終/ニルワヤの檻
①オリオン社製の大型犬用ケージ(屋根付き)
②南京錠(シリンダータイプのもの)
③一週間分のミネラルウォーター
④自動餌やり機(中にはコーンフレークなどを入れておく)
⑤ペット用カメラ(記録用のメモリカードは大目に用意しておくこと)
番号が大きくなるごとに優先順位も下がっていく。が、一応快適な檻生活を営むのであれば一通り手抜かず用意することをおすすめしたい。最下位に置いたペット用カメラなど不要と主張する向きもあるが、これがあるのとないのとでは心持ちがまるで違う。カメラのレンズがこちらを向いているだけで、程よく諦めてしまおうという甘えた気持ちがずいぶん引き締められるのだ。人間の眼球でなかったとしても、何かの『視線』があるというだけで緊張感が芽生えるのである。だから決しておざなりにしていい品ではない。とはいえ無論、相対的に順位が下がるのもまた事実だった。当然、檻の中での生活に当たってもっとも重要なのはカメラなどよりまず『檻』そのものである。私的な調べではオリオン社の製品が、仕上げも使い心地もいいようだ。溶接がしっかりしているのと、他社よりも重量において勝っている点が決め手といえよう。犬猫の使用を想定するなら造りの甘い安物でも問題ないのかもしれないが、人間となれば話は別だ。寝返りを打った拍子にケージが横転してはたまらない。しっかりしたものを選ばなければ、逆さまになった檻の中で死ぬまでを過ごすなどという情けない事態になりかねないのだ。南京錠をシリンダー式に限定するのもやはり同じ理由である。ダイヤル式などは故障や偶然で、はたまた自分自身のちょっとした弱音で容易に開けられる節がある。シリンダー式の錠前であれば、施錠ののち鍵を窓の外にでも放ってしまえばまず開くことはない。一週間分の水を飲み干し自動餌やり機の中を平らげ、死に向かっていく過程でも、綿密に用意した檻と錠前はあらゆる妨害や弱音から自分を守ってくれるのである。
なお、妻帯者を始め家族と同居している者は、まず自分以外の全員をそれぞれ檻に閉じ込めてから計画を実行すべきであろう。警察だの救急だのに通報されたり、檻を壊され要らぬ『救出』などされてしまっては何もかもが台無しだ。
準備が済んだら、あとは檻の中に閉じこもって日々を暮らすだけでいい。勃起しながら、笑いながら、安らかに死ぬまでを過ごすのだ。
いつか、あの少年や母親の気持ちがわかるときがくるだろう。
ああ、知りたい。
彼らの心が、ただ知りたい。
だから、さあ、檻の中で——
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