第21話 週のノルマが果たせない!(タイロン視点)

 タイロンは焦っていた。


 パーティで借りている家――シオンの魔石や素材を集めて借りた周りよりずっと大きな家――の談話室に、タイロンを含めた四人のパーティ全員が集まっていて、皆一様に頭を抱えていた。


 理由は簡単。



 シオンがいなくなってから実に五日が過ぎている。



 今までこんなに長い期間シオンが街を開けたことはなく、ふらっと出て行っても二日くらいで戻ってくるのが常だったのに。

 

 困る。

 とても困る。



 週のノルマが果たせない!



 Aランク冒険者のノルマと言えば普通、遠征や、強力な魔物を複数パーティで討伐、重要な物や人を運んで護衛するなどの、精神的にも肉体的にもキツい仕事で、月に一度すれば週のノルマはしなくても良いことになっているはずだった。


 対して能力不足のタイロンたちはそんなことができるはずもなく、地道に魔石を集め、CやDランクの冒険者を連れてダンジョンに潜り、指導をすることでノルマをクリアしてきた。


 問題はその指導をしてきた場所だ。


 彼らはシオンが魔物を駆逐してスッカスカになった翌日のダンジョンでばかり指導をしていた。


 当然、一日二日では魔物の数は戻らず、本来のダンジョンからレベルが格段に落ちるが、タイロンたちは「前日に少し魔物を減らしておいたんだ」と後輩たちに嘘をついて、あたかも指導するための準備は完璧だとでも言うようにアピールをしていた。


 シオンの手柄は自分の手柄。

 アイツはまったく気にしていないようだしな。


 裏を返せばシオンがいない現在、魔物除けでも使わなければタイロンたちが指導をするのは不可能でここ数日は指導を断っているし、魔石の提出もできていない。

 


 と言うわけで、週のノルマが達成できない。



 魔石を大量に提出するという手もあるにはあるが、今まで集めた魔石はランクのために全て提出してしまっている。


 それにもし余っていたとしても、とっておくのは逆に危険だ。

 倒したわけでもない魔石を持ってきているなんて噂を立てられる訳にはいかない。


 ブランドが重要なんだ。

 Aランク冒険者にして、誰もが尊敬する存在。

 それが俺なんだ、とタイロンは考えていた。


 だから、



「タイロンさん、仕方ありませんよ。魔石を買い集めましょう。そうするしかないですって」



 そうパーティメンバーが言うのも聞かず、怒鳴りつけた。



「そんなことをしてみろ! 俺たちのことをバカにする奴が出てくる。ブランドが重要なんだよ! ブランドが! なんのために今までやりたくもない後輩の世話をしてきたと思ってる!」



 ブランドと言ってるが要するにメンツだった。


 タイロンは顔に泥を塗られるのをことのほか嫌っていた。


 だから、魔石を集めることで浮いた時間と体力を使い、後輩へのケアやらギルドへの貢献みたいなものを積極的に行っていた。


 悪い噂など流れようもない。


 シオンとは違って。


 タイロンは息を荒げて言った。



「救済措置を適応してもらうしかない。ブランドを汚されるくらいなら背に腹は代えられない。お前ら外に出てねえだろうな。俺たちは負傷したことになってんだからな」



 シオンが数日街を開けることはこれまでも何度かあったために、その際のパーティの行動は規則として決めていた。


 負傷したことにする。


 そうすればもしも週のノルマが達成できなかったとしてもギルドの救済措置が適応される。



「出てねえよな?」



 二度、タイロンは尋ねた。


 パーティメンバーは視線を合わせない。



「昨日、酒場に……」


「娼館に……」


「俺も……」



 タイロンは全員を殴った。



「お前ら、誰のおかげでここまで来られたと思ってる! 誰のおかげで!」



 シオンのおかげだった。


 少なくともお前のおかげではない。



 タイロンは自分のことなど棚に上げて、上げすぎて取り出すことができず、全てを人のせいだと考えて憤慨、テーブルを蹴り上げ、グラスを割り、椅子を破壊した。



◇◇◇



 三日後、シオンがようやく戻ってきた。

 ルフに乗って、ライラ・マリーとSランク冒険者グウェン・フォーサイスを連れて。


 タイロンたちはBランクに落とされていたが、ギルドからは、



「たまには休養も必要ですから。良い機会ですよ」

 


 と言われていた。


 面目が潰れることはなく、周りからはたまの休みを取ったと思われたらしい。


 その点については不幸中の幸いだったし、Aランクに戻るには以前までと同じノルマを果たせばよく、面倒な特殊素材の獲得がいらないと聞いてさらに安堵した。


 すぐに元の生活に戻れる。

 元通り。


 いや、違うな。


 タイロンは戻ってきたライラのことをじっと見ていた。


 Sランク冒険者にママと呼ばれているのも耳にした。

 悪いこともあったが良いこともあった。


 禍福はあざなえる縄のごとし。


 ライラ・マリー。


 少し遊んでやろうと思っていた女だったが、これは一気に価値が上がってしまった。


 絶対に自分のものにする。

 いや、もう自分のものか、とタイロンはほくそ笑んだ。

 布石がこんな形で身を結ぶとはな。


 Sランクと繋がりができれば、失墜してしまったブランドが元に戻るどころか、さらに輝きを増すことになるだろう。


 まずは、Aランクに戻り、ライラを迎えるとするか。


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