第9話

 昼に園内を煌煌と照らしていた日差しは少し優しさを帯び、上野動物園の展示はクライマックスに近づいていた。フラミンゴやカンガルー、キツネザルといった自然に並んでいるだけで違和感のあるような動物が見える。

「動物園って、ワクワクしながら来るんだけど意外とすぐ見終わっちゃうよね。」

「わかる。張り切ってお昼くらいから行っちゃうんだけどね。」

「今日も張り切ってた?」

「張り切ってたよ、すごく。」時折彼女はこちらを試すかのような質問をすることがある。何度か、それに対してひっかけ返すように挑戦してみたが、いつも彼女は僕より上手だからいつからか諦めて正直に返事するようになった。

 動物園の展示が終わりに近づくにつれ、彼女から発される言葉が怖くなってきた。僕たちの関係の終わりが近づいているような気がする。彼女が「別れよう」と言ったらどうやって反応しようかと考え始める。「僕は一緒にいたい」と答えるべきか、それともこれで関係が終わりになるのか。一時間でも二時間でも話し込んで関係を継続させるつもりだった。

 アフリカの動物の展示を回り込み、もうすぐ最後のパンダが待っているところまで来ていた。道を回り込むと、すぐにパンダが見える。

 驚いたことが起こったのは、パンダが目の前に現れる寸前だった。

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