⨕11:意外ェ…(あるいは、四面占めん/底抜けにそうか沿うかソーカー)
とまれ、表情筋の全てが力を失って真顔未満の
俺の方は結局、小型ショベルよりは幾分マシだろうと思って、だが本当に掛け値なしの上半身のみしか無かった「
全長五m弱。今はその下半分が無いのでちょうど俺の目の高さくらいにのっぺりとした
うん、やっぱ
「……」
例の若僧くんは若僧くんで半身創痍でのたうつようにフレームの構造がよく分かる「征駿機」の上部の操縦席まで作業員たちの手によって何とか引き上げられた感じだったものの、滑り込むようにしてそこに乗り込んだかと思ったら、甲高い金属音声を格納庫の隅々まで響き渡らせながら次の瞬間、なめらかにも程があるほどの自然な挙動で、滑るように先に行ってしまっている。うぅん撒き餌あるいは囮としては役に立ってくれるやも知れぬか……
本機の両腕の挙動は良好。その先端部は「三指」であるが、「掌」部はかなり広く作られており、縦横に走る切れ目のところで内側に折れ曲げられるということも確認できた。様々な鉱石塊をしっかりと保持するための機構だろうか……ありがたい。こいつをうまく使えば……
「……!!」
やや遠巻きにこちらの動きを見守っていた作業員の皆々様方からのおお、というような驚き声の漏れが聴こえてくる。長年の経験で掴んだ「感じ」というやつを信じて、一発ひょいと「立ち上がって」みた。腕を脚代わりに。っていうのは割とありがちな運用方法と思ったが、そうでもねえようだ。まあ「
「立った」時の感じでこの機体の大体の重心は捉えることが出来た。後はそれを「片手」を持ち上げた状態にも応用していけばいい。俺は天性の勘とでも言えばいいか、それ以外にはうまく説明出来ねえが、ともかく自分の感覚が命じるままに目の前のスイッチ群を手の甲を使って次々と倒していき、レバーを引き、また戻し、さらに回すように操っていく。
がちょんがちょんというような、やってることの難易度と比べるといささか緊張感も颯爽さも無い歩行音を響かせながら、もう見えなくなった若僧くんの後を追うと、ほどなく視界が四角く切り取られた明るさから全面全方位に展開していく。機体の
前回の「暗・狭」とまるきり違って、「明・広」な
レーダーで探知、とかが出来りゃあ有難えんだが、当然各機に装備されているわけでもない。そもそも今操縦してる奴は前線に出すなんて想定すらしていなかった奴でもあるし。ザザッという
「戦場」の雰囲気とは、まったく似つかわしくない、穏やかな昼下がりのような空気感……
「……」
先ほどまであれほど緊急放送的なものや警報じみたものが鳴り響いていたにも関わらず、いざその局面へと移行すると、場は完全静寂一歩手前の、こちらの耳鳴りを催させてこんばかりの静けさに否応なく支配されていくのだということを、初めて知った。
そんな物思いにふけっている場合でも無い。「目標」二体は今やはっきりとした指向性を持って、この鉱掘場、その正にの鉱石層面がぞろり広範囲に露出しているところの此処……「第三盤壁」と呼称されている、北側に向いてそそり立つ、東西に張り出したその崖状の岩壁目指して進行中……とは姐ちゃんの通信機を通した伝達によって先ほど為された。
背後が、見上げるどころか遥か上空でこちら側に湾曲してきていて覆いかぶさらんばかりの威容を誇る「壁」である。それに背後を護られていると言えなくもなく、大まかだが「北側」一方向に注意を向けていれば取り敢えずは大丈夫、なはずだ。
<
とか思ってたら、脱力を促してくる通信が間が悪く入ってくる。興奮してるのか何なのか知らねえが、またよく分からないキャラ付けが入ったかのような珍妙な訛りの金切り音が、ノイズとどっこどっこいの耳障り感でこちらの鼓膜をつんざこうとしてくるよ本当に大丈夫だろうか……と、
