第十八話 戦士の脅威
山羊を押しつぶした石のトンボが去っていく姿を遠目で見送る。
シュメールの面々は言葉もない。あれだけの暴威を見せつけられては無理もない。
「ほ、本当にあれと戦うんですか?」
ザムグの声は震えていた。
エタとしてはこの偵察の目的の一つを達成できてほっとしていた。石の戦士の強さを見せつけ、皆、特にザムグたち新人が軽率な行動をとらないように念押ししたかったのだ。
「いや、さすがにあれと正面からは戦わないよ。冒険者ギルドの作戦だと囮組と攻略組に分かれる予定らしい」
全員が少しほっとする表情になったが、一方で気になったのは自分たちがどちらの組かということだ。
「僕らは攻略組。くじ運がよかったね」
「そうは言っても囮に引っかからねえやつもいるかもしれん。エタ。石の戦士ってのは何体いるんだ?」
「全部で十一体ですね。トンボ、竜、石膏、強き銅、勇士六つ頭の牡羊、イナゴ船、なつめやし、アンズー、七つ頭の蛇。主人。これらが石の怪物となって襲ってきます」
「ちょっと。十体じゃない? 一つ足りないわよ?」
「ああ、もともと十一体いたらしいんだけど、一体は三十年前に倒したらしいんだ」
「よく倒せたよなあ。でも百年もあったらもう二、三体倒せてもよさそうなもんなんだけど」
「それが……どうも石の戦士は一度倒してもそのうち復活するようです。ですが倒した一体はなぜか復活していないみたいですね」
身を削る思いでようやく倒せそうな怪物がまだ十体。
しかも倒してもきりがない。
「……この迷宮が攻略されなかったわけがよくわかったわね」
ミミエルの言葉に全員が無言でうなずいた。
これは力でどうにかできる相手ではないのだと、誰もが理解できた。
「ひとまずこれで偵察は終わりですね。皆さんは先に戻っていてください」
「おめえはまだ用があんのか?」
「はい。例のトラゾスが占拠している場所に行ってみようかと思います」
今までいた社員はもちろん、ザムグたちでさえ不安そうな顔をした。
さすがに一人で潜在的な敵勢力のど真ん中に行かせられないと主張したミミエルが同行することになった。
エタの一人で行っても大丈夫と言う意見は全員が反対という圧倒的多数決により黙殺された。
トラゾスの拠点は戦士の岩山の南西側にある。
エタたちはウルクから近い戦士の岩山西側から南西側に移動していた。
「ふう。ちょっと足場が悪くて疲れるね」
「あんたがひ弱すぎるのよ。ていうか、わざわざなんでトラゾスなんて奴らに会うのよ」
エタは息を切らしているが、ミミエルはエタの前方やや左を悠々と歩いている。
エタはミミエルが自分の左側に立つことが多いことに気づいていた。
おそらく左目の視力がなくなっているエタを気遣ってのことだろう。
エタは以前の戦いでメラムを纏った掟を使い、左目の視力を失った。それそのものは全く後悔していないのだが、やはり不便である。
ものを掴もうとして逆に落としたり、壁にぶつかりそうになったこともある。それを見かねてこんなことをしているのだろう。
それを直接言わず、行動だけで示すあたりがミミエルらしいと思っていた。
「あの人たちはどうやってかわからないけどこの迷宮攻略で成果を上げているからね。見るだけでも何かわからないかと思ったんだ」
「見ただけでわかるの?」
「どうだろうね。でも見なければ絶対にわからないよ」
「ま、そりゃそうだけ……!!!!」
ミミエルは突然厳しい目つきになると、自らの掟である銅の槌を出現させ、エタの死角から飛んできた石を弾いた。
「誰!?」
誰何しながら右手に銅の槌を持ち、左手で服から黒曜石のナイフを取り出して投擲する。
エタには何が起こったかわからないほどの早業だった。
勢いよく飛び出したナイフが巨大な岩にぶつかりガキンと耳障りな音を立てた。
「きゃ、きゃあ!?」
「う、うわ!?
「「え……?」」
エタとミミエルはぽかんと口を開いて驚いていた。
岩の陰から腰を抜かして出てきたのはザムグたちよりも年下の少年少女だった。
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