第六十話 真剣勝負
今まで直接殺しあったことはないが何度も共に戦ってきた二人である。
お互いの力量はわかっている。
弓を得手とするシャルラと、大槌を軽々ふるうミミエル。
狭い室内という状況は明らかにミミエルに有利であった。また、時間もミミエルの味方である。
王の義弟、もしくはリムズが送り込んだ刺客の正確な人数はわからないが、時間と共にウルクの警邏が集まるだろう。そうなればシャルラがラバシュムを殺す機会は永遠になくなる。
ほぼありとあらゆる要素がシャルラにとって不利に思え、それをシャルラ自身も認めていた。それでもシャルラが有利な要素は。
たん、と軽く後ろに下がり矢を番える。
驚くほど滑らかな動作はミミエルの追撃を一瞬遅らせた。
その間隙にシャルラは狙いを定める。目標は当然。
ラバシュムだ。
「え」
彼の何度目になるかわからない呟きが終わるよりも前に矢が飛来する。風のように迫る矢を。
「こん、のお!」
あろうことかミミエルは空中で掴んだ。
おそらくラバシュムを狙うだろうと予測し、事前に手を伸ばしておいたのが功を奏した。しかし矢の勢いを殺しきれず、態勢を崩しかけたところをぐるりと回転して強引に均衡を保つ。
ひとつひとつが信じがたい絶技だった。
回転した勢いのまま再び矢を番えるよりも早くとびかかろうとして。
「何よこれ……手が……重い!?」
矢を掴んだ手が金属のように重くなっており、動きが鈍った。よく見ると矢には黒々とした布が巻かれていた。
「私の掟よ。『触れたものを重くする掟』」
ミミエルがシャルラの行動を読んでいたように、シャルラもまたミミエルの行動を読み切っていたのだ。
二の矢を放ったシャルラの狙いはミミエルだった。
避ける間を与えない。
しかしミミエルはすんでのところで銅の槌を出現させて防いだ。しかし槌を保持できず、弾かれた。掟のせいで思うように構えがとれない。
一度守勢に回れば反撃に転ずるのは難しい。ましてや腕が重ければなおさらだ。
三度、矢を番える。
それをさせまいとミミエルは自由である足を動かし、蹴りの態勢をとる。
(あなたの足癖の悪さはわかっているけれど……いくら何でもその距離じゃ……)
彼我の距離はおよそ五歩。冷静にミミエルの攻撃を無視……できなかった。
「!?」
ミミエルの足が届いた。
より正確には、足に履いていたサンダルが届いた。思わず明後日の方向に矢を放つ。
「こ、こんな小細工で!」
シャルラの憤りを無視してミミエルは一気に迫る。だがわずかにシャルラが四度目の矢を番える方が早い。
目の前のミミエルとは距離が近すぎ、絶対に防御が間に合わない。
ぎりぎりの瞬間に、矢を放つ。
ふっとミミエルの体が沈んだ。
足払いを警戒してシャルラは脚の力加減を整える。だがミミエルはそんな予想をあざ笑うかのように側転しながら蹴りを放つ。
数千年後の未来においてはカポエラの逆立ち蹴りに近い動きだっただろうか。
かろうじてそれを躱すシャルラ。
だが真に目を疑ったのは次だった。
ミミエルが足の指でシャルラの衣服を掴んでいたのだ。
(サンダルを蹴ったのは、このため!?)
逆立ちしながら腰のひねりを加えたミミエルは恐るべきことに逆立ちした足でシャルラを投げ飛ばしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます