第14話 「勇者を目指し学院へ」
俺とレクシーが結婚し、父上の仕事の補佐をする。
そんな、実に分かりやすく安定した未来を俺は放り投げた。
理由は複数あるが、やはり一番は魔術の鍛錬に割ける時間を減らしたくなかったからだ。
貴族の責務や家の存続等々、大切な事の理解も一応しているが……それでも、俺は基本が自由人気質なのだろう。
そもそもの話、俺に貴族は向いていない。
これまでは基本ハッタリで誤魔化してきたが、他家の当主などと話す機会が生まれてしまえば簡単にボロが出る筈だ。
とはいえ、流石は俺達と何年も向き合ってきた父上。
こちらが拒否する事も予め予定の上だったらしく、しっかり二つの案が用意されていた。
そんな訳で、後が無くなった俺は内心怯えながら父上の発言を待っていた……の、だが。
「前提として、学院の存在は知っていますよね?家の緊急時には私の指示に従う、という条件は付けさせて頂きますが……学院に在籍するのなら、基本的に不干渉を貫くと約束します。貴方達にとって、悪い条件では無いでしょう」
実際に提示された案は、俺達にとって都合が良すぎるものだった。
セル・ウマノ魔術学院。
ただ学院とだけ呼ばれる事の多いそれは、世界で唯一どの国からも独立した魔術専門の教育機関だ。
国家に所属しないその性質上冒険者ギルドとも深く繋がりがあり、在籍するほぼ全ての生徒が冒険者資格を有するエリート集団でもある。
この世界に貴族として生を受け、その存在を知ってからは密かに憧れていたのだが––––––––まさか本当に入学のチャンスが得られるとは。
「父上、何か裏があったりします?」
「しませんよ、私を何だと思っているのですか。野望はありますが、誓って貴方達を騙しはしませんとも」
「なるほど、野望とはこれまた不穏ですね。一応聞きますが内容は?」
「……資格」
「はい?」
「だから、冒険者資格ですよ。冒険者資格に等級があるのは知っているでしょう?プロスパシアの歴史は長く、かつて冒険者だった者も多いですが……残念ながら、冒険者の頂点に辿り着いた者は誰一人として存在しません」
ギルドでは冒険者の強さと功績によりランク分けされ、それにより受けられる仕事や利用できる権利が変わる。
C、B、Aの順に昇格し、それらの頂点に立つのがSランク––––––––通称、勇者。
この世界において、最強を示す称号だ。
「その悲願を、俺達に達成しろと?」
「ええ。貴方達に可能だとは思いませんが、挑戦し続ける以上可能性はある。学院へ入学する以上は、どこかで冒険者資格も取る事になるでしょう。再三に渡り言いますが、悪い話では無い筈です」
「学院はあくまでも、冒険者になる為の最短ルートという訳ですか」
「その通りです。当然、学院で学び研究する分には問題ありません。ただ一つ、取り組むべき課題が増えたと思って下さい」
そうだ、これは決して悪い話では無い。
こちらが真面目に上を目指しているかなんて知りようが無いのだから、最悪資格を取るだけ取って後は放置でも大丈夫な筈だ。
冒険者という立場を利用し、立場も何もかも忘れて一人で旅するのも悪くない。
本当に実行する場合、家の皆にもレクシーにも申し訳ないが。
「その提案、俺は乗ります。学院も冒険者も、元々興味はありましたから」
「了解しました。レクシー。君はどうしますか?」
「私?私は何でもいいよ。ノベルが居て魔術も使えるなら、何でも」
「本当です?一応言っておきますが、俺はそこまで万能じゃないですよ」
「知ってる。でも……いや、何でもない。私も学院へ行くって事で良いよね?」
「構いませんよ。学院へは近日中に出立して頂きますから、準備があるなら早めに終わらしておいて下さい。では、話はこれで終わりです」
父上に無言で圧をかけられた為、レクシーと共に退室する。
あそこまで分かりやすく”これ以上話したくない”みたいなオーラを出さなくても良いとは思うのだが、それ程までに俺たちとの会話が面倒なのか?
もっとも、これまで自由奔放に過ごしてきた結果の態度なので、今後態度を軟化してもらえる日は来ないだろうな。
まあ、過ぎた事は置いておくとして。
どうやら無事、俺たちの当面の目標と課題が決まったらしい。
目標は一応、最強最優の冒険者を目指す事であり––––––––
課題とは、学院へ入る方法である。
「さて……どうします?」
「え、何の話?」
「学院の入学試験ですよ。既に知っている物として俺も父上も話していましたが、もしや完全に忘れています?」
「あー……忘れた。でもあれだよね、確か結界を消し飛ばせばいいやつ」
「一応は合っていますが、流石にそれは理解が大雑把すぎません?」
学院の入学試験は、二つの項目から成り立っている。
そして一つ目の試験が、文字通り学院に”入る”事なのだ。
正確には、学院周辺に広がる魔術街ベンターナを囲む様に張られた大結界を通り、魔術街へ足を踏み入れる事と言った方がいいだろうか。
この試験最大の特徴は、結界を通る方法が自由である点。
結界を強引に破るも良し、何らかの魔術で結界を透過して入るも良し。
当然、結界に入る為の鍵を誰かから貰っても良し。
特別難易度の高い試験では無いが、それでも考え無しで通過出来る物でも無いだろう。
「ノベル、結界破りは得意だよね。いつものやつで行けたりしない?」
「俺のは準備が必要ないだけで、別に効果は普通ですから……試す価値はありますが、流石にそんな簡単な話では無いでしょう。鍵は父上が持ってるかもしれませんが、多分貸してはくれないでしょうし」
「……うん、そうだね。普通に私の魔術で破れたりは?」
「可能性は高いと思いますよ。とはいえ、一つの手段に頼るのも怖いですしね。俺は俺で、幾つか方法は用意してみるつもりです」
「了解。私も面白そうな方法は探してみる」
レクシーと別れ、俺は家の書斎へ移動する。
結界を破るのに使えそうな魔術と……学院へは馬車か船で行く事になるだろうから、酔い止めになる魔術でも探してみるか。
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