第三十四話 誰がいなくなるのか

 当初エタは慣れない森歩きで足を痛めたりしていた。

 木の根につまずいて、灰の巨人の冒険者から𠮟責を受けることも多々あった。しかし今はすいすいと歩くことができる。

 それは単純に慣れてきたのと、まだらの森に出入りする人間が多かったために道が切り開かれ、踏み固められたことが原因だ。

 だが、それ以上に今日の探索はあまりにも進みやすすぎた。

 大白蟻がほとんど現れなかったのである。古参の冒険者たちも普段なら喜ばしいが、ギルド長が定めた目標に到達できないな、などと愚痴をこぼしていた。

 この時点では、たまたま大白蟻がいなくなっただけ。明日にはまた現れる。今日はごく普通の日常に過ぎないと考えていた人間がほとんどだった。

 そうではないごく少数の一人であるミミエルは手を打ち鳴らしてから号令をかけた。

「さあ! 今日の作業は木の伐採に変更よ! さっさとやりなさい!」

 やや弛緩した空気を引き締めるために発破をかける。大多数の人間はそれに従ったが、あえて動かずにいたエタに食って掛かった。少なくとも周囲からはそう見えただろう。

「そこ! いつまで怠けてんのよ!」

 ずんずんとエタに近づき、小声で呟いた。

(確認したけど他の奴らもほとんど大白蟻の姿を見てない。見たとしても大黒蟻が大白蟻を襲っているところだけ。多分、大白蟻の数が減って大黒蟻も飢えてるのね)

(教えてくれてありがとう。明日やるよ。ターハさんには君から伝えてくれる?)

 会話を瞬きのうちに済ませた二人はすぐに叱る、叱られるという表面上の関係を再構築し、周囲の目を欺いた。

 まだ、誰も彼らの計画が最終段階を迎えたことに気づいていない。



 翌日。

 大白蟻がいまだに現れず、訝しむ灰の巨人とニスキツルから隠れるようにひっそりと、エタ、ミミエル、ターハ、ラバサルの四人は抜け出し、道から外れた場所で会合する。まず口を開いたのはエタだった。

「できればもう少し待ちたかったですが、僕にはもう時間がありません。付き合ってくれますか?」

「ま、しょうがないわね」

「おうよ!」

「わしは初めからそんつもりだ。迷宮の核の位置はわかってんのか?」

「見当はつけられます。こちらにどうぞ」

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