※語彙力低めでお届けしております。
#12 ねみい
しゃっこしゃっこしゃっこしゃっこ……。
:俺らは一体何を見てるんだろう……
:お嬢の歯磨きだよ
:そうだけどそうじゃない
:朝の七時からお嬢の歯磨きを見守る俺たちの人生ってなんなんだろうね
:意味なんてなくたって生きてんだから仕方ねえだろ
くちゅくちゅくちゅくちゅ。
:うおおおおおおおおくちゅくちゅだあああああああああああ!!!!!
:すばらしいくちゅくちゅにフロアも大盛り上がりですよ!
:これがお嬢のくちゅくちゅか……あまりにもレベルが違う……
:やっぱすげえよお嬢は、どうやったらあんなにくちゅくちゅできるんだ
:ヤケクソで盛り上がってるリスナーもいます
:朝から濃い奴らが沸いたなー
ぺっ、ぺっ。
:上手に磨けたね
:歯磨きできてえらい
:なんか謎の達成感あるな
:歯磨き配信面白かった~
:歯磨きで感動と勇気をありがとう……
:これで今日も一日頑張れるわ、ありがとなお嬢
:お前ら疲れてない? 今日休んだら?
ふあぁ……。
ねむ。
ちょっと目がさめてきたけど、まだねむい。
んー……。キャンプ、二日めだ。
なにしよ。
「白石さん、大丈夫ですか? もう一度顔洗ってきます?」
「へーき」
あおひさんだ。
だいじょぶ。いつも、こんなんだから。
朝は、こないとやだから起きるけど、あんまりすきじゃない。
ねむいし。
「あおひさん、あおひさん」
「はいはい、蒼灯さんですよ。どうかしましたか?」
「おはよう」
「おはようございます」
:おはようお嬢
:おはようございます
:今日も良い朝ですね
:挨拶は大事
:きちんと挨拶できてえらいぞ
……えと。
なんだっけ。なんか、ききたいこと、あったような。
あ、そうだ。おもいだした。
「なんでいるの?」
「家で配信見てたら、なんだか面白いことやってたので。様子を見に来たんですよ」
「……なんで?」
「友人が家出したら、心配にもなるでしょう」
「いえでなんて、してないよ?」
「おや?」
:家出説が否定された
:お嬢学会に激震走る――
:どういうことですかプロリスナーの方々
:お嬢は家出したんだって言ってましたよね
:責任問題ですよこれは
:しかしながらお嬢の生態にはいまだ謎が多く、我々研究者の間でも意見が分かれていて……
:インチキ学者ー! やめちまえー!
:落ち着いて! 物を投げないでください!
なんか、コメント、にぎやかだな。
よくわかんないけど。たのしそうだから、いっか。
「じゃあ、なんで急に迷宮泊なんかしてるんですか?」
「えと」
なんでって、そりゃ……。
……えっと。なんでだっけ……。
ああ、そうだ。おもいだした。
「しんりょう所? みたいな」
「診療所? こんなところで、ですか?」
「うん。ここだと、いいかんじ」
「いい感じですか」
:お、おう
:いつにもましてふわふわだが
:わかるようなわからないような
:すまん学会員、わかるように翻訳してくれ
:お嬢学会ならさっき焼き払われたよ
:知識弾圧されてる……
「なるほど……。つまり、迷宮内に出張診療所を開設して、探索活動をサポートしようってことですね」
「うん」
「それで、近隣に探索スポットが密集しているこの場所にキャンプを立てたと」
「うんうん」
:あー、そういうこと
:やるなあおひー……
:これはお嬢検定免許皆伝
:さすがは観測史上唯一の公的な友人とされる女
:え、お嬢って蒼灯さん以外に友達いないの?
:おいやめろ
:ライン越えやぞ
:いや、配信外で普通にいるだろ……たぶん……
:仮にいなかったとしても俺よりは多いから
:友達ゼロ人の奴もいます
:こんな悲しいフォローはじめて見た
リスナー、またへんなこと話してる。
あおひさんは友だちだ。
リリスをたおしたあと、入院してたら毎日お見まいにきてくれた。いろいろお話してたらなかよくなって、退院してからも、よく連らくをとっている。
だから、友だち。わたしはそう思ってる。
「相変わらずいい子ちゃんの塊みたいな生き物してますねぇ。努力が空振ってるのも、らしいというかなんというか……」
「だめだった?」
「いえ、ダメというわけではないですよ。ただ……。人って、来ましたか?」
「あおひさんが、はじめて」
「でしょうね」
:そりゃこんな場所で人知れずキャンプしてたらなぁ……
:俺らにだけでも教えてくれてたら行ったのに
:他の配信者に伝えてこようか?
:いやあ、鳩はダメなんじゃねえの
:善意とは言え、他の配信を邪魔しに行くのはちょっとなぁ
:俺らにもリスナーとしての弁えってものがあるゆえに
:ここに来て訓練されたリスナーどものマナーの良さが裏目に
あおひさんはむずかしい顔をしていたし、リスナーたちもコメント欄でなにか話しあっていた。
……なんだろう。まあ、来ないなら来ないで、ふつうにキャンプして帰ろうかなって思ってたんだけど。
「ちなみになんですけど、白石さん。ここに診療所を開いたこと、SNS上で告知とかって」
「わたし、SNS、やってない」
「……そうでした。この子、配信者なのにSNSやってない奇跡の子なんでした……」
あおひさんはむむむと悩む。悩ませてしまったらしい。
ややあって、あおひさんはぱちんと手を叩いた。
「わかりました。大切な友人のためです、そういうことなら喜んで一肌脱いでやりましょうとも」
「なにかするの?」
「お任せください。この手のことなら、まさに私の十八番なんですから」
そう言って、あおひさんはポケットからスマートフォンを取り出す。
彼女はわたしの肩を抱きよせて、高々と掲げたスマホの内カメラをこちらに向けた。
「インフルエンサー蒼灯すず。いざ、推して参ります」
カメラにウィンクをぱちんと飛ばして、彼女はぱしゃりと自撮りした。
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