ニルワヤの檻

亜済公

序/ニルワヤの檻

〈日本国憲法 第十一条〉

 ——国民は、文明的かつ文化的に振る舞うことを条件に、すべての人権の享有を日本国政府によって許される。


   □□□


 冷たい、歪曲した壁に囲われていた。

 板張りの床には、誰かの小便が鏡めいて広がっている。

 辺りは暗く、肌寒かった。

 周囲に蠢く無数の人が、

 ぜいぜいと嫌らしくあえいでいる。


 眠い。

 瞼が、蝋のように溶け始めている。


 わたしはボンヤリと部屋を見回し——濃密な人間の臭いを嗅いだ。


 彼らは誰だろう?

 彼らは何をしているのだろう?

 いや、そもそも——


 ここはどこだろう?


 ——ねぇ、どうかしたの?


 不意に、声が聞こえた。


 眠い。

 ああ——眠い。

 溶解する瞼を拭いながら、声のするほうに目を向ける。


 女だ。

 裸の女が二人、淫猥な腰つきをして立っている。

 ナメクジのように白い皮膚が、

 暗がりにボウッと浮かんでいた。


 眠い。

 あくびをしながら、


 ——ああ、そうか。


 おそらく自分は、

 この女たちを抱くためにここにいるのだ。


 そんなことをボンヤリ思った。


 女たちはどうしてか、布袋のような真っ白い仮面を被っている。

 右の乳首の少し下に、

 小さな可愛らしいほくろが見えた。


 ごうん。

 どこかで鐘が鳴っている。

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