言うでしょ? 良薬は見た目悪しと!」
「良薬は口に苦しだと思うけど。良薬以外かすりもしてないぞ」
「…………」
あんぐりと、ミオは口を開けて固まった。
『え、なにこの、うそでしょ、みたいな顔』
『まさかこの子、今の天然で言ってたのか!?』
『ははーん。俺分かった。この子、アホだ』
ミオは視線をさまよわせ、そして怒ってますと言いたげに頬を膨らませた。少しわざとらしいせいで、ただの照れ隠しだとユウジでも分かる。
「ははーん。お兄さんさては知らないな? 最近の子は見た目悪しって言うんだよ!」
「ふむ……」
ユウジがスマホを見る。スマホには、ミオの言葉を否定するコメントがずらりと並んでいた。それはもう、分かりやすいほどに。
ユウジがミオにその画面を見せると、ミオはそれを少し読んですぐに視線を逸らした。そして、ぽつりと一言。
「見捨てていい?」
「ごめんなさい」
『ついに脅迫したよこの子w』
『命を握られるって怖いことだね……』
『これからは良薬は見た目悪しだ覚えておけ!』
ミオはしばらく不機嫌そうに鍋の中身を混ぜていたが、やがてお椀を取り出して中身を入れ始めた。たっぷりと入ったところで、スプーンと一緒にユウジに渡してくる。その時にはもう、機嫌は元に戻っていた。
「はいどーぞ! ダンジョンマスター特製エリクサーおかゆです!」
「うん。よし。待ってくれ。なんて言った?」
「エリクサーおかゆ。お水の代わりにエリクサーをぶちこみました!」
「…………」
エリクサー。誰もが知っている、誰もが欲しがる奇跡の霊薬。どんな病気や怪我も一瞬で治すという噂だ。
『エリクサーって確かなんでも治すお薬だっけ。レア度どんくらい?』
『一年に一本あるかないかぐらい』
『オークションで底値が十億、場合によっては百億こえる値段がつく』
『つまりあのおかゆの価値は百億ってことだな!』
『ふぁーwww』
この子は本当にバカなんだろうか。ユウジは真面目にそう思った。
そして、いや、と首を振る。エリクサーっぽい水かもしれない。それに、目的はどうあれ、こうして夕食をもらうわけだ。拒否するわけにもいかない。拒否した結果、殺されるとかあり得そうだ。
「い、いただきます……」
「どうぞどうぞー」
なんて言いながら、そのミオも食べ始めている。もぐもぐと、それは美味しそうに。ユウジも試しに一口、食べてみた。
「……っ!」
見た目はともかく、食感はとろみのあるおかゆだ。味は見た目からは想像できない、とても濃いコンソメスープのような味。何を入れたらこうなるのか分からないが、ユウジにとってはとても美味しく感じる味だ。
そのまま勢いよく一杯目を完食した。
「めちゃくちゃ美味い……」
『まじかよwww』
『いいなあいいなあ、美少女の手料理だぞ!』
『我に返ったら彼氏が美少女の手作り料理を食べてた私の気持ちを考えて?』
『カエデさんwww』
そんなコメントに気付かないまま、ユウジは二杯目を食べる。これは本当に、とても美味しい。それに体中に力がみなぎるような、そんな気がする。
そして何よりも。
「あれ……?」
いつの間にか、折れていた足も完治していた。体中傷だらけだったはずなのに、それすらなくなっている。完治していた。
「お! 傷も治ったね! さすが私の料理! ミオちゃんさいこー! ほら繰り返して!」
「え? えっと……。ミオちゃんさいこー……?」
「ええい! のりが悪い人だなあ! だがよし! 私はそれでも嬉しいのだ!」
なんてことを言いながら、ミオはてきぱきと散らかしていたもの、料理道具などを片付けていく。片付けると言っても、空中の黒い穴に全て入れていくだけだが。
それをユウジがぼんやりと見守っていると、ミオが言った。
