第四十三話 再戦
エタたちは再び戦士の岩山を訪れた。もちろん高山の掟の核も携えて。
まずは高山の掟の核によって起こる高山病に慣れるため、もともとあったトラゾスの居留地を利用することになった。
時期を見て戻ってくるつもりだったサリーはあえて持ち歩きにくい生活用品などを運びはしなかったのだ。
シュメールの面々がそれを利用するのは必然と言えた。
そして数日暮らし、環境に慣れたところで行動を開始した。
石の戦士の最初の標的に選ばれたのは『石膏』だった。
理由は二つ。
比較的近くを周遊する石の戦士だったことと、それほど強くはないためだ。
「あれで強くないって言うのも難儀ね」
実際に戦い、相手に損傷を与えたミミエルの言葉は重かった。
ちなみにリリーはミミエルがたった一人で『石膏』と戦い、損傷を与えて生還したことを決して信じなかった。
石の戦士はトラゾスにとって戦うのではなくやり過ごす嵐のようなものなのだ。
「つうかさあ。あれ、本当に必要なのか?」
縄で手を縛られ、不満げながらも大人しくついてきているリリーの声だった。野営地に残していくという案もあったが、目の届かないところにいられるより手元にいたほうが二重の意味で安全という理由で一緒に戦士の岩山を歩いていた。
「うん。『石膏』を完全に倒すにはどうしてもあれが必要なんだ」
あれとはエタが『石膏』を倒すために野営地に用意した物品の数々だった。
あれに対してリリーはやはり訝し気な様子を隠せないが、他の面々は特に疑っていない。
エタを信頼しているというのもあるがもはや議論をしている場合でないのだ。なにしろ、遠目に『石膏』が見えているのだから。
重々しく、飛び跳ねながら、しかし無音で白い顔の石像が近づいてくる様子はやはり奇妙で、不快だ。
「まずは『石膏』の能力を封じます。ターハさん、ラバサルさん、シャルラ」
前回の経験から、『石膏』の音を消す能力とその対処方法はわかっていた。
「ええ!」
「おう!」
「わかった」
シャルラが矢を番え、ターハがそこらに落ちてある石を振りかぶる。ラバサルは居留地で拾った布から簡単な投石器を作って石を振り回していた。
矢と投石。この二つは徐々に近づいてくる『石膏』を打ち据える。
しかしやはり巨大な岩石である石の戦士は表面こそ削れるが、致命的な損傷にはならない。
「着地する瞬間を狙いましょう」
『石膏』の移動方法は独特だが、着地する時わずかに立ち止まる。その時が狙い目だった。
ターハとラバサルはそこら辺の石を使えばいいし、シャルラには『尽きぬ矢』の掟がある。飛び道具がなくなる心配はないが、有効打を与える前に近づかれたくはなかった。
おそらく『石膏』ならあと五歩ほどで攻撃される距離に入る。そしてもうすでに何の音も聞こえない。敵の能力の効果範囲に入ったようだ。
音が聞こえなくなるというのは集団行動をしているこちらにとって圧倒的に不利なのだ。
だからまずそれを潰さなければならないのだが。
『石膏』の右耳にシャルラの矢が。左耳にターハの投石が当たった。投石が妙な軌道を描いていたのはターハの掟『投げたものを曲げる』手袋の効果だろう。
両耳を潰された石膏は着地の衝撃を殺せず、巨大な顔が横倒しになる。
「当たったわ!」
「よっしゃあ!」
シャルラとターハが快哉を叫ぶ。それはつまり石膏の能力が切れたということ。
どういう理屈なのかは不明だが、『石膏』の耳を潰すと能力も消えるらしい。
さらに耳を潰されると『石膏』自身も弱体化する。それを証明するかのように『石膏』は起き上がろうとしているが、苦しむように不安定にぐらぐらと揺れている。
そしてもちろん。
そんなわかりやすい隙をミミエルが見逃すはずもない。
エタが気づかなかっただけで耳が潰されたと同時に、シャルラとターハが喜ぶよりも先に、オオカミのごとき疾走で『石膏』目前に滑り込んでいた。
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