第11話 「どうぞよろしく好敵手」

「……という訳で、検証といこうじゃないか少年!」

「おー。で、結局何するの?今の所、ノベルが変って事しか分からないんだけど」

「その言い方は悪意がありませんか!?」

「ははは、二人とも楽しそうで大いに結構!さて、まずはこれから始めようじゃあないか!楽しい楽しい実験の始まりだ!」


 とんでもなくハイテンション……というより、どこかヤケになっているヘルメスから渡されたのは、良い感じの棒。

 ではなく、れっきとした魔術用の杖だった。


 杖を使用する魔術の特徴は、何と言ってもその手軽さだ。

 詠唱魔術と違い、杖に魔力を込めるだけで簡単に魔法陣が描けてしまう。

 追加詠唱で魔術の挙動を変化させる事は出来ないが、その代わり詠唱を短縮したせいで威力が落ちる様な事もない。

 魔術自体の仕組みを詳しく理解する必要性も無い為、軍に所属する魔術師の殆どは杖を使っているらしい。

 

 ただ、杖を使う魔術にも当然欠点はある。

 というのも、予め杖に刻んでおいた魔術しか発動出来ないのだ。

 その為、杖一本だけでは対策されると詰んでしまう。


「で、師匠。この杖には何の魔術が刻まれているんですか?」

「おお!今、私の事を師匠と呼んだね!いやあ、こんなにも一瞬で心を開いて貰えるとは!何ならレクシーよりも君の方が懐いているのでは?」

「そんな事言ってるから駄目なんだよ、ヘルメス。それで、杖の中身は何なの?」

「ああ。そいつに入ってるのは爆破魔術エクリクシス。本来なら、予め設置した魔法陣の前方に爆発を発生させる魔術だが……君なら魔法陣の設置無しで好きな場所を爆は出来ないかい?出来るのなら大変愉快な事になるからねえ、期待してるよ!」


 期待されても出来るかはまだ分からないのだが、まあやるだけやってみよう。

 

 意識を杖に。

 集中して、魔術を撃ちたい場所を見ろ。


「––––––––”エクリクシス”!」


 空気が揺れる。

 爆音が響く。

 圧倒的なエネルギーを持った爆発が、何もない場所から生み出された。


「……普通に使えますね。これ、本当に準備が必要な魔術なんですか?」

「そりゃあそうだろう?ほら、杖を貸してみろ。そもそも発動出来ないからな」

「本当です?」

「本当だとも!見てろよ––––––––”エクリクシス”!」


 静かな部屋に、師匠の声だけが響き渡る。

 ……使えないというのは本当らしい。


 * * *


 その後も、様々な魔術や道具を用いた検証は続いた。

 俺の持っているらしい”異能”の本質を探る為だと師匠は言っていたが、何回も何回も精神干渉系統の魔術をかけられたり、よく分からない魔術薬を飲まされたりしている内に、体よく人体実験の被検体にされているのではとも思ったが––––––––


「……とりあえず、今日の所はこれで終わりだ。ソレの仕組みは分からず仕舞いだったが、一応最低限の情報は得られたから良しとしようじゃないか!」


 一応、終わりはあったらしい。


「で、結論から言ってしまおう。君のソレは、に由来した物だ。見えている範囲であれば、多分ありとあらゆるを省略出来る」

「準備?すみません、いまいちどこの事を指しているのか……」

「一番多いのが、魔術の発動場所を決める為の魔法陣。エクリクシスやイグニッションの発動には本来必要な物だ。それ以外だと、事が条件の魅了魔術チャームとかも魔術準備に入るかな。細かい例を出してもキリが無いし、これ以上知りたければ自分で魔導書を漁ってみてくれたまえ」

「なるほど?一応理解はしましたが、実際の所その能力……異能って強いんです?」


 今更ながら、俺は異世界転生してから一度も良い所が無かった。

 分かりやすい俺だけの強みみたいな物が何か一つ欲しいと、前々から思っていたのだが……困った事に、俺は魔術に詳しくない。

 この異能で何がどう便利になるのかの検討が付かないのだ。


「うーん、だねえ!いや、強いよ?どう考えてもメチャクチャ便利。でも……君みたいな本物のイレギュラーは、極々稀だが生まれるものだ。私でも知っているのは数人程度だが、全員が少なくとも君よりは派手な異能持ちだからな……」

「……いや、もうちょっと言い方は選んで貰えません?」

「まあまあ、あるに越した事はないから良いんじゃない?」

「それはそうですけど……ぬか喜びしてしまった感はどうしても拭えませんよ」


 俺以外にも、この手の異能を保持している人は居るのか。

 気になる様な、あまり会いたくない様な……


「ま、これ以上の話は次にしてくれたまえ。それと……ノベル、君にも宿を渡しておこうじゃないか」

「宿題?」

「そうだ、宿題。君もプロスパシアの所の人間なら、基本的な魔術知識は学ぶ事になるだろうが……それだけでは少ないだろう?という訳で、次までにはこれを読み終わっておいてくれ」


 そう言って師匠が渡してきたのは、すぐ側に積んであった魔導書の内の一冊だ。

 

 ……そういえば、俺がプロスパシアの人間だって師匠に伝えていたか?

 なんて疑問を師匠に投げかける暇も無く、レクシー共々店から追い出された。


「はー、疲れた。未翻訳の魔導書なんて、読み方を調べるだけでも何ヶ月掛かると思ってるんですかあの人……無茶振りが過ぎますって」

「大丈夫、言葉を教えるくらいなら私がやってあげるから」

「本当ですか?それは助かります。何から何まで頼ってしまうのは少し気が引けますが、これからもよろしくお願いしますね」

「うん、よろしく。今後とも私の競争相手として、期待してるから」


 何かライバルにされてしまった気もするが、決闘相手になって貰えるのなら願ったり叶ったりだ。


 夕焼けの中、屋敷を目指し二人狭い路地を進む。


 

 








 


 


 

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