「それ! お鍋と器は夜の間にこそっと回収するから! お腹いっぱいになったら残しておいておっけー!」
「あ、ああ。いや、全部食べるよ。美味いから」
「おっと、嬉しいこと言ってくれるね。お兄さんうまいんだから! サービスしちゃう!」
ミオはそう言うと一枚の紙とペンを取り出すと、さらさらと何かを書いていく。とても小さい文字でびっしりと。全て書き終えてから、ユウジへと手渡してきた。
「まずこれ、配信に映すな。絶対に」
先ほどとは違い、とても冷たい声だった。慌ててユウジはドローンの向きを変える。間違っても映らないように。
「これでいいか……?」
「おっけー。これ、明日の朝はこの通りに帰ってね。この紙を持って、なおかつこのルートを通ってる人は襲わないように、魔物たちには伝えておくから」
「な……!」
『見えないけど地図をもらったってことかな?』
『まじかよすげえ』
『持って帰ったら貴重な資料だぞ!』
「ちなみに、ダンジョンから出たら消えるからね。あと他の人に見せたり配信に映したりしても消えるから、気をつけて」
『ですよねwww』
かなり不思議な魔法をかけられているらしいが、ミオの言いたいことは理解した。そして、安全に外に出してくれるということも。
つまり。ユウジがこの紙を紛失しなければ、ここから無事に脱出できるということだ。
「ありがとう……。恩に着る」
「いえいえ! ただの気まぐれなのです! それじゃ、私はそろそろ……って、一番大事なもの忘れてた!」
ミオは慌てたようにまた黒い穴に手を突っ込んだ。その間にユウジは紙を懐にしまい、ドローンの向きを戻す。この貴重な映像が少しでも残るように。
ミオが黒い穴から取り出したのは、寝袋だった。青い寝袋で、顔だけ出るようなもの。ミオはそれをその場に置いてから言った。
「これ! 寝袋! これを使っていいからね! ちなみにこの寝袋は持ち帰りおっけー! 私に出会えた記念品だよろこべー!」
「わ、わーい……?」
「よし!」
『よしじゃないがw』
『それでいいのかよw』
『いやでもいいなあ記念品。めちゃくちゃ欲しい』
『ユウジあんた帰ってきたら覚えてなさい』
『さっきまで泣きわめいていたカエデさんが今はブチギレてる件について』
ユウジはさっと寝袋を確かめる。ふわふわでとても寝心地が良さそうな寝袋だが、どうやらただの寝袋らしい。ありがたくもらっておこう。
「それは煮るなり焼くなり好きにしてね! それじゃ、私はこれで! 気をつけて帰ってね!」
そう言ってさっと身を翻し、ミオは駆け出して。
「ふぎゃ!」
その場で盛大に転倒した。
「…………」
「…………」
『うわあ』
『めちゃくちゃ痛そうなこけ方したぞ』
『大丈夫か……?』
ミオがゆっくりと立ち上がる。振り返って、笑顔で言った。
「あなたは何も見てない。いいね?」
「あ、はい」
『ア、ハイ』
『ア、ハイ』
『こわいwww』
よし、と頷いて、今度こそミオは駆け出していった。
まるで嵐のような子だった。一瞬後には夢だったと思ってしまいそうだ。けれど、その場に残された料理や寝袋が現実の出来事だったと証明している。
「あれがダンジョンマスターか……」
『あんな子が管理していたとか信じられねえ』
『でも最近なったみたいなこと言ってなかった?』
『今までのダンジョンマスターはどうなったんだ?』
スマホを見ながら、ユウジも考える。考えたところで仕方ない。分かるはずがないのだから。
ユウジは作ってもらった夕食を完食すると、寝袋に潜り込んだ。とてもふわふわで、気持ちがいい。寝袋とは思えない快適性だ。この寝袋は好きにしていいと言われたが、これを売るのはもったいない。
そんなことを考えながら、ユウジはそのまま意識を手放した。
そして翌日。ドローンと共に、ミオに渡された紙を見ながら道を進む。もちろん、ドローンから紙は見えないように気をつけて。さすがに命の方が大事だ。