<接近、約三十m、に一体>
落ち着いていながら、鋭く端的な声。端末の向こう側では姐ちゃんが自ら
ぼ、僕ぁ、左サイドに位置する方が利き目からするとよろしいんだな……との口調のあやふやさと真逆なほど的確に俺の考えを汲んだかのような即応通信を受けて、何だ割と阿吽で行動できるんじゃねえかとの期待は募る。
<私の方は割と長距離まで届く『得物』を携えていますがゆえ……肉弾接近戦にお持ち込みの際は、そちらにてお願いしまするぞ……>
そして喋る言葉は数秒ごとくらいにどこかの郷から郷へと移り移ろうかのように不安定であったものの、そのふわふわした感じとは裏腹に、いや、頼もしいまであるじゃあねえか……狙撃可能なライフルでも装備してんのかよ、そういうのって許可なく持てるもんなんだろうか。それともあの「組織」とやらのまたも都合の良い特権か何かなんだろうか、まあ何にせよ使えるものは使わせてもらうし、使っていかなきゃ厳しい状況だ。だが、何とかなりそうなくらいまでの目途は立ったとも言える。
作戦と言うほどでも無いが、若僧くんが左を固め射撃、そして俺が右から迂回するように動いて一番野郎に肉迫、その背後を突く……つまり、
「了解だ。ハサミ討ちの形で行くぜ……ッ!!」
敢えて溜めてまで言う必要は無かった気もしたが、こういう気合い入れも案外馬鹿になんないんだぜ……急速に深度を増してきた視界と、クリアになる意識。自らの意志で出張ってきた初めての「戦場」だが、問題ねえ。何か分からねえが滾るものが肚の底には燻ぶっていやがる。そいつの命ずるままにやりきってやるまでだぜぇぁッ!!
――昂燃メモその14:説明しようッ!! とかく冷笑しつつ己の無知を追いやっては逆に日々に流されているような常態なるものの、他者から受ける影響がうまいこと大脳のどこかにキマってしまうと、それに盲従する厄介性質も秘めているのであるッ!!――
目測で三十m辺りを俯瞰するように注視を試みる。風はややある。それによってそよぐ木々の天頂。が、そこに一点の違和感。確かな指向性を持ってこちらに向けて進んで来るようなさざめき。
「……ッ!!」
そこだ、と思わず声に出していたが、それより前に、ぷひょ、というような間抜けな音ともに、正しく俺が異変を感じたその場所へと、緩い放物線を描きながら、何かが視界を横切っていった。残像も描かないほどのゆっくりもったりした速度と挙動にて。何だ? 槍でも投擲したのか?
<ハハッ、取り敢えず急造ではありまするが、『杭打ち機』のいちばん出力の高い奴を調達して参り、その『弾頭』に例のあの『粉』をまぶしている次第……弾着したのならばそのままその場に
いやぁそんなキメをするほどの攻撃じゃねえような……いかに鈍重でも飛んでくるのを視認してから着到まで丸三秒くらいはあるモノに対しては多種多様な選択肢の中から最適なやつを充分吟味した上で選び取れそうだぁ……
そんな、脳では力無い思考に支配されつつ、目では力無い弾道を追いつつ、が、そんな悠長な間を感じさせる暇も無く、
「!!」
全長三十cmくらいの「杭」状の……まあ杭なんだが、が撃ち込まれる前に、その着弾点であっただろう所から葉々を突き破り散らしながら現れたのは。
高みから見下ろしていたこちらの視線を軽くまたぎ越さんばかりの超跳躍をカマしてきたのは。
「……ッ!!」
その黒い虚無的な質感は見覚えがあったが、鈍重でも軟体でも無さそうな、例えるならば
何もかもが想定通りには進まないことに心の中で白目を剥きながらも、おそらくはその野郎の着地点がこの
んんんん~、どうせいっちゅうねへぇ~ん……
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