第13話 勝利と報酬

いてっ……」


 翌日。

 どうやら無事に起きれたようだ。

 食べ過ぎたのか、眠気に誘われるままに寝てしまったけど、そのまま永眠にならなくて少しホッとしているぼくがいた。


「ぼくは全身痛いんだけど……お前はそういう影響ってないの?」


『……』


 うん。なさそうだ。今日も安定の無反応。

 ぼくは岩に掴まり、呻き声に喉を震わせつつも立ち上がる。

 軽く体を伸ばすと骨がギシギシと軋むような感覚がするけど、全力を使った結果ということだろう。

 傷口も塞がりきってないとはいえ、枝なしで動くことはできそうだ。


「よし……」


 慎重に動く必要はあるけど、あまり時間を置きたくない。

 何に対してか。というと昨日ガルムに刺しっぱなしの短剣を取りに行きたかった。


 折れた剣は探せばあるだろうけど、あれくらいちょうどいい短剣は見つけるのが難しそう。という思い、そしてぼくが初めて戦いに勝利した記念の短剣でもあるからだ。

 止めを刺した剣は折れてしまったので……


 そしていつもの獣道ではなく、周りを警戒しつつ岩壁沿いに進んでいく。

 そこで不思議な事象を目撃した。


「あれ……?」


 昨日ぼくが死にかけた場所の先。

 そう、魔獣まじゅーたちが潰されて、周囲が溶けた穴だらけの場所だ。


「食べられたわけじゃなさそうだけど……」


 潰れるなり、ひしゃげるなりしていた魔獣まじゅーたちの亡骸がない。

 正確に言うと、部位だけを残して他がなくなっているように見えた。

 ぼくは壁沿いから獣道へと足を進める。


「縮んでる……? これは……魔力が凝縮ぎょーしゅくされたってやつか!」


 近くで見ると亡骸が縮んでいる部分、そして綺麗に残ってる部分とでくっきりと分かれていた。

 まるで残った部位に全ての魔力を注いだように見えた。


 蜘蛛のような魔獣まじゅーは、お尻部分……というか綺麗な糸が残っている。

 百足ムカデのような魔獣まじゅーは、その頑強そうな殻がいくつか残ってるが、昨日より大きさが縮んでるような?

 蜻蛉トンボのような魔獣まじゅーは、翅が何枚も残っていてこちらも大きさは縮んでいた。


「これは……持っていこう」


 魔獣まじゅーの部位は加工すれば武器や防具にできると聞いたことがあった。

 だから、加工はできなくても、これらも上手く活用すれば生存確率をもっとあげられるのではないか。

 そんな思いからの行動だった。


「よし……あとは……」


 近くに生えているぼくよりも大きな葉で、拾った部位を包み込む。

 特に蜘蛛の残した糸が長すぎてしょうがなかったので、結局ぼくの胴体にぐるぐる巻きにすることで持ち歩くことにした。

 上手く巻けばぼくの全身に巻けそうなくらい長い。


 亡骸の瞳も、死んだはずなのにギラギラと光ったままだった。

 でも、ちょっと怖いので、縮んだ部位と一緒に埋めることにした。

 そして昨日の死闘跡へと向かった。


「いた……」


 ガルムの亡骸も見つけた。

 さっきの魔獣まじゅーと同じように全身が縮んでいる。

 その結果、銀色の短剣も地面に落ちていたのでぼくは拾って腰に差した。


 そしてその中で煌めいてたのは、『背ビレ』だった。

 二対あって邪魔だったけど、今は一対……二本しかない

 でも。


「これ……剣にできる?」


 この背ビレの鋭さはぼくのお腹がよく知っている。

 背中から出ていた部分がちょうど刃。

 内部では太めの骨と繋がっていたので、ちょうど持ち手にできる。


 うれしい戦果にぼくは思わず頬を緩めた。

 ガルムがぼくを糧にしようとしたように、ぼくはガルムの残した武器を糧にする。

 狙われるばかりで悔しい気持ちはあったけど、憎しみはなかった。

 だからこの武器を手に取ることも迷いはなかった。


 深々と呼吸を吐ききるとぼくは背ビレを手に取った。


「うん……背ビレって言っても骨みたいなもんだし、長さ的に短剣よりちょっと長いくらいだし……ホネ短剣――骨剣と名付けよう……!」


 特に名前を付ける必要なんてない。

 でも付けた途端に愛着が湧いてくる気持ちに偽りはなかった。

 だからこそヒノにも名付けたんだし。

 あっちは愛着を持って接しても反応してくれないのが問題だけど……


 ぼくは傷の痛みに顔をしかめつつも、足取り軽く穴ぐらへと駆けだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る