(二)-7

 そのとき、海ちゃんにシャツの袖を引っ張られた。

「ねえ、業平君。次はどこに行こっか?」

 海ちゃんは口唇にそう甘くささやかせながら、満面の笑顔で僕の手を取り、グイッと引っ張った。

 でも僕は、動けなかった。




「ウソじゃない」

 兄の部屋でそう言う兄に、僕口唇は「ウソだ!」と叫んでいた。

「それじゃあ、昨日の女の人はなんなの?」

「そういうお前こそ、あの女は誰だったんだ」

「彼女はただクラスメートだよ!」

「でも、キスしていただろう」

「兄さんだって!」

「俺はなぁ……、俺はずっとお前のことを、……昔からお前のことを、ずっと愛していたんだよ!」

 兄の口唇がそう大声を上げた。

「僕だってそうだよ! 僕だってずっと兄さんのことが好きだったのに……」


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る