第12話 これは全て笑い話だ
ごくりごくりと破片ごと、彼女の胃に収まっていく。そして、最後の一滴まで飲み干すと、空になった皿を机においた。陶器とテーブルがぶつかる音は、酷く乾いた音だった。
「りんごのポタージュと、アタノールで取れたルビーもどきはよく合うわね」
首を傾げたソレイユが、顎をくいっとする。合図を受けた筋肉隆々の給仕たちが、聖女を無理やり立ち上がらさせると、
絶望の顔をして身動ぐが、未だに口を開くことができず、「呪文」が唱えられない聖女。彼女は気づいてないだろうが、更に生命力を極限まで吸われたら、逃げる気力すらなくなるだろう。
とにかく、相手は曲がりなりにも英雄学園の卒業生。念には念を入れ、逃亡防止の適切な処置をしなければ。お金を返しきる前に逃げられるなんて、間抜けなことはしたくはない。
「これもまた、神が与えた運命ね」
ソレイユは、にっこり笑いながら、彼女に手を振る。可愛らしく口紅が塗られた唇の端からは、新鮮な赤い血が流れ出た。
「そのレプリカの髪飾り、質屋に抵当として入れといて。
次々と覆い被さる地獄、聖女の瞳からはついに涙が流れるが、ソレイユは少しも動じることはない。男の胸元に戻り、その分厚い胸板にしなだれ掛かる。
待っていたとばかりに、お互い視線を交わし、血に溢れた口内のまま唇を重ねる。
鉄臭く、不味い、けれども、二人は止まらない。
聞くに耐えない下品な水音が奏でられる。
ドロリとした血と唾液が混ざったものは、全て男の中へと流れ込んでいった。暫くして、満足したのか離れた二人の唇。ソレイユの口紅と血のせいで、お互いの唇を酷く汚していた。けれど、二人には関係ない。周りは見えないと言わんばかりに見つめあい、瞳には愛する人しか映さない。
「最高だよ、俺のお姫ちゃま」
「ええ、だって、ラブリィちゃんが最高だから!」
態とらしい、台詞のような愛の言葉を紡ぎ、二人は両手を恋人繋ぎして、大きく笑った。
「「アハハハハハハッ!」」
何が面白いのかわからない。ただ、二人は酷くおかしいとでも言うように、大きく笑いあった。その笑いは、店の客たちに伝染し、また一人一人と笑い始める。
そして、最後は大きな笑い声となり、アタノールの街全体へと響き渡った。
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