(三)-2

 兄は口の中を濁したが、しつこく尋ねると、「彼女だよ」と告白した。

 その鼓膜の振動は、僕の頭の中を真っ白にした。

 支度を終えた兄は「お前は気をつけて帰れよ」と言葉を残し、玄関に向かった。

「ねえ、兄さん……。兄さんは、その……、あの人と結婚するの?」

 兄は右足と左足の靴を履いてから「さあな。そうかもな」とだけぼそっと答えた。

「ウソでしょ」

「さあな。別の女かもしれないし」

「そうじゃなくて」

「そうじゃない、って?」

「僕のことはもう大事じゃないの?」

「そんなわけないだろ」

「本当に?」


(続く)

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