そうして歩いていると、昨日と同じ魔物、サイクロプスと遭遇した。思わず武器に手が伸びたが、サイクロプスはユウジの手にある紙を見ると、その場で会釈して通り過ぎていった。
会釈。そう、会釈だ。魔物に会釈された。
「魔物ってなんなんだろうな……」
『素通りならともかく会釈は普通にびびるのですが』
『まさかの会釈www』
知性があるのだろうか。考えても、やはり分かるはずがない。ともかく、今は無事に帰ることだけを考えよう。
そうして。ユウジはその日の夕方、深層から生還した。
・・・・・
時は少し戻って、ダンジョンの奥深く。
「たっだいまー!」
ユウジに別れを告げたミオは、ダンジョンの最深層、百層のボス部屋の奥の扉を勢いよく開けた。
そこはダンジョンコアのある部屋。未だ人類に観測されていない部屋であり、そして、ダンジョンマスターの居住空間でもある。
「ミオー! おかえりー!」
扉を開けたミオに飛びついて出迎えたのは、真っ黒な長い髪に黒い和服の女の子。ミオよりも幼い容姿で、十歳程度に見える。
「イオー! ただいまー! 寂しくなかった?」
「さびしかった!」
「かわいいやつめー!」
「きゃー!」
ミオに頭を激しく撫でられて、笑いながら逃げるイオと呼ばれた少女。ミオも笑いながら部屋に入っていくと、
「…………」
無言の女の子が待っていた。こちらは白くて長い髪に白いローブという姿。じっと、ミオのことを見つめている。
「シオ。ただいま!」
ミオがそう言うと、こくこくとシオが頷いた。一言も喋らないが、それでも表情はころころと変わる。ミオを迎えるシオの顔はとても嬉しそうで、そしてミオに抱きしめられた時は幸せそうに微笑んでいた。
「あー! シオずるい! ミオ! わたしも! わたしも!」
「甘えんぼさんだなあ」
なんて言いながら、イオのことも抱きしめてあげる。えへー、とやはり嬉しそう。
このイオとシオの二人は、百層目のボスを担当している。そして、前任の、というよりも本来のダンジョンマスターがこの二人だ。
二人きりで寂しかったイオとシオが、家族を求めて造ったホムンクルス。それがミオだ。シオ謹製の人間っぽい肉体に、イオがこっそり保管していた人間の魂を宿らせたホムンクルスである。
ミオはもちろん全て知っている。自分が元々は日本人として生きていて、ダンジョン発生とともにダンジョンに呑み込まれて死んだことも。家族も全て巻き込まれたことも。死んでからすでに十年以上経っていることも。全て知って、受け入れて、こうして家族をしている。
どうして二人がミオを選んだのか、知らないし興味もない。今のミオの家族はこの二人。それだけで十分だ。だって、ミオが長い眠りから覚めた時に見たものは、泣きそうな二人だったから。
この子たちのお姉ちゃんになる。ミオがそう決断するのは、それだけで十分。
「ミオ! ミオ! ゲームやろ! ゲーム!」
イオに手を引かれて、仕方ないなあ、とそれについて行こうとしたミオ。その、もう片方の手をシオが握った。シオは白紙の紙と色鉛筆を持っている。お絵かきがしたいらしい。
「えっと……」
頬を引きつらせて困るミオと、睨み合うイオとシオ。よし、と頷いて、
「一時間ずつ遊ぼう! 最初はゲーム! シオも一緒にやろうね。次はお絵かき! イオももちろん一緒!」
そう宣言すると、二人はあっさりと納得した。そして楽しそうに、三人で手を繋いで部屋の隅、テレビと少し古いゲームが置かれている場所へ歩いて行く。
そこだけを切り取って見れば、どこから見ても仲の良い姉妹の姿がそこにはあった。
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