第四十四話 諍い
四人が固唾をのんで空洞に降りる。
木の根が人の胴体よりも巨大な宝石に巻き付いていた。緑色の燐光を発するそれは神秘的というほかない。
間違いなく、迷宮の核。
「これだけでかい核を見たのはずいぶん久しぶりだな」
ラバサルが昔を懐かしむように呟く。
「まじかよラバサルのおっさん。あたしは初めてだよ」
「あたしは迷宮の核自体見るのは初めてね。さ、エタ。さっさと踏破しなさい」
「うん。ありがとう」
三人はことここに至っても抜け駆けしようなどとは思っていなかった。これだけの迷宮を踏破、あるいは攻略したとなると得られる利益は莫大だ。
だがそれでも、三人とも、それよりも大事なものがあると、そう思ってくれているのだろう。
エタが一歩前に進み、携帯粘土板を核に押し当てる。
「牧畜と植物、再生と豊穣を司る我が
祈りを捧げると迷宮の核にタンムズの神印が出現する。これで踏破はなされたのだろう。
「エタ。よくやった。これでおめえの両親も助かる」
「よかったな!」
ラバサルとターハは笑顔でエタをほめてくれている。
ミミエルは言葉こそないものの、見たこともないほど穏やかに微笑んでいた。
ひとしきりもみくちゃにされた後、空洞から抜け出すと、洞窟内に大勢の誰かが入ってくる気配があった。
全員、身を固くし、備えた。
先頭に立っているのは禿頭で皮鎧を着こんだ男、灰の巨人のギルド長ハマームだった。部下を十数人ほど引き連れている。四人がいないことに気づき、足跡を見つけて尾行でもしたのかもしれない。
「てめえら、ここで何やってる」
怒りを押し殺そうとして失敗した声音だった。
「見てわかるだろうが。迷宮を攻略してる、いや、踏破したんだよ」
ラバサルがハマームの怒りを意に介さずあっさりと切り返す。
「できるわけねえ。このまだらの森は俺が何年もかけても攻略できなかった迷宮だぞ」
「つまりよお。あんたよりもよっぽど有能な奴なら十日くらいで踏破しちまうってことなんじゃねえの?」
ターハの皮肉にハマームは炎のような視線で返答した。
だが、その怒りは本来部下であるはずのミミエルにより強く向けられた。
「ミミエル! お前、どういうつもりだ!」
「あら。どういうつもりも何も、こういうつもりよ。迷宮を踏破した。それだけよ。迷宮の探索は冒険者の本分でしょう?」
「何で迷宮を踏破したって聞いてんだぞ!?」
「じゃ、逆に聞くけどなんで踏破しちゃいけないのよ!」
「ふざけんな! ここは俺の迷宮だぞ!? この粘土板にもそう記してある! 俺以外が踏破していいわけあるか!」
ハマームは自分の粘土板を突き付ける。確かにそれにはまだらの森の優先探索権が記されているのだろう。
だが冒険者憲章によると迷宮は誰のものでもないと記されてある。あくまでも探索する権利であり、所有しているわけではない。無論、そんな正論を突き付けても余計に逆上するだけだろう。
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