第二十四話 アラッタへの道

「いいえ。僕が求めるのはアラッタへの安全な道。それだけです」

「ほーん。へーん。ふーん。そんだけでいいんか?」

「はい。僕はアラッタへの遠征軍へと合流しなければなりません」

「あー……確か何日か前にめちゃ多くの人間がなんか移動しとったか」

「はい。もともとはその軍に同行していましたが、体調不良によって単独行動をとることになりました」

「仲間のもとに戻るんか。それはお前のためになるんか?」

「もちろんです。僕は誰かに助けてもらわなければいけない不甲斐ない人間です。だからこそ仲間のために全力を尽くさなければならないのです」

 夫婦のアンズー鳥は顔を見合わせ、頷いた。

「ええやろう! わしがお前を運んだる!」

「運ぶとは……まさかあなたが乗せてくださるのですか?」

「あったりまえやろ! 男に二言はないで! そら、はよ乗り!」

「あほ! 背中に乗っけたら飛んでる時に体勢崩れるで! エタちゃん! すまんけど足に掴まってもらえんか」

「えっと、こうですか?」

 木の幹のような足にエタはしがみつく。

「おっしゃほんじゃいってき」

 母鳥はこともなげに言い放ち、力を溜めるように少し後ずさりした。その様子に少し嫌な予感をしたのはエタだけではなく、父鳥も同じで、奇妙な声を出してしまった。

「え?」

「へ?」

 しかし身構えるまもなく、母鳥はその翼で父鳥とその足に掴まったエタを巣から叩き落とした。

「うそやろおおおお!?!?」

「えええええええええ!?!?」

 ひゅるひゅると風を切る音と共にエタと父鳥は落下する。

 名残惜しそうに上方からエタを眺める雛鳥は笑顔だった気がした。

「ふんぎぎぎぎぎっぎ! こんなもーーーーん!」

 気合を入れた父鳥が落下しながらも翼をはためかせ、態勢を立て直す。

 すると落下の勢いそのままに水平に空を飛ぶ。

(う、わ)

 高所からの落下にあまりいい思い出の無いエタだったが、今度の飛行はとても爽快だった。

 眼下の森も、遠くにそびえる山も、風を切る音も、何もかもが新鮮で、恐怖感をあおるがそれが愉しみとなる。

「はは! どうや? 人間やと空飛ぶなんて初めてやろ?」

「いえ。これで二度目です。でも……今回はとても楽しいですね」

 石の戦士から逃げるために、ザムグを置いて飛び降りたあの時は命の瀬戸際であり、それ以上に後悔で満たされていた。

 今は、違う。

 ただただ青が突き抜けていくだけ。

(できれば……この光景を他のみんなにも見せてあげたかったな)

「ははははは! なんやとんでもない人生送っとんなあ! ま、安心しとき。すぐ着くわ」

 確かにアンズー鳥の飛行はとても速く、人の足ではとても出せない速度を出している。

 これなら今日には追いつくだろう。迷宮から出ても無事なところを見るとアンズー鳥は迷宮で生まれた魔物ではないのだろう。

「せやからなんか聞きたいことあるんやったら聞いとき?」

「では、遠慮なく。あなたの子供が襲われたのは……迷宮の謎々ですか?」

 あの時は必死だったので疑問を感じなかったが、掟で守られている木の上に蛇がいるのはおかしい。

 雛鳥を助けるかどうか。

 それこそがこの迷宮の最後の試練だったのではないか。

「ははははは! さあ、どうやろな?」

 あっさりとはぐらかされてしまい、エタもこれ以上聞く気はなかった。世の中には結論を出さなくてもよいことがあるのだ。

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