第2話 セバスチャン・コールウェルを満喫する
「どう見てもユーファネート・ライネワルトじゃん。なんで?」
何度も手鏡を見てみるが写る姿に変わりない。希は諦めた様子でため息を吐くと、手鏡をベッドへ放り投げた。そして不貞腐れたようにベッドへ倒れ込もうとするが、ふと視線を移すと、いつもと様子が違う主人を心配するセバスチャンの姿が目に入った。
「セバスチャン・コールウェル」
「はい。なんでしょうかお嬢様?」
思わず名前を呟くと返事がくる。
次の指示を待つ幼きセバスチャンを眺め彼の事を考える。先ほどまで遊んでいた「
だが、学園で
そんなセバスチャンだが幼な姿である。とある人物が妄想を膨らませ、しょたセバスチャンの薄い本を作った。コミケでお披露目があったが一瞬で完売するほどの人気であり、その人気ぶりに通販までされた伝説ショタっ子セバスチャンが目の前にいるのだ。
「まあ、とある人物は私だけどさ」
月の光で輝くような銀髪。透き通る空を体現した青い瞳。数年も経てば、いや、現時点でも女性達が群がるであろう顔立ち。そして色気を感じるはにかみ。最推しはレオンハルトの希だが、その次のお気に入りはセバスチャンである。
そして妄想を爆発させたショタっ子状態で目の前にいる。これほど幸せな事はあるだろうか? いや、ない! そう心の中で絶叫しながら眺め続けていた。
「これは絶対に忘れちゃダメな光景。なんでスマホがないの? いや! 心のカメラで写真を撮ればいいのよ」
唐突に立ち上がった希は驚くセバスチャンを気にする事なく撮影を始める。突然の「ぱしゃ! カシャ!」と言いながら縦横無尽に動き出したユーファネート《奇行》にセバスチャンが後ずさり始めた。
「手を四角にされて何を?」
「気にしない! はい、もっと笑みを浮かべて! 上目遣をこっちに! いいよ! はい。拳を握って口元に。駄目だよ笑顔がないよ!
何を指示されているのか分からぬまま、要望に全て応えてくれるセバスチャン。モデルの才能が開花したのかと言いたいくらいの動きに、希のテンションが上がっていく。
数十分ほどの撮影会が終わり満足したのか、用意された水を飲むと、希はセバスチャンの手を取った。
「最高だったよ! いい写真が撮れた」
「お、お嬢様!」
突然、手を握られたセバスチャンは真っ赤な顔で焦ったが、希は気にすることもなくニギニギとしながら柔らかな手を満喫しながら物思いにふける。
「(手のひらサイズから年齢は10才くらいね。『君☆(きみほし)』シリーズ公式情報だったら、セバスチャン・コールウェルは18才だから8年前くらいかな? 特技は乗馬と剣術。趣味は紅茶。登場人物4位の人気を誇るキャラ。柔らかな笑みを浮かべ、相手を陥れる腹黒執事。決めゼリフは『私の為に微笑みなさい』)もっとセバスチャン情報が公式にあったはずだけどな」
「お嬢様。そろそろ手を放していただいても……」
「ああ! そうね。ごめんなさい」
主人であるユーファネートと近距離で接することがなかったセバスチャンの顔は真っ赤である。あまりにも恥ずかしそうにする様子に、この子本当に可愛いわね。そう思いながら希は話を変えた。
「そうだ。セバスチャンが淹れた紅茶が飲みたいわね」
「私が紅茶を習い始めたのをご存知なのですか? 昨日、始めたばかりですのに」
「あ、そっか。まだ始めたばかりなのね」
公式情報を元にした発言であった。趣味が紅茶なので軽い感じで行ってしまったのだ。だが、その情報はセバスチャンが18才時点であり、まさか習い始めばかりとは思わなかった。
そんな未来情報を知っているなどおくびにも出さずに、希は微笑みセバスチャンを見る。
「あなたの事なら(公式情報で)なんでも知っているわ。もちろん紅茶を習い始めなのもね」
「お嬢様がそれほど気にかけてくださっていたなんて! かしこまりました。すぐ用意いたしますのでお待ちください」
感動の表情を浮かべ、どこからか紅茶セットを取り出すと生き生きと準備を始めるセバスチャン。
「本当に紅茶が趣味なのね」
楽しそうに紅茶の準備をするセバスチャンを眺めながら希がつぶやく。ゲームでの腹黒執事イメージさは微塵もなく、その姿は主人に喜んでもらいたいとの気持ちと楽しいことをしている気持ちが溢れ出しており、初々しさマックスであった。
「こんな忠誠心全面に出してたセバスチャンが見れるなんて。この子、本当にセバスチャン・コールウェルなの?
