ペットボトルの中

ASA

ペットボトルの中

 デスクの上には飲み終わってからっぽになったペットボトルが置きっぱなしになっていた。あのひと、ちまちまとマメなようでいて結構雑なんだよなあと俺は思う。思いながら、その隣の席に座った。

 昨今流行りのフリーアドレスを取り入れてより働きやすく、なんて言ったところで大体みんな毎日同じ席に座っている。毎日座る場所を考えるなんて、面倒くさいからだ。そして俺は、毎日先輩の隣の席に座る。

 隣のデスクにちょこんと立っている、空っぽで、でもキャップはきっちりと閉めてあるペットボトル。それに手を伸ばしかけた時、お前、何やってんの、と声がしたので振り返ると、同期の高橋だった。

「いやー何て言うかさ」

 俺は答える。

「先輩が飲み終わったペットボトルだなって思って」

「えっ」

 高橋はものすごく気持ち悪い物を見るような顔で俺を見た。

「中身はなくなってるけど、先輩から排出された空気が入ってる的な?」

「……お前さ、小学生の時に放課後好きな子のリコーダー吹いたりしてた?」

「えっそれは皆やっただろ?」

「皆はやってないと思う。てか、一緒にするな変態」

 関わりたくない、とでも言うように大袈裟に身震いしてみせると、高橋は去って行った。

 そうかな、変態かなと思いながら、俺はデスクに肘をついてペットボトルを眺める。このキャップをくるくる回して開けたら、中の空気が出てくる。先輩がみっちり詰まった空気が。なんだか小さい先輩が中からたくさん這い出てくる様子が頭に浮かんできて、俺は楽しくなってきてしまった。


「何ひとりで笑ってんの、怖い」

 俺の楽しい妄想は、ペットボトルの持ち主のドン引き気味の声によって終わりを告げられた。

「あ、先輩、おかえりなさいっす。昼飯、何食いました?」


END

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ペットボトルの中 ASA @asa_pont

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