第7話
懐かしい妄想を終えると寂しさだけが残った。気が付くと、空は暗くなり始めていた。このまま何もしないでいると悪い妄想が始まりそうだったので、僕は夕食を食べに出かけることにした。自宅から10分ほど歩いて駅前の商店街に着く。閑静な自宅近くとは違い、ファストフード店やチェーンの定食屋が立ち並ぶ駅前の商店街は深夜まで騒音が止むことはない。僕は安さだけが売りの牛丼屋に入った。
食券機で320円の牛丼(大)を購入し、半円型のカウンター席に座った。店内は半円型のカウンター席が二つ、計20人ほどが座れる設計だった。同じ半円のカウンターには頭の頂点近くがバーコード状に禿げ上がった中年男性が肩を丸め、骨が浮き出そうなほど細身の白髪の老人がスポーツ新聞を広げている。半円型のカウンターの中から眼鏡をかけた店員が牛丼とみそ汁を届けてくれた。牛肉の隙間から白米が垣間見えている。掻き込むようにして牛丼を食べ終えると、禿頭の中年男性と白髪の老人よりも早くに店を出た。何となく、兄に電話しようと思った。
家への帰り道を半分ほど歩いたころ、スマートフォンを開いて兄に電話をかけた。兄はすぐに電話に出た。
「おう、久しぶり。どうした?」
心なしか、兄は彼女と鉢合わせる以前より穏やかに話すようになった気がする。
「久しぶり。別にどうというわけじゃないんだけど、何となく、電話かけようかと思ってさ。」
「なんやそら、珍しいな。瞳ちゃんとは、最近どうなんや?」
自分の行動を顧みない言い方に少し腹が立ち、ムキになって言い返すように言った。
「兄ちゃんが来た日からあんま話せてないよ。兄ちゃんのあの感じが嫌だったのかもね。」
「、、、は?俺のせいで喧嘩した言いたいんか?」
「そうかもね。」
「お前、何にも分かってへんな。そもそもお前が彼女に俺のことちゃんと紹介してりゃすんだ話やろ。なんで二人の喧嘩を俺のせいにしてくれてんねん。そんなもん知らんが。」
「うるさいよ。そうかもしれないけど兄ちゃんの感じが好きじゃなかったのは確かでしょ。それを言えば兄ちゃんがもっとちゃんとしてたら避けられたじゃんか。このまま別れたらどうしてくれるの?」
「なんや、別れそうなほど揉めてんのか?」
「そうかもね。」
少し怒った手前、動物園行くと伝えるかは迷ったが結局言うことにした。
「でも、今週の日曜日に一緒に上野の動物園にいくことになったよ。」
「おお、それはよかった。上手くいけそうなんやな?」
「そうかな、でももしかしたら、そこでフラれるかもしれないなと思って。」
「フラれる?なんで?」
「初めてデートに行ったのが高校生の時の動物園でさ。仲直りできていない時期に急に動物園に誘われるって、もしかしたらそこでフラれるのかもなって。」
「そうやったんか。そうか、、。うん。いや、大丈夫や兄ちゃんが何とかしたる!」
兄には彼女と初めてのデートで動物園に行ったことも、。
「いや、いいよ。兄ちゃんは関係ないでしょ。」
ちょうど自宅アパートに着いたので、そう言って電話を切った。
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