「夢なのに色々と考えちゃうわ。ひょっとして現実で、流行りの転生とかだったら面白わね」
現実なら思考なのに。そんな想いが希の心に競り上がっていたが、どこか頭の隅では「そんなことはない」と思っている。なにかもやがかかったような気分で、この先どうしようかと希は考えていた。
ぱっと見た感じ憂いの表情を浮かべセバスチャンを眺める希だが、見られている当の本人は希の視線に気づいておらず、真剣な表情でケトルに手をかざし詠唱をしていた。
『指先に宿りし火の精霊よ。わずかばかりの力を我に与えよ』
「おお。ここでも魔法。生活魔法かな?」
セバスチャンの指先に薄赤色が灯りケトルに指先を当てる。しばらくするとケトル湯気が立ち上り始める。それを確認したセバスチャンはティーポットに
「えっと、茶葉を2杯。よし! あとは精霊様へ捧げる分を入れてっと。それから熱湯を注いで茶葉にダンスを踊ってもらう。あとは砂時計で時間を――あ……砂時計を忘れちゃった」
「ちょ! まって! 可愛すぎるだけど」
肝心の時間を計る道具の砂時計を忘れたことに気付いたセバスチャンが小さく震えていた。涙目になっていくセバスチャンに希の母性本能が爆発する。
「ショタっ子の涙目なんて控えめに最高すぎんだけど!」
そう叫んだ希はセバスチャンへ近寄ると思い切り抱きしめる。ほのかにいい匂いがしているなー。そんなことを思いながらくんくんと嗅ぎつつ希が抱きしめていると、セバスチャンの耳は真っ赤になっていく。
「お嬢様!」
「落ち着きなさいセバスチャン。時間なんて今は適当でいいのよ。私のために美味しい紅茶を淹れてくれようとする気持ちが嬉しいわ」
希はセバスチャンを抱きしめ、大昔に弟をあやしてたのを思い出しながら頭を撫で明るく数え始める。
「出来上がったら一緒に飲みましょうね」
「そんな。お嬢様とご一緒するなど恐れお――」
「いいからいいから。試飲は大事だから♪」
楽しそうにしている主人にセバスチャンが逆らえるわけもなく、また希の勢いに負けて一緒に飲むことは決定となった。
君☆公式情報
【セバスチャン・コールウェル】
「君☆(きみほし)」シリーズ全てに登場する主要キャラクターの一人です。薔薇の令嬢ユーファネート・ライネワルトの専属執事として登場します。常にユーファネートの背後に控えており、常に微笑みを浮かべています。ですが実際はかなりの腹黒で、人を陥れるのを何よりの楽しみとしています。
幼少のころにユーファネートから受けた数々の仕打ちで性格がひん曲がっており、セバスチャンの最終的な目標は彼女への復讐となっています。彼と仲良くなれば、ユーファネートの悪事に関する情報が得られるでしょう。
彼の特技は乗馬と剣術であり、特に剣術は国内有数の腕前です。また、趣味は紅茶であり、ユーファネート以外では彼に気に入られれば、美味しい紅茶を淹れてももらう事が出来ます。
彼の微笑みとルックスに密かに想いを寄せる令嬢も多いとか。
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