第27話 魔力樹と苦み

「何を見つけたんだ~? もしかしてひとが住んでたりとか……!」


 ポチについていくこと数分。

 ぼくは未だに分かっていない状態だけど、プチは何かに気が付いているようだ。


 むせ返るような自然の息吹を全身に浴びながら突き進む。

 すると、木々の奥でうすぼんやりと何かが光っているように見えた。


「なんだ……? もしかして伝説の武器が刺さってたりするのか? いや……ひとが踏み込まない場所に美女がひっそりと暮らして……!? ――急ぐぞっ!!」


『プォ~……』


 明らかにぼくの声を聞いて出て来た溜息だ。


 分かってるよ。そんな都合のいい事なんてそうそう起きないって。

 分かってるって言いながら希望を捨ててない、みたいな感じでぼくを見るな。男は九割が外れでも残りの一割に命を懸けるんだ。

 いや、十割と言われても、この世に絶対なんてないっ! って駄々をこねこねしながら、見苦しく足掻くのが男なんだぞ。



 草木のカーテンを潜り抜けると密林にぽっかりと空いた空間に出る。

 意図的に草木が刈られたわけではなさそうだけど、明らかに雰囲気が違う。

 ぼくが足元から視線を前に戻した時、自然と声が出てしまった。


「おぉ……なんだこれ……木なんだろうけど、明らかに……」


 そう、明らかに普通の樹木とは違う。と一目で理解できる。

 何十年……いや、何千年も前からここにあったような荘厳ささえも備える大樹だ。


 何本もの樹木が捩じり合うように巻き上げられた幹。

 透き通った翠色の葉の一枚一枚が、ひとや動物と同じように生きている。と訴えかけるほどに魔力という名の活力がみなぎっているように見える。

 よくよく見るとそんな葉の力を集めたような濃い緑色の果実? が実っている。


「なんか『キウイ』みたいな形? ……大きさは『ドングリ』くらい……?」


 ぼくは、引き寄せられるように大樹に向かって歩き出していた。


「これ……を教えたかったってことだよね?」


『パゥ!』


 隣に寄り添うポチは高らかに喉を震わせた。

 初めて見たぼくでさえ圧倒される存在感。樹木でありながら、まるで高潔な精霊と向き合ったような言葉にできない浮遊感。

 それでいて、あの正体不明の実にとてつもなく惹かれている自分がいる。


「落ちてる実はないから……三つだけもらってみようか」


『パゥ!』


『プォ!』


 ぼくは軽く跳躍すると、手頃な位置の実をもぎ取り、


「そのまま食べていいのかな?」


 袖で実を拭きながら食べ方を思案してみるけど、さすがにわからない。

 なので、そのままポチとプチへ差し出すと、そのままガリガリと噛み砕いている。


「お? 大丈夫そうか?」


 するとなぜかぼくにお尻を向け、


『パゥ……』


『プォ……』


 と返事をした。

 ぼくの感覚だと、「大丈夫……」と言ってるように聞こえる。

 でも、それならなぜ後ろを向くんだ。


「おい……お前ら信じてるからな。食べるぞ! いいな! 食べちゃうぞ~!」


 手に残った最後の一つを勢いよく口に入れる。

 そして、ガリッ――と噛み砕いた瞬間だった。


「――うっ! んぐっ!」


 視界が歪むほどの苦みがぼくの口内を支配した。

 二度目に噛むと酸っぱさが充満する。

 こんな味の多段攻めなんて誰も幸せになれない。

 正直何度かえずいて、吐きそうになっていたけど、本当に吐き捨てるわけにはいかない。熟していないのか知らないけど採った以上は自然の恵みに感謝を……。


「――うぷっ! ぐぅ……」


 瞼を下ろし、何度も噛み砕き、いらない味の調和を楽しんだ後に飲み込んだ。


「これはあれか……良い薬は口に入れると苦い――っていうやつなんだな……」


 口を拭いながらポチとプチを見ると、ペッ――と吐き出していた。


 普通に裏切るな。


『パゥ……パゥ~……』


『プォ……ォォ』


 それぞれが言いたいことはなんとなく分かった気がする。『美味しそうな。というか自然の恵みを充満したような匂いだから、てっきり味も……』って言いたいんだと思う。むしろよくここまでぼくも理解できるようになったものだ。


 でも違うよね。明らかに噛んだ後にぼくも巻き込んだよね?

 ここまで苦い思いをしたけど、この自然の恵みは魔力や身体に影響あるのだろうか……


 それからしばらくポチとプチは、ぼくと決して目を合わせようとはしなかった。

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