第37話 竜の心臓を使って作られたアーティファクト

 ライラはしばらく俺の言葉を吟味していたが、それでも、



「それでも、アタシは、助けにいかないとダメだと思います!」


「そう言われてもなあ」



 俺は頭を掻く。


 装備品がないなら金にならない。


 というか、そもそも論、奴隷を助け出す方法なんて思いつかない。


 俺は暗闇野郎を見て、



「魔女を倒せば、その体から元に戻るのか?」


「いや、そういうわけじゃないが、元に戻る方法についてはキシリアたんが調べてくれた。私の身体について隠しながら話したから時間はかかったがね」


「で、なんて言ってた?」


「竜の心臓を使って作られたアーティファクトに暗闇の奴隷を作り出す物があるらしい。その効果で私たちはこの身体になってしまったようだ。確かにあの魔女はホウキだけじゃなくて奇妙な杖を持っていた。多分あれだろう」


「それを破壊する、とか言わないよな?」


「いや、破壊しても元には戻らない。身体を直すには竜の血を吸って育った『リンデの樹リンデンバウム』の葉をすりつぶして飲む必要があるらしい。ただ……その樹はこのダンジョンの最下層にしか存在しない。このあたりではね。それにその樹は今や魔女の家だ。近づくのも困難」



 いやいや滑稽だよ、と暗闇野郎は言った。


 俺は腕を組んで考えていた。


 アーティファクト?

 アーティファクトって言ったかこいつ。


 ふふふ。



「シオンさん、なんかおかしなこと考えてません?」


「おかしなことは考えてない。魔女をぶっ殺せばアーティファクトが売れるってことしか考えてない」


「それは一般的におかしなことだと思いますけど」



 ライラは溜息を吐く。



「そもそも魔女ってなんなんです? アタシはおとぎ話に出てくる魔女しか知らないんですけど。

倒せるものなんですか? というか、人間なんですか?」


「それは私が説明してあげよう、ライラたん」



 暗闇野郎は言って一歩近づいたが、ライラは一歩下がる。



「近づかないでください」


「しょぼーん」



 暗闇野郎は言ったがのっぺりした顔なので表情が読み取れない。


 瞼ないし、眉ないし。



「魔女っていうのは大枠は物語のものと同じだよ。ただ、人間じゃない。これは所業が人間の物とは思えないという意味じゃなくてそもそも人間じゃない。魔女は、特別希少な魔物なんだ」



 ちなみに魔女は基本的には【荒れ地】生まれ【荒れ地】育ちのはずで、当然、俺が【荒れ地】にいたときも存在は知っていたけれど、当時は遠くからしか見たことがなかった。


 俺を外に放り出していた師匠でさえ、「魔女のいるあの山には絶対に近づくな」と言っていたくらいなので相当ヤバい奴らなんだろう。


 師匠は「俺の敵ではないがな」と言っていたけど。

 自信過剰なのかどうかも解らない。


 ただ、あまりにも口酸っぱく「あの山には近づくな」と言うものだから、宿命について考えていた俺は「きっと師匠はあの魔女たちを倒すために俺を育てているんだ」と考えていた時期がないわけでもなかった。


 結局ただ捨てられただけだったけど。


 マジむかつく。


 あまりにむかついたので、【荒れ地】から出た俺は魔女に限らず、当時師匠が近づくなと言っていた魔物たちの倒し方について調べまくった時期があった。


 そして何体か倒している。


 八つ当たりも良いところだけど。


 アザリアと出会ったのはその頃だ。


 と言うことで、



「魔女の倒し方を俺は知らないわけじゃない。と言うか過去に一体倒したことがある」


「本当に言ってるのか?」



 暗闇野郎は半信半疑だった。


 表情は解んねえけど声色で解る。



「ホウキに乗って逃げようとしやがったから岩ぶん投げて落とした」


「やってることが猿」



 うるせえな。



「とにかく倒したことがあんだよ。ホウキ奪ったら売れるだろとか思ってたら、魔女倒した瞬間ボロボロになってマジむかついた記憶がある」


「本当にお金のことしか考えてませんね」



 ライラは完全に呆れている。


 対して暗闇野郎は俺に近づいてきて、



「できるのか? できるんだな?」


「ちょっと準備はいるけどな。ま、ダンジョン外に出るまでもねえ準備だな」


「手伝うことがあれば手伝おう。いくらでも手伝おう。だから、」



 暗闇野郎は突然頭を下げた。



「頼む! あの魔女を倒してくれ! 奴隷になった奴の中に友人がいるんだ!」

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