(二)-10

 その後も、僕と兄は仲が良かった。

 蚊取り線香が焚かれスズムシの鈴の音が聞こえる寝室で、僕と兄は寝る前にときどき枕投げで遊んだ。

 するとその音を聞きつけた母が、寝室を覗き込みながら「早く寝なさい」と口唇を動かすのだ。

 そんなとき、僕たち二人はいつも「はーい」と口唇だけいい子になり、布団に横になった。

 そして布団に寝そべりながら、兄は「なる君、電気消して」と唇を動かす。

「お兄ちゃんが消して」

「なる君こそ」

「お兄ちゃんこそ」

 そして僕たちは笑い合った。

 すると母が部屋に入ってきて「ほら、さっさと寝なさい」と口唇で叱るのだ。

 僕たちは再び「はーい」と唇だけいい子になり、タオルケットを頭から被って口唇を閉じる。

 母が部屋の電灯のヒモを引っ張り、灯りを消して部屋を出て、ふすまを閉じる。

 そうして暗くなった部屋で僕たちはタオルケットから頭を出して笑い合うのだった。

 そんなことも、しょっちゅうあった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る