第35話 「どうしてこうなった」
––––––––大変な事になってしまった。
はたして、これは俺のせいなのだろうか。
今日は決闘の一日前と言う事で、俺は久しぶりに屋敷へと帰った訳だ。
その際に”折角だから”と、何が折角だったのかは不明なままカルディアさんも屋敷まで付いて来たのだが、つい先程までの俺は別に問題ないと思っていた。
……そして、今に至る。
「私の弟子を奪っておいて、どの面下げて屋敷まで来たんだカルディア!そもそも君は弟子なんて取るタイプじゃないだろう!?第一何で急にイメチェンなんてしたんだ、そうまでして人の弟子を奪いたかったのか!?」
「オマエに何と言われても、ワタシを選んだのはノベルですよ?ふふ、敗者が吠えている様は惨めですね」
「––––––––よし、表出ろ。長年座して機を待ち続けた君なんかよりも、今の私の方が強いと証明してやろうじゃないか」
「へえ、これまで一度も勝てなかった癖に良く言えましたね。その蛮勇に免じて、安い挑発にも乗ってあげましょう」
屋敷のエントランスで、かつて見た事のない剣幕の師匠と師匠が煽りあっている。
現在はギリギリで言葉のナイフだけが飛び交っているが、いつ周囲を消し飛ばせる火力の魔術が放たれてもおかしくはない。
「……これ、俺のせいなのか?」
「そうですねー……まあ、ノベルさんが悪いと思います!やっぱり浮気って駄目ですねー、世界が滅びかねません」
「やっぱり俺のせいなのかなー……レクシー、貴方はどう思います?」
「うん、私も浮気は駄目だと思うな。私は世界こそ滅ぼせないけど、君を不意打ちで半殺しにするくらいなら出来るし」
「何故、浮気の話から流れる様に俺を暗殺する話へ変わったんです?恐怖でおちおち眠れませんよ」
俺は理解した。
もはや、この世に安全地帯は存在しないと。
そもそもの話、他の人に師事するのを浮気と表現するのはおかしいだろう。
––––––––師匠達は、本当に屋敷の外へ行ってしまった。
怖いもの見たさで見学したくなるが、その場合流れ弾に当たらない様に気を張り続けないとならないのは少し面倒だな。
などと俺が考えている内に、師匠達は帰ってきた。
両方とも一切消耗しているそぶりはなく、また傷一つない健康体での帰還だ。
別に、本気で戦う気は無かったのだろうか。
少しだけ残念だが、まあ戦いの余波で屋敷が壊されなくて良かったと考えた方が健全だろう。
「……戦うだけでは分からない事もあるねえ、うん。という事で少年、真の師匠は私だと声高らかに宣言して貰えないか?」
「オマエは都合良く負けた事実を隠さないで下さい。ノベル、一度ワタシを選んだ以上は逃しませんよ?何せ、秘密を共有した仲ではありませんか」
「秘密?また聞くべき事が増えたね、ノベル。別に、交友関係や師弟関係に口を出す気はないけど……良くないと思うな、そういうの」
「何がですか!?とりあえず三人とも落ち着いて下さい、話はそれからです」
……やっぱり、本当に俺が悪いのか?
別に俺は何もしていない筈なのに、客観的に見たらただの修羅場だなコレ。
解決方法が全く頭に浮かばないが、どうしよう。
そうだ、せめてテラスさんに助けを求め––––––––居ねえ!
身の危険を感じた結果、先に避難したな?
居たところで多分助けてはくれなかっただろうが、不在なのはもっと困る!
「レクシー、また後……具体的には明日の決闘が終わった辺りで説明しますから、今は一旦矛を収めてください。いや本当にお願いします」
「……了解。でも、次は無いからね?」
「はい、ありがとうございます。大丈夫、貴方の事はいつでも大切に思っていますから。心配しないで下さいね」
「ふふ、そっか。嘘でも嬉しいよ、ありがと」
「……少年。誰にでもその調子なら、いつか絶対刺されるぞ?」
師匠、余計なお世話です。
嘘を吐くことに何の躊躇いもない俺でも、レクシー以外には言いませんよ。
「そして師匠……今のは両方に向けてです。別にどちらが真とかそういうのはありませんし、俺はお二人へ平等に感謝していますからね」
「へえ。何年も教えてきたオマエと、数日間寝食を共にしただけのワタシで同じだけの感謝量らしいですよ?それなら、実質的にワタシの方が師匠です」
「平等、というのは別にそういう意図ではないだろう?我が弟子は実に優しいからなあ、一応君にも配慮したのだろうよ」
「は?昔からオマエはそんな感じですよね、大事な時だけ理解者面して。やっぱりもう一度表に出ましょうか、今度は本気で––––––––」
そして師匠達はまた、玄関の扉へ向かって歩き出す。
これはアレだな、俺が喧嘩のダシにされているだけなやつだな。
多分このまま付き合っていたら朝になるし、もう寝よう。
……部屋の前に盛り塩でもしておけば、安眠できるだろうか。
「あーあ、死ぬ程疲れました。むしろあの二人、めちゃくちゃ仲良いですよね。ああいう気の置けない関係って正直憧れますよ」
「本当?私、もうちょっと喧嘩した方がいいかな」
「どうしてそうなるんですか。傍に居るだけで十分気が休まりますから、どうかそのままでいて下さい。でないと俺が死にますよ、ストレスで」
「そう?あ、そういえば今の内に聞いておきたい事があったんだけど……結局のところ、あの人って何者なの?ほら、ノベルの新しい師匠」
これまた師匠……ヘルメスが聞いたら怒りそうな発言だが、まあいいとして。
カルディアさんに関しては、俺も分からない点の方が多いままだ。
現状分かっている情報だけでも、十九世紀頃にこちらの世界へ転生した人で、水晶で作った人形に記憶とかを移して生きている魔術師で、この街を作った張本人で、ヘルメスとも深い繋がりがあるらしくて––––––––
「俺も良く知りませんけど、学院長らしいですよ?」
「へー。え、真実?」
「真実です。いやあ、最初に聞いた時は驚きましたよ」
レクシーが目を見開いたまま固まってしまった。
この反応をするのは本気でショックを受けている時だけなので、よほど驚いたのだろう。
……明日の決闘、楽しみだな